退職金にかかる税金の計算方法とは?計算例や確定申告が必要な場合を解説

2024年2月13日

退職金にかかる税金の計算方法とは?計算例や確定申告が必要な場合を解説

このページのまとめ

  • 退職金には、所得税・復興特別所得税、住民税が課税される
  • 退職金の受け取り方法は、一時金と年金方式の2つ
  • 退職金は受け取り時に源泉徴収されるため、原則として確定申告は不要
  • 特定のケースでは、確定申告をすることで還付金を受けられることもある

退職金制度を設けている会社では、退職金にかかる税金の計算について従業員から質問されるケースもあるでしょう。税金の計算方法は、一時金か年金方式かにより異なります。勤続年数や支給金額によって税額が異なるため、個別に計算しなければなりません。

本記事では、退職金にかかる税金の計算方法や計算のシミュレーション、確定申告の必要性などについて解説します。従業員へ適切に回答するため、参考にしてください。

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退職金にかかる税金とは

退職金は給与と同じく所得の一種であり、勤続年数や金額に応じて税金がかかります。退職金の受け取り方は一時金と年金方式の2つで、それぞれ税金の支払方法が異なります。

ここでは、退職金にかかる税金についてみていきましょう。

そもそも退職金とは

退職金とは、従業員が退職した際、通常の給与や賞与とは別に支給される金銭のことです。「退職手当」「退職慰労金」といった名称で呼ばれることもあります。退職金の支給に法的義務はなく、支給するかどうかは会社により異なります。

就業規則などで退職金制度が設けられていれば、定めにしたがって支給しなければなりません。

退職金の受け取り方は一時金と年金方式の2通り

退職金の受け取り方は、退職時に全額を一時金として受け取る方法と、年金のように定額を定期的に受け取る年金方式の2通りです。また、2つの方法を併用する場合もあります。

 一時金 年金方式 
所得の種類 退職所得雑所得
課税方法 分離課税総合課税
税金の優遇措置 退職所得控除1/2課税公的年金等控除
確定申告 退職時に勤務先で手続きをすれば不要所得が一定以下なら不要
メリット 非課税枠が大きい受取総額が多くなる可能性がある
デメリット 受取総額が少なくなる場合がある使いすぎるリスクがある毎年課税される介護保険の額に影響する

一時金は、退職所得として分離課税で所得税を計算する方法です。退職所得控除が適用されるため、勤続年数が長いほど税の優遇があり、負担を抑えることができます。

年金方式は雑所得となり、総合課税により他の所得と合算して所得税を計算する方法です。毎年受け取る金額から公的年金等控除を差し引いた金額を、他の所得と合算して所得税・住民税を計算します。

公的年金や他の所得がある場合、金額によっては一時金より所得税が高くなる可能性があります。ただし、年金方式では将来にわたって受け取る分を金融機関が運用するため、一時金と比較して受取額が多くなるのが一般的です。

一時金と年金を併用する方法は、それぞれのメリットを活かすことができます。退職所得控除額を下回る金額を一時金として受け取り、残りを年金で受け取ることで、所得税の節税が可能です。

退職金にかかる税金は所得税と住民税

退職金に課せられる税金は、所得税と復興特別所得税、住民税です。所得税は、給料など個人の所得にかかる税金のことで、1月1日〜12月31日の1年間の収入から一定額(所得控除)を差し引いた所得に、所定の税率をかけて計算します。

復興特別所得税は所得税額に対する付加税で、2037年(令和19年)まで所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付するものです。

住民税は地方公共団体から課される税金であり、市区町村民税と都道府県民税からなります。1月1日時点で住所のある都道府県と市区町村に納める税金で、前年の所得に応じて課せられる「所得割」と、定額を負担する「均等割」で構成されています。

