総数引受契約とは?第三者割当との違いや契約書記載事項を紹介

2023年5月16日

総数引受契約とは?第三者割当との違いや契約書記載事項を紹介

このページのまとめ

  • 総数引受契約とは、総数引受方式で第三者割当を実施するときに締結する契約のこと
  • 第三者割当には、総数引受方式と申込割当方式がある
  • 総数引受方式を選ぶと、増資にかかる手続きを簡略化できる
  • 総数引受契約には株主総会や取締役会の開催が必要

「新株を発行して増資をしたい。できるだけ簡便な方法はないだろうか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

本コラムでは、新株発行による増資の手法のなかでも、手続きを簡略化できる総数引受契約について説明します。また、総数引受契約以外の増資の手法との違いや、具体的な契約の流れ、実施前に検討したい注意点についても具体的に紹介します。
増資をスムーズに進めるためにも、ぜひお役立てください。

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総数引受契約とは?

総数引受契約とは、総数引受形式で第三者割当による増資を行う際に締結する契約のことです。第三者割当による増資には申込割当方式と総数引受方式の2つの方法があり、総数引受方式は申込割当方式を簡略化した形で実施できます。

総数引受方式では、新株を引き受ける人がすでに決まっているため、株式募集にかかる手続きを省略することが可能です。また、手続きを簡単に行える分、資金調達までの時間も短縮でき、早期に増資をしたいときにも活用できます。

総数引受方式を実施するときには、株式を発行する側と新株を引き受ける側の間で総数引受契約を締結しなくてはいけません。必要事項を記載した総数引受契約書を作成し、増資の手続きを進めていきます。なお、総数引受契約書に記載する内容については、後述します。

第三者割当との違い

第三者割当とは、資金調達方法の1つです。特定の第三者に新株を引き受ける権利を付与し、増資を実施します。なお、この第三者とは、株主である必要はありません。非上場企業では、自社の役員や取引先、取引金融機関などの縁故者に権利を付与することが多いため、縁故募集と呼ばれることもあります。

第三者割当を実施することで、取引先などとの関係の安定化を図ることもあります。また、経営悪化により一般的な増資が難しいときにも、第三者割当を実施することは多いです。

総数引受契約は、第三者割当を実施する際の1つの契約方法です。第三者割当では株主を決めずに株主を募集することがありますが、総数引受契約によって第三者割当を実施するときは、すでに株式を引き受け手が決まった状態で開始します。そのため、新株を発行したものの引き受け手がいないといった事態や、予定した資金額が集まらなかったといった事態は回避できます。

なお、第三者割当のもう1つの方法である申込割当方式は、不特定多数に対して新株購入の募集を行う方式です。ただし、上場企業を除き、不特定多数に対して新株購入の募集を行うケースはあまり多くはありません。上場企業と比べると企業に対する情報が多く公開されているわけではないため、購入する側にとっては不安の多い取引になる可能性があります。また、第三者割当を実施する企業側も、まったく縁故のない人物が株主になることで、経営に支障が出る可能性もあるでしょう。

このような不具合を回避するためにも、非上場企業では第三者割当を実施する際には総数引受方式を選択し、あらかじめ新株を購入する人を決めておくことが一般的です。

株主割当との違い

新株発行により増資をする方法としては、第三者割当以外にも株主割当があります。株主割当とは既存の株主に新株を付与する方式で、新株を発行しても新たな株主は増えません。

株主割当では、株主は持株数に応じて株式が割り当てられ、有償で株式を購入します。そのため、すべての株主が割り当てられた株式を購入すれば、持分割合は現状のままで増資をすることが可能です。

ただし、割当の依頼を受けても購入する義務はないため、申し込まずに放置する株主もいるかもしれません。この場合は持分割合が変わり、新しい勢力図が描かれます。

一方、第三者割当では株主以外も新株を購入するため、株主が増え、持分割合も変わります。新たに発行する株式の数によっては、大株主が変わることや支配権が弱まることもあるため注意が必要です。

