特定目的会社とは?メリット・デメリットや具体的な活用・設立方法を解説

2023年9月11日

特定目的会社とは?メリット・デメリットや具体的な活用・設立方法を解説

このページのまとめ

  • 特定目的会社とは、資産流動化法に基づいて設立される法人
  • 特定目的会社は流動性の低い資産である不動産の流動化に活用できる
  • 特定目的会社を活用すると、親会社の財務状況に影響を与えずに資金調達ができる
  • 特定目的会社は手元の資金が少ない場合のM&Aや事業承継に活用できる
  • 特定目的会社を活用する場合は、設立コストと維持コストに注意する

近年、特定目的会社を活用した資金調達が注目を浴びており、令和5年4月30日現在で1126社が特定目的会社としての届出を行っています。
特定目的会社は、大規模なプロジェクトはもちろん、中小企業におけるM&Aや事業承継でも活用できる仕組みです。

今回は、特定目的会社に馴染みのない方に向けて、特定目的会社とは何かという基本から特定目的会社のメリット・デメリット、具体的な活用方法、設立方法まで詳しく解説します。

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特定目的会社とは

特定目的会社は、資産流動化法に基づいて設立される法人です。ローマ字読みの「Tokutei Mokuteki Kaisha」の頭文字から「TMK」と略されます。

会社法では、会社の形態として株式会社、合名会社、合資会社、合同会社の4つが規定されています。特定目的会社は会社法には規定のない会社形態です。

特定目的会社では従業員を雇用できず、資産の流動化にかかわる業務のみを行います。特定目的会社が業務を行うためには資産流動化計画を財務局長に提出することが必要で、資産流動化計画に記載された計画が達成されると特定目的会社は解散します。

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特定目的会社を設立する2つの目的

特定目的会社を設立する目的について解説します。

1.不動産を証券化し、資産を流動化するため

特定目的会社を設立する目的の1つとして、流動性の低い資産である不動産を証券化して資産を流動化するということがあります。
特定目的会社が資産を流動化する仕組みは、所有する不動産を担保に社債を発行し、特定社員、優先出資社員と呼ばれる社員から出資を募るというものです。社員とは出資者のことであり従業員ではありません。

特定目的会社は、家賃収入を主体とした不動産の管理・運用を行い、出資者である社員に利益を還元します。
不動産そのものは金額も大きく資産としての流動性はありませんが、社債の形で細分化することで資産としての流動性を高めるのが特定目的会社の事業内容です。

2.資金調達のため

株式会社も特定目的会社と同様の事業を行うことができます。それでも株式会社が自社とは別の法人として特定目的会社を設立する目的は、資金調達にあります。不動産を自社で所有していると貸借対照表上の負債額が大きくなりますが、これを避けることが可能だからです。

規模の大きな不動産を特定目的会社の所有とすることで、本体である株式会社の財務状況を改善させつつ、金融機関や株主などから広く資金を調達することができるのです。

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特定目的会社とSPV・SPCとの違い

特定目的会社(TMK)と混同しやすい用語として、「特別目的事業体(SPV:Special Purpose Vehicle、または SPE:Special Purpose Entity)」と「特別目的会社(SPC:Special Purpose Company)」があります。

特別目的事業体(SPV)とは、証券化やプロジェクト・ファイナンスなど特別な目的のために活動する事業体のことを指します。特別目的事業体には、信託型や組合型などの法人格を持たないものと、法人格を持つものがあります。
特別事業体(SPV)の中で法人格を持つものが、特別目的会社(SPC)です。

特定目的会社(TMK)は、特別目的会社(SPC)のうち、資産流動化法に基づいて設立された法人です。特別目的会社(SPC)の中には、株式会社や合同会社の形態で証券化やプロジェクト・ファイナンスを目的とする法人も含まれます。