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退職金にかかる所得税の計算方法

ここからは、退職金を一時金として受け取る場合の計算方法をみていきましょう。

退職金を一時金として受け取る場合は退職所得に該当し、分離課税となるため他の所得とは別に計算します。算出には、まず課税退職所得金額の算出が必要です。

課税退職所得金額は、以下の計算式で求めます。

課税退職所得金額=(退職金の総額ー退職所得控除額)÷2

退職所得控除額は勤続年数によって計算式が異なります。20年を境にして、次のように計算します。

20年以下:40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
20年超:800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年)

勤続年数に1年未満の端数が出る場合は、繰り上げて計算してください。

例えば、勤続年数が24年1ヶ月だった場合は25年になり、控除額は「800万円+70万円×(25年−20年)=1,150万円」となります。

求めた課税退職所得金額に所定の税率をかけ、控除額を差し引いた金額が所得税額です。課税退職所得金額に対する税率と控除額は、以下の表に基づきます。

課税退職所得金額税率控除額
1,000円から1,949,000円まで5%0円
1,950,000円から3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円以上45%4,796,000円

参照元:国税庁「退職金と税」

復興特別所得税は、所得税額の2.1%で計算します。

なお、年金方式の場合は雑所得となり、収入金額から公的年金等控除額を差し引いて、他の所得と合算して毎年計算します。

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退職金にかかる住民税の計算方法

住民税は、前年の総所得金額に応じて課せられる所得割と納税者が均等に負担する均等割という2通りの構成です。退職金に課税される住民税は所得税と同じく分離課税となり、他の所得とは別に計算します。

計算は、課税退職所得金額に税率をかけて算出します。課税退職所得金額の算出方法は所得税と同様です。住民税の所得割の税率は、都道府県民税の4%と市区町村民税の6%の合計で、10%になります。

住民税を求める計算式は、以下のとおりです。

  • 課税退職所得金額=(退職金の総額ー退職所得控除額)÷2
  •  住民税=課税退職所得金額×10%
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退職金にかかる税金の計算シミュレーション

退職金を一時金として受け取る場合に課税される所得税と住民税の計算について、事例ごとにシミュレーションしてみましょう。

ここでは、勤続年数の異なる3つのパターンをご紹介します。

勤続年数13年、退職金700万円の場合

勤続年数13年で退職金700万円を受け取る場合、まず、退職所得控除額を求めます。勤続年数が20年以下のため、以下の計算式になります。

40万円 × 13年=520万円

次に、課税退職所得金額を求めます。

(退職金総額700万円ー退職所得控除額520万円)÷2=90万円

課税退職所得金額90万円の税率は5%、控除額は0円のため、所得税は次のとおりです。

90万円×5%=4万5,000円

復興特別所得税と住民税は、以下のとおりです。

4万5,000円×2.1%=945円
90万円×10%=9万円

これにより、税金の合計は4万5,000円+945円+9万円=13万5,945円となります。

勤続年数22年、退職金1,800万円の場合

勤続年数22年で退職金が1,800万円の場合、勤続年数が20年超えのため、退職所得控除額は以下の計算式になります。

800万円 + 70万円 × (22 – 20年)=940万円

次に、課税退職所得金額を計算します。

(退職金総額1,800万円ー退職所得控除額940万円)÷2=430万円

課税退職所得金額430万円の税率は20%、控除額は427,500円のため、所得税は次のとおりです。

430万円×20%−427,500円=43万2,500円

復興特別所得税と住民税は、以下のとおりです。

43万2,500円×2.1%=9,082円(小数点以下切り捨て)
430万円×10%=43万円

これにより、税金の合計は43万2,500円+9,082円+43万円=87万1,582円となります。

勤続年数28年、退職金3,000万円の場合

勤続年数30年、退職金3,000万円の場合、勤続年数が20年超えのため、退職所得控除額は以下の計算式になります。

800万円 + 70万円 × (28 – 20年)=1,360万円

次に、課税退職所得金額を計算します。

(退職金総額3,000万円ー退職所得控除額1,360万円)÷2=820万円

課税退職所得金額820万円の税率は23%、控除額は636,000円のため、所得税は次のとおりです。

820万円×23%−636,000円=125万円

復興特別所得税と住民税は、以下のとおりです。

125万円×2.1%=26,250円
820万円×10%=82万円

これにより、税金の合計は125万円+26,250円+82万円=209万6,250円となります。

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退職金における税金は確定申告が必要?

