株式の持ち合いとは?メリット・デメリットや解消が進む理由などを解説
2023年9月27日
このページのまとめ
- 株式の持ち合いとは、複数の株式会社間で相互に株式を所有していること
- 株式持ち合いのメリットは敵対的買収の防衛や経営の安定化、企業間の関係性強化
- 株式持ち合いのデメリットは資本効率の低下や共倒れリスクがあることなど
- 株式持ち合い解消が加速している理由はバブル崩壊や制度改定、海外投資家の圧力など
- 株式持ち合い解消方法は第三者への売却、または自社株の買取り
「株式の持ち合いはなぜ行われてきたのだろう?」とお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。以前は、各企業や金融機関などで多くの株式持ち合いが行われていましたが、現在は解消が進んでいる状況です。
本コラムでは、株式持ち合いの目的や歴史的経緯、メリット・デメリットなどを解説します。また、株式持ち合いの解消が進んでいる理由や解消する場合の方法なども紹介しています。
目次
「株式の持ち合い」とは?
株式の持ち合いとは、複数の株式会社間で相互に株式を所有している状態のことです。株式の持ち合いは、「株式相互保有」と呼ばれることもあります。
株式の持ち合いは2社間に限らず、3社以上で実施されるケースもあります。また、経営権に影響を与えない程度の比率の株式をお互いに取得することが一般的です。
株式の持ち合いは、資本提携の一種でもあります。資本提携は広義のM&Aです。
株式の持ち合いなどの資本提携では権利の移転はなく、出資をして両者の協力関係を築きます。
株式の持ち合いを行う目的
株式の持ち合いの主な目的の1つは、安定株主の存在により経営の安定化を図ることです。それぞれが持ち合い株式を所有し続けることで、経営に安定感をもたらします。
取引先と株式の持ち合いをした場合、関係性が強化されて取引の活発化や長期化が望めるでしょう。また、企業グループ内で株式の持ち合いを行えば、結束性が高まり、よりスムーズに協業が進みます。
さらに、株式の持ち合いは敵対的買収に対する防衛策にもなります。
株式の持ち合いが始まった経緯
株式の持ち合いが始まったのは、1940年代後半とされています。第二次世界大戦(1939~1945年)後、日本では財閥が解体されました。そのため、財閥グループを形成していた各社は、個別の企業となります。それらの企業が、少しでも以前の関係性に近づこうとして株式の持ち合いを始めました。
高度経済成長期の1960年代に入ると、海外企業の日本進出が盛んになりました。そこで、海外企業による敵対的買収を警戒し、その防衛策として株式の持ち合いがさらに進んだのです。
そして、バブル期(1986~1991年)には、投機目的で株式の持ち合いが盛んになりました。しかし1991年のバブル崩壊により経営が悪化する企業が増え、株式の持ち合いを解消する動きが強まりました。
現在では、株式の持ち合いは解消する、あるいは行わない傾向が続いています。
株式の持ち合いを行う3つのメリット
株式の持ち合いには以下のようなメリットがあります。
- 敵対的買収の対策につながる
- 経営の安定化が期待できる
- 企業同士の結びつきが強くなる
それぞれのメリットについて説明します。
1.敵対的買収の対策につながる
敵対的買収とは、対象企業の経営陣の同意を得ずに過半数の株式取得を目指して行われる買収のことです。上場企業の場合はTOB(株式公開買付け)によって実施されます。経営陣が過半数の株式を保有していない非上場企業の場合は、既存株主との相対取引で行われます。
このような際に、取引先や金融機関、系列企業などとの間で株式の持ち合いを行って安定株主の比率を高めておけば、敵対的買収を失敗に終わらせる、あるいは仕掛けさせない効果を発揮できるでしょう。
2.経営の安定化が期待できる
株式の持ち合いは経営の安定化をもたらします。
株式を所有する株主は株主総会の議決権を有し、経営に意見することが可能です。しかし、株式の持ち合いを行っている当事会社は、それぞれの経営陣に反対意見などを述べず賛成するのが不文律となっています。
持ち合い株式数の分は株主総会の賛成勢力といえます。株式の持ち合いによって賛成勢力を増やすことで、経営陣の方針どおりの施策を遂行しやすくなります。
3.企業同士の結びつきが強くなる
株式の持ち合いによって、企業間の関係性を強められます。代表的な例は資本業務提携です。業務提携だけでは関係性・結束性が弱いと判断された場合、株式の持ち合いなどを行う資本業務提携に切り換えるケースがあります。株式の持ち合いを行うことで、より強固な関係性を形成することが可能です。
また、一般企業と金融機関との間で株式の持ち合いを行うケースもあります。金融機関との友好性が高まり、資金調達面で有利となるでしょう。
株式の持ち合いを行う3つのデメリット
株式の持ち合いには以下のようなデメリットがあります。
- 持ち分が少ない株主の意向が反映されにくい
- 資本効率が低下する
- 持ち合い関係にある企業が共倒れになるリスクがある
それぞれのデメリットについて説明します。
1.持ち分が少ない株主の意向が反映されにくい
株式の持ち合いをしている企業の保有株式数が多いほど意見が割れず、経営は安定します。その反面、一般株主など少数株主の意見が反映されにくい環境になります。
株主には経営に参画する権利があるわけですが、結局持ち合い株式の株主の賛同によって物事が決定されてしまうことになり、株主総会が空洞化してしまうでしょう。経営陣の方針次第では、ダイナミズムに欠けた保守的な経営に陥ってしまうおそれがあります。
2.資本効率が低下する