つまり、特定目的会社(TMK)は、特別目的会社(SPC)の一種であり、特別目的事業体(SPV)の一種でもあります。

特定目的会社(TMK)では流動化する資産の対象は資産流動化法によって不動産に限られますが、特別目的会社(SPC)は、不動産以外の資産を流動化する事業が可能です。

関連記事:SPC(特別目的会社)とは?メリットデメリットやM&Aでの活用法を解説

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特定目的会社と株式会社との違い

特定目的会社と株式会社との違いを表にあらわすと、次のようになります。

特定目的会社株式会社
法律資産流動化法会社法
事業内容資産(不動産)の流動化利益の追求
従業員の雇用不可自由
出資者特定社員、優先出資社員発起人、株主

特定目的会社と株式会社とでは根拠となる法律が違います。特定目的会社は、資産流動化法に基づいており、株式会社は会社法が根拠法です。

特定目的会社の事業内容は資産(不動産)の保有・流動化に限定されており、利益を追求するための従業員の雇用はできません。一方、株式会社は営利目的での事業内容に制限はなく、従業員の雇用も自由に行えます。

株式会社は特定目的会社と同様に資産の流動化についての事業を行うことも可能です。
株式会社の出資者は発起人、株主であり、特定目的会社の出資者は特定社員、優先出資社員となります。

特定目的会社の事業内容は、株式会社と異なり資産(不動産)の流動化に限定されますが、税制面では株式会社に比べて優遇される面が多くあります。そのため、不動産の負債を抱えるリスクや税制面での優遇を考慮して特定目的会社が利用されるケースが多くなっています。

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特定目的会社を活用する4つのメリット

株式会社のままでも所有する不動産を流動化させる事業は可能です。ここでは、あえて特定目的会社を設立することのメリットを詳しく解説します。

  1. 親会社の自己資本比率に影響を与えずに資金調達できる
  2. 貸借対照表から負債を切り離すことができる
  3. 倒産から不動産を守ることができる
  4. 一部の税制面で優遇される

メリットは主に4つです。以下で詳しく解説します。

1.親会社の自己資本比率に影響を与えずに資金調達できる

自己資本比率とは経営状態の安全性を示す指標で、総資産の中で返済不要の自己資本が占める割合のことです。株式会社では、投資家が出資した資本が返済不要の自己資本、金融機関からの融資や社債などは返済が必要な負債となります。

株式会社が金融機関から融資を受けて不動産を購入すると、負債が増えて自己資本比率が低下し、経営状態が不安視されて投資家や取引先や金融機関などから信頼を失う原因となりかねません。

しかし特定目的会社を利用した場合は、不動産を所有するために金融機関から融資を受けるのは特定目的会社となるため、親会社である株式会社の自己資本比率が低下することはありません。
自己資本比率を維持することにより、新たな資金調達もしやすくなります。

2.貸借対照表から負債を切り離すことができる

株式会社が所有する不動産を特定目的会社に移動させると、親会社の貸借対照表から不動産所有に伴う負債を切り離すことにもなります。これを、資産のオフバランス化といいます。

貸借対照表上に大きな負債を抱えていると財務内容の安全性が疑問視され、投資家や金融機関からの信用を得られない可能性が出てきます。
貸借対照表から負債を切り離すと財務内容が改善されるため、新たな出資や融資を受けやすくなり、設備投資や新事業の展開を進めやすくなります。

3.倒産から不動産を守ることができる

特定目的会社は、資産の流動化だけを目的に運営されるため、性質上倒産のリスクがありません。

株式会社が倒産すると、不動産を含む全ての資産を売却して清算手続きを行う必要がありますが、特定目的会社に不動産を移動させておけば、親会社の株式会社が倒産しても処分する必要はありません。

倒産によって不動産を処分する場合、実際の評価額よりも低くなる可能性が高いため、万が一の倒産に備えて不動産を守ることができるのは、特定目的会社を活用するメリットの1つといえます。