従業員が退職金を受け取ったとき、気になるのが確定申告です。退職金は勤務先で源泉徴収をするため、基本的に自分で確定申告する必要はありません。

しかし、一定の場合には確定申告が必要になったり、確定申告することで還付を受けられたりする場合もあります。

ここでは、退職金における確定申告についてみていきましょう。

原則として不要

退職金の確定申告は、原則として必要ありません。退職金にかかる税金の手続きは、勤務先が従業員に代わって行い、所得税と復興特別所得税が源泉徴収されます。

勤務先にあらかじめ「退職所得の受給に関する申告書」を提出しておくことで、退職金が支払われたときに所得税等が源泉徴収されるためです。

また、住民税も退職金から特別徴収され、勤務先が地方自治体に直接納付します。

確定申告が必要になる場合

退職金にかかる税金は原則として確定申告が不要ですが、例外として、次のような場合には必要になります。

  • 退職した年に再就職しなかった
  • 退職して1年以内に再就職したが収入が少ない
  • 所得控除がある
  • 「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない

それぞれ、詳しくみていきましょう。

退職した年に再就職しなかった

12月末日以外で退職し、その年に再就職しなかった場合、確定申告が必要です。年末調整は12月の給与を支払う会社が行うため、年の途中で退職した場合は年末調整が行われません。次に勤務する会社で行うことになりますが、再就職しない場合には自分で確定申告して、所得税・住民税を納付する必要があります。

また、確定申告しないと、在職中に給与から源泉徴収されていた所得税を納めすぎている状態になる可能性もあります。確定申告により、所得税が還付されることもあるでしょう。

退職して1年以内に再就職したが収入が少ない

退職金を受け取って同じ年度内に再就職はしていても、1年を通して収入が少ない場合には、確定申告により還付金を受け取れる可能性があります。収入から給与所得控除や配偶者控除、基礎控除など各種控除を適用することで、差引金額がマイナスになるような場合です。

また、退職したあとに不動産経営や事業などを起こして年度内に赤字が発生した場合、確定申告により他の所得と損益通算ができます。給与所得・配当所得・雑所得と損益通算し、それでも通算できない赤字がある場合には退職所得とも通算が可能です。

所得控除がある

医療費控除や寄附金控除など、年末調整できない所得控除がある場合は確定申告が必要です。具体的に、年末調整できないのは次の控除です。

  • 医療費控除・セルフメディケーション税制
  • 住宅ローン控除
  • 寄附金控除(ふるさと納税)
  • 雑損控除

これらの控除は年末調整で対応できないため、自分で確定申告することで控除が適用され、還付金が発生する可能性があります。

「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない

「退職所得の受給に関する申告書」は、退職金の金額や勤務年数に合わせた正しい税率で源泉徴収するために必要な書類です。退職金を受け取る前日までにこれを提出しない場合、退職所得控除が適用されないため、20.42%の所得税と復興特別所得税が源泉徴収されてしまいます。

源泉徴収された税額よりも退職所得控除後の所得税額のほうが低い場合、所得税を納めすぎていることになります。確定申告をすれば所得税が還付されるため、手続きをした方がよいでしょう。

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まとめ

退職金には所得税・復興特別所得税、住民税が課せられます。受け取り方は一時金と年金方式があり、税金の計算方法はそれぞれ異なります。退職する従業員から計算方法を聞かれたとき、速やかに答えられるよう、基本的なことを把握しておくとよいでしょう。

確定申告の必要性についても、各種ケースについて説明できるようにしておくことをおすすめします。

M&Aを実施する際は、多くの退職者が発生するケースもあり、退職金の支払い業務に追われることになるかもしれません。

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