繰越欠損金とは?利用のルールや節税方法、M&A時の取り扱いについて解説

2023年9月27日

繰越欠損金とは?利用のルールや節税方法、M&A時の取り扱いについて解説

このページのまとめ

  • 繰越欠損金とは次期事業年度以降に繰り越せる欠損金のこと
  • 繰越欠損金を使えば過去の赤字と今期の黒字を相殺できる
  • 仕訳では「繰延税金資産」勘定を使って処理する
  • 繰越欠損金は、利益が多い期に活用すると、節税効果が高い
  • M&Aでは繰越欠損金に制限がかかることがある

「青色申告の特典のひとつである繰越欠損金とは何だろうか」と疑問に思う方もいるでしょう。繰越欠損金とは、将来に繰り越すことができる欠損金のことです。過去の赤字(繰越欠損金)と現在の黒字を相殺することができるため、法人税の負担を軽減することができます。

この記事では、繰越欠損金とは何かという基本、ルール、仕訳などについて説明します。また、M&Aをした場合の繰越欠損金の取り扱いについても解説します。

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繰越欠損金とは

繰越欠損金とは、欠損金繰越控除制度上の次期事業年度以降に繰り越せる欠損金のことを指します。

欠損金繰越控除制度とは、各事業年度の法人税負担を軽減するための制度です。法人は黒字のときもあれば、赤字のときもあり、その年度によって法人税額が大きく変化します。そこで、同制度により赤字を将来に繰り越せるようにし、毎年の法人税の負担を平準化できるようにしているのです。

ただし、繰越欠損金を利用するには、法人の所得金額が黒字でなければなりません。何期にもわたって赤字が続いていると、繰越欠損金による節税はできませんし、繰越欠損金の期限も到来してしまいます。繰越欠損金の利用にあたっては、黒字と相殺できるかという回収可能性が重要になります。

参考:国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除

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繰越欠損金を利用する際のルール

ここでは、繰越欠損金を利用するためのルールについて説明します。

1.繰越欠損金を利用できる法人

法人が繰越欠損金を利用するには、以下の条件を満たしている必要があります。

  • 当該欠損金が生じた事業年度に、青色申告書を提出している
  • その後の各事業年度で、連続して確定申告書を提出している

法人税の確定申告には青色申告と白色申告の2種類があり、繰越欠損金を利用するためには欠損金を計上した事業年度に青色申告書を提出している必要があります。なお、その後も確定申告書を提出する必要はありますが、青色申告である必要はなく、白色申告でも繰越欠損金で黒字を相殺できます。

2.繰越欠損金で控除できる金額

法人が利用できる繰越欠損金の金額は、以下のように企業規模に応じて異なります。

  • 中小法人等:所得の全額まで損金算入できる
  • 大法人等:所得の50%まで損金算入できる (2018年4月1日から開始事業年度のもの)

中小法人等とは、通常、普通法人のうち資本金額か出資金額が1億円以下の法人を指します。中小法人に該当する場合、当該事業年度の所得の全額と繰越欠損金を相殺することが可能です。一方、大法人に該当する場合は、当該事業年度の所得の50%を限度に繰越欠損金を算入することができます。

なお、中小法人等に該当する場合であっても、100%子法人等に該当する場合は中小法人には該当しません。100%子法人等とは、資本金額か出資金額が5億円以上の法人に完全支配されているか、完全支配関係がある複数の大法人に全ての株式を保有されている普通法人のことを指します。

3.繰越欠損金の損金算入の順序

2018年4月1日以降に生じた繰越欠損金の繰越期間は、10年間です(2018年4月1日以前に生じたものは9年間)。その間、2つ以上の事業年度で赤字が発生することもあるでしょう。このような場合で繰越欠損金を利用する際は、最も古い事業年度の繰越欠損金から損金算入する決まりになっています。

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繰越欠損金で重要な「税効果会計」とは

繰越欠損金を理解するには、税効果会計について知っておく必要があります。

税効果会計とは、企業会計と税務会計の乖離を修正するための処理のことです。企業会計とは収益と費用をもとに利益を算出する会計を指します。しかし、収益や費用には税務上馴染まないものもあるため、必要な項目を加算・減算して調整します。この処理を一般的に「税効果会計」といいます。

繰越欠損金は、本来であれば会計上の数字ではありません。しかし、税効果会計における「将来減算一時差異」と同様の効果があるため、繰越欠損金は損金算入項目として扱われます。そのため、黒字を出した年度の所得を減らすことができ、その年度の法人税の負担を軽減するのに役立つのです。

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繰越欠損金を利用した場合の仕訳方法

繰越欠損金を仕訳する場合は、「繰延税金資産」と「法人税等調整額」という2つの勘定科目を使うことになります。ここでは、繰越欠損金が増加するケースと減少するケースそれぞれの仕訳について確認します。