株式の持ち合いを行うには、株式を取得する資金が必要になります。本来、その資金は事業に投資すべきところを、株式の持ち合いのために用いることになります。そのため、資本効率が低下します。
一般の株主は、企業が成長することに期待して出資しています。
株主から集めた資金を成長につながる事業に用いず、持ち合い株式の取得費用に転じさせることは、株主の期待を裏切る行為とも取られかねません。
3.持ち合い関係にある企業が共倒れになるリスクがある
バブル崩壊時に見られた事象として、株式の持ち合い企業の共倒れがあります。
一方の企業の業績が落ちて株価が下がると、株式の持ち合いをしている会社の経営も不安視されて、ともに株価が下がってしまいます。株価の下落幅次第では、企業価値を大きく下げてしまいます。
株式の持ち合いにおける「議決権の制限」とは
会社法第308条では、株式の持ち合いの割合によっては、議決権を制限することが定められています。
たとえばX社とY社が株式の持ち合いをしているとした場合、X社がY社の株式を4分の1以上有しているとき、Y社は議決権を持てません。同様に、Y社がX社の株式の4分の1以上を持っているのであれば、X社もY社の株主総会における議決権を制限されます。
参照元:e-Gov法令検索「会社法第308条」
株式の持ち合いを解消する動きが進む4つの理由
株式の持ち合いを解消する動きが進む理由として以下の4点が挙げられます。
- バブルが崩壊したことによる資金繰りの悪化
- 金融ビッグバンによる会計基準の変更
- 企業統治指針(コーポレートガバナンスコード)の改訂
- 海外を中心とした投資家からの圧力
それぞれの理由について説明します。
バブルが崩壊したことによる資金繰りの悪化
バブルの崩壊で株価は下がり、持ち合い株式の保有企業は多くの含み損を抱えることになりました。実質純資産額の低下や不況などの影響により、資金繰りも悪化していきます。
そこで、株式の持ち合いをしてきた各企業は、資金を手に入れるために株式の持ち合いを解消し、持ち合い株式を売却して現金化しました。
金融ビッグバンによる会計基準の変更
金融ビッグバン(1996~2001年)とは、金融制度改革のことです。世界基準に匹敵するように日本の金融市場を変えることが目的でした。この制度改革の一環で、持ち合い株式は時価評価額で計上し、バランスシートの資本の部に計上するように変更されました。
この変更により、持ち合い株式の含み益が出れば株主資本利益率が下がり、持ち合い株式の含み損が出れば自己資本比率が下がるという困った事態に陥りました。その結果、株式の持ち合いの解消が進みました。
企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の改訂
コーポレートガバナンスとは、上場企業における企業経営の統治のことです。企業が健全な経営を行うよう、監視・統制を行います。
コーポレートガバナンスコードとは、そのガイドラインのことであり、2015年6月に金融庁と東京証券取引所が共同で制定しました。
コーポレートガバナンスコードの中で、上場企業が株式の持ち合いをする場合、合理的な理由を説明することが義務付けられています。これにより株式の持ち合いに対するハードルが上がり、株式の持ち合いを解消する1つの原因になっていると考えられます。
海外を中心とした投資家からの圧力
海外の投資家から、株式の持ち合いについて大きな批判が寄せられたことも、株式の持ち合い解消の理由の1つとされています。
具体的な批判内容は、事業に投資すべき資金を株式購入に充てているという「資本の空洞化」や、株主総会の賛成勢力となることによる「株主総会の機能不全」、資本関係にある会社間で取引内容の改善が行われないことによる「非効率な取引の放置」などです。
株式の持ち合いを解消する2つの方法
株式の持ち合いを解消したいときは、合意をとったうえで手続きを進めましょう。一方的に解消を進めた場合、それまで築いてきた信頼関係が壊れてしまう恐れがあります。
株式の持ち合いを解消する方法は、主に以下の2種類です。
- 第三者への株式売却
- 自社株式の取得
それぞれの方法について説明します。
第三者への株式売却
株式の持ち合いを解消する方法の1つは、自社が保有している持ち合い株式を第三者に売却することです。相手探しと売却価額の交渉がポイントになります。
上場企業の株式の場合、株式市場で売却する方法もありますが、一度に大量の株式を売却すると株価が大きく下落するかもしれません。相手企業への確認と合意が必要です。
自社株式の取得
株式の持ち合いをしている相手企業が保有している持ち合い株式を、自社が買い取ることでも株式の持ち合いを解消できます。自社株式の取得を行う場合、株主総会の特別決議での決定(過半数の株主が出席し、その3分の2以上が賛成)が必要です。
上場企業の場合は、相手側に株式市場で売却してもらい、株式市場で買い戻す方法もあります。この場合は、事前公表の義務があるので注意しましょう。
まとめ
企業間の株式の持ち合いは、経営の安定化や関係性の強化などを目的に、かつては広く行われてきました。しかし、バブル崩壊後、株式の持ち合いのメリットよりもデメリットが目立つ状況になったことに加え、会計基準の変更やコーポレートガバナンスコードの制定、海外投資家からの圧力などの要因で、解消する傾向が強まっています。
株式の持ち合いなどの資本提携は広義のM&Aですが、M&Aにはさまざまなスキーム(手法)があります。自社に適したM&Aスキームを選択し、経営課題の解決や成長戦略としている企業は増加中です。株式の持ち合いを検討する場合は、ほかのM&Aスキームの検討も合わせて行うとよいでしょう。
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