4.一部の税制面で優遇される

特定目的会社の事業内容の多くは、不動産を運用して得た賃料収入を出資者に配当として支払うというものです。資産流動化法では、一定の要件のもとで利益配当の額を損金に算入できるため、課税対象の利益額は少なくなります。

一方、株式会社に適用される法人税法では、利益配当の額を損金に算入できないため、配当に充てられる利益も課税対象です。

また、特定目的会社が要件を満たせば、不動産の移転登記にかかる登録免許税額は1000分の13(1.3%)となり、不動産取得税は不動産価格の5分の3が控除されます。

通常、売買による不動産の登録免許税額は1000分の20(2%)なので0.7%の減税となります。特定目的会社が所有する不動産は高額であるケースが多く、0.7%であっても高額の優遇となるでしょう。

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特定目的会社を活用するデメリット

特定目的会社を活用するには、デメリットも存在します。以下、それぞれの内容を詳しく解説します。

1.設立・維持にコストがかかる

特定目的会社の設立には、コストがかかります。

特定目的会社の資本金は最低10万円以上とされており、登録免許税の額も3万円以上です。株式会社の資本金が1円から設定可能なことを考えると、設立自体のコストが株式会社に比べて高額となるのは間違いありません。

そもそも、高額の不動産を流動化するという事業の性質からすると、資本金が最低額に近い数値では投資家の信用を得ることは難しいでしょう。実際には、資本金と登録免許税で数百万円から数千万円規模のコストが発生するケースが多いようです。

また、特定目的会社の設立は、内閣総理大臣への届出が必要となるなど、株式会社と比べて手続きが複雑です。自社で進めることは難しいため、司法書士や公認会計士などの専門家に依頼するための報酬も発生します。

特定目的会社の設立後も、監査役への報酬や財務諸表の作成・監査の費用も必要となるため、維持コストも高額となります。

特定目的会社の活用を検討する場合は、発生するコストと得られるメリットを比較することが重要なポイントといえるでしょう。

2.グループ通算制度を利用できない

グループ通算制度とは、完全支配関係にある企業グループに属する各法人が法人税を計算し申告を行い、その際に、損益調整等を行う制度です。修更正事由が生じた場合は、原則として、他の法人に影響を与えずに処理する(遮断する)仕組みとして機能します。

この制度は、時価評価課税や欠損金の持ち越しなどについて組織再編税制と整合的です。
しかし、特定目的会社を活用する場合、このグループ通算制度は利用できません。そのため、特定目的会社ではなく株式会社の子会社が不動産を所有する方が、グループ通算制度によって税金を抑えられる可能性があります。

特定目的会社が得られる税制面での優遇とグループ通算制度を利用した場合とを比較し、どちらが税金を抑えられるかの検討が必要です。

さらに、税金面の検討だけでなく、資産流動化計画の作成、内閣総理大臣への届出などにも時間がかかります。特定目的会社の活用を検討する場合は、十分に時間がかけられるよう余裕を持ったスケジュールで臨むことが重要です。

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特定目的会社の具体的な活用方法

ここでは、特定目的会社の具体的な活用方法として、2つのスキームを紹介します。

  • LBOのスキームによるM&A
  • MBOのスキームによる事業承継

資産のオフバランス化や、不動産を倒産リスクから守るといった活用方法以外では、この2つのスキームにおいて活用されるケースが多いです。

LBOのスキームによるM&A

LBO(レバレッジドバイアウト)とは、M&Aにおける売り手企業の資産価値やキャッシュ・フローを担保に金融機関から融資を受けて、M&Aの買収資金を捻出する手法を指します。

LBOを活用すると、負債は売り手企業が抱えることになるため、買い手企業は少ない自己資金でM&Aを実行できます。

このLBOのスキームによるM&Aで特定目的会社を活用する際の手順は、次のとおりです。

  1. 買い手の出資により特定目的会社を設立する
  2. 売り手の不動産やキャッシュ・フローを担保に金融機関などから資金調達を行う
  3. 特定目的会社が売り手の調達した資金で売り手を買収する
  4. 特定目的会社と売り手企業を合併する
  5. 買収資金を調達資金の返済に充てる