繰越欠損金が増加する場合

繰越欠損金が発生した場合は、貸借対照表の資産である「繰延税金資産」勘定が増加します。この繰延税金資産に対応する勘定科目は、繰延税金資産の増減を表す「法人税等調整額」勘定です。たとえば、300万円(実効法人税率30%)の繰越欠損金を計上した場合は、以下のような仕訳を行います。

(借方)繰延税金資産:90万
(貸方)法人税等調整額:90万

繰越欠損金が減少する場合

繰越欠損金を使用する場合は、「繰延税金資産」勘定を減少させます。また、このときも対応する勘定科目は「法人税等調整額」勘定です。たとえば、課税所得が120万円(実効法人税率30%)の場合は、以下のように仕訳を行います。

(貸方)法人税等調整額:40万
(借方)繰延税金資産:40万

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繰越欠損金を計上するときのポイント

繰越欠損金は、計上するタイミングによって節税効果が大きく変化します。たとえば、課税所得が500万円の場合と1,000万円の場合で、500万円の繰越欠損金を活用すると、以下のようになります。

課税所得繰越欠損金を利用しなかった場合の税額500万円の繰越欠損金を利用した場合の税額節税額
500万円75万円(500万円×法人税率15%)0円75万円(75万円-0円)
1,000万円166.4万円(800万円×法人税率15%+200万円×法人税率23.2%75万円(500万円×法人税率15%)91.4万円(166.4万円-75万円)

資本金1億円以下の普通法人の場合、法人税率は課税所得が800万円以下の部分は15%、800万円超の部分は23.20%となっています。そのため、課税所得が800万円超のときに繰越欠損金を計上するほうが、より大きな節税効果を得られるのです。

ただし、繰越欠損金の期限は10年間となっており、これを過ぎてしまうと節税効果が全く得られません。繰越欠損金の期限も意識しながら、できる限り有効なタイミングで計上するとよいでしょう。

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M&Aにおける繰越欠損金の取り扱い

M&Aでは、赤字企業などの買収による租税回避行為を禁止するために、一定の制限が設けられています。ここでは、M&Aにおける繰越欠損金の取り扱いについて確認しましょう。

買収時の取り扱い

欠損等法人を買収した場合、原則として当該欠損金を損金計上できます。しかし、平成18年度の税制改正で「特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用制度」が創設され、買収から5年以内に当該法人が一定の事由に該当した場合は欠損金の制限を受けるようになりました。買収した場合に繰越欠損金の制限を受ける事由は、下記のとおりです。

  1. 欠損等法人が休業法人だった場合で買収後に事業を開始すること
  2. 買収前事業を廃止し、当該事業の5倍を超える借り入れをすること
  3. 特定の株主が法人の債権を取得し、買収前事業の5倍を超える借り入れをすること
  4. 上記1、2、3のいずれかが成立したあとに、当該法人が適格合併などを実施すること
  5. 従事していた従業員を20%以上退職させ、買収前事業の5倍を超える新事業を始めていること

このように、明らかに繰越欠損金による節税目的で買収している場合には、法人税法によって繰越欠損金の利用に制限がかかります。なお、上記の事由は休眠会社に対する規制であるものが多いため、一般的には「休眠会社規制」と呼ばれます。しかし、休眠会社の買収以外にもいくつか事由があるため、買収する際には気を付けるようにしましょう。

合併時の取り扱い

欠損等法人との合併では、原則として当該欠損金を引き継ぐことができません。しかし、当該合併が法人税法上の適格合併に該当する場合は、合併法人の欠損金を引き継ぐことができます。ただし、以下のいずれかに該当する場合は、適格合併であっても引き継ぎに制限が課されることになります。

  • 「共同で事業を行うものとしての一定の要件」を満たさない場合
  • 5年以上にわたり「支配関係がある場合で一定の要件」を満たさない場合

上記のいずれかに該当し、欠損金の引き継ぎに関する制限を受ける場合は、支配関係前の繰越欠損金については引き継ぐことができません。ただし、全てが引き継がれないわけではなく、支配関係が生じた事業年度以降の欠損金については、特定資産の譲渡損失額でなければ引き継ぐことができます。

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まとめ

繰越欠損金とは、欠損金繰越控除制度上における次期事業年度以降に繰り越すことができる欠損金のことです。全ての法人が利用できるわけではなく、当該欠損金が発生した事業年度に青色申告を行っており、その後も申告手続きをしている法人が利用できるなどのルールがあるので確認しましょう。

繰越欠損金を黒字の事業年度に計上することで、その年の法人税負担を軽減することができます。このときの仕訳では、繰越税金資産と法人税等調整額の勘定科目を使います。中小法人の場合、課税所得に応じて法人税率が異なるため、より有利になるタイミングで計上するのがポイントです。

なお、M&Aで繰越欠損金を活用する際には注意が必要です。法人税の節税を目的とした合併や買収の場合、繰越欠損金の利用に制限が課される可能性があります。M&Aに関する税金は税理士によく相談し、M&AそのものについてはM&A仲介会社やFAなどに相談することをおすすめします。

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