LBOの手法では、売り手企業が調達した資金を活用して買収を行うため、買い手としては特定目的会社を設立するだけで、多額の資金を用意する必要はありません。売り手企業の信用度が高ければ、少ない手持ち資金で多額の資金調達が可能となります。

MBOのスキームによる事業承継

中小企業における後継者不足は深刻で、従業員や外部の人材など親族以外への事業承継を行うケースも増えています。ここで問題となるのが、後継者が株式を譲り受けるための資金が不足している場合です。

事業承継におけるMBO(マネジメントバイアウト)とは、後継者が資金を準備して株式を買い取り、経営権を取得する手法のことを言います。

このMBOのスキームによる事業承継で特定目的会社を活用する際の手順は、次のとおりです。

  1. 特定目的会社を設立する
  2. 特定目的会社がMBOに必要な資金を出資者や金融機関から調達(借入)する
  3. 特定目的会社が対象会社の株主から株式を買い取る
  4. 特定目的会社が対象会社を子会社化する
  5. 子会社が特定目的会社を吸収合併し、MBOを完了する
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特定目的会社の活用事例

ここでは、特定目的会社の活用事例を紹介します。

駿河台開発特定目的会社による御茶ノ水ソラシティの建設事例

駿河台開発特定目的会社によって、都市再生緊急整備地域である「秋葉原・神田地域」の地域整備計画や「神田駿河台地域まちづくり基本構想」に基づき、JR御茶ノ水駅周辺の整備が行われました。

ビルは現在、御茶ノ水ソラシティと呼ばれ、2層に広がる広場スペースの整備や歩行者ネットワークの整備、地下鉄新御茶ノ水駅のバリアフリー化、地域の歴史文化や回遊ルートの情報発信など、地域の人々や訪れる人々との交流を実現するための建設が行われました。

※参照元:大成建設株式会社「ビル名称「御茶ノ水ソラシティ」に決定 オフィスフロアにLED照明を全面導入

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特定目的会社の設立方法

特定目的会社は、資金流動化法に基づいて設立されるため、会社法に基づく株式会社とは設立方法が異なります。

特定目的会社を設立するには、司法書士や公認会計士などの専門家に相談し、手続きや税金面などで問題のないスキームを作り上げることが重要です。

専門家への相談後、設立までの流れは以下の通りです。

  1. 定款を作成し、公証役場で認証手続を行う
  2. 特定社員が出資金を払い込む
  3. 金融機関に特定資本金を預け入れ、払込金保管証明書の発行を受ける
  4. 登記申請書類と定款印紙、登録免許税を準備して法務局での登記申請を行う

株式会社で電子定款を利用する場合には定款印紙は必要ありませんが、特定目的会社は定款印紙が必要です。

特定目的会社の資本金の額は10万円以上とされています。設立に際しては資産流動化計画を内閣総理大臣に届け出ることが必要です。
会社の設立日は登記申請の日になりますが、申請日から登記完了まで10日程度かかります。

設立後の特定目的会社の機関としては、取締役1人と監査役1人を置かなければなりません。会社の規模によっては、監査法人の設置も必要となります。

特定目的会社が設立されると、金融庁のサイトで法人の情報が「特定目的会社届出一覧」として公開されます。特定目的会社の設立数は増加しており、令和5年4月30日現在の特定目的会社の数は1126社です。

※参照元:金融庁「特定目的会社届出一覧

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まとめ

本記事では、特定目的会社について、基本的な仕組みや活用するメリット・デメリット、実際の活用事例などを解説しました。

特定目的会社を活用すると、手元資金が少なくても多くの資金調達が可能となるため、LBOのスキームによるM&AやMBOのスキームによる事業承継も推進できます。特定目的会社の活用は、M&Aや事業承継を検討する際の有効な選択肢となるでしょう。

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