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総数引受方式を利用するメリット

株主割当による増資は、原則として持分割合が変わらず、株主の構成も変わりません。そのため、株主にとってはメリットがあまりなく、単に出資する金額が増えることを意味します。業績好調による事業拡大などの場合であれば配当金の増加を期待できますが、業績不振による資金追加の意味合いのある増資であれば、配当金の増加も期待しづらく、負担のみ増えるように感じるでしょう。

一方、第三者割当による増資なら、持分割合が変わるだけでなく株主の構成も変わります。既存の株主に追加出資を要請するわけではないため、負担をかけないというメリットもあります。

それに加え、第三者に株式を提供することで、既存の株主の持分割合を下げることがメリットになる場合もあるでしょう。たとえば現在の大株主が経営陣の方向性と異なる主張をすることが多く、迅速な経営判断を妨げている場合であれば、第三者割当により持分割合を調整することは企業にとってプラスになることがあります。

また、第三者割当のなかでも総数引受方式を選択することで、さらに次のメリットも得られます。

  • 手続きを簡略化できる
  • 比較的短期間で資金調達できる

それぞれのメリットについて見ていきましょう。

手続きを簡略化できる

第三者割当はメリットの多い方法ですが、通常は手間がかかる方法でもあります。スタンダードな方法である申込割当方式で第三者割当を実施するときは、次の流れで手続きを進めていきます。

  1. 株主総会による募集事項の決定(株式が譲渡制限株式なら特別決議が必要)
  2. 株式購入希望者への募集事項の通知
  3. 株式購入希望者からの申し込みの受付
  4. 株式購入希望者への株式の割当の決定
  5. 株式購入希望者への株式の割当の通知
  6. 出資金の払込の受付

しかし、総数引受方式であれば、株式購入希望者を公募しないため2~5の工程は不要です。株主総会による募集事項の決定(株式が譲渡制限株式なら特別決議が必要)と出資金の払込の受付は必要になりますが、それ以外の工程はすべて株式購入者との直接的なやり取りで済ませられます。

比較的短期間で資金調達できる

総数引受契約では、新規に発行する株式の引受人がすでに決まっています。購入希望者の募集などの手続きを簡略化できるため、資金調達までの時間を短縮できます。

一方、申込割当方式で第三者割当を実施するときは、発行する株式の購入希望者を募らなくてはいけません。非上場企業であれば企業の知名度は低いため、公募だけではすべての新株の引受人が見つからない可能性があります。また、引受人が見つかるまでに時間がかかり、資金調達がなかなか進まないケースも想定されるでしょう。

資金調達に時間がかかりすぎると、資金調達の目的を達成できない可能性もあります。たとえば経営難で資金調達が必要な場合であれば、タイミングを逃すことで廃業のリスクが高まるかもしれません。

また、業務拡大目的で資金調達が必要な場合も、適切なタイミングで資金調達できなければ、商機を逃すことがあります。適切なタイミングで適切な資金を調達するためにも、総数引受方式を検討できるでしょう。

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総数引受契約書の記載事項

総数引受方式で第三者割当による増資を実施するときは、総数引受契約書を作成し、総数引受契約を締結することが必要です。

総数引受契約書の形式については、法令による定めはありません。しかし、契約が滞りなく遂行されるためにも、以下の事項を記載していることが求められます。

  • 契約者の情報
  • 募集する株式の種類・数
  • 1株あたりの金額
  • 株式の割当方法
  • 資本金・資本準備金の情報
  • 払込期日・払込場所

それぞれの事項に含める内容を紹介します。

契約者の情報

総数引受契約は、株式を発行する企業と株式を引き受ける引受人との間で成立する契約です。それぞれの契約者が明確にわかるように、本文中と記名捺印の部分に住所と氏名(企業の場合は名称)を記載しておくことが必要です。

なお、総数引受契約では、新たに発行する株式を引受人1人が引き受けるケースもありますが、複数の引受人に分けて引き受けることもあります。その場合は、企業と各引受人との間で総数引受契約が成り立つため、総数引受契約書も引受人の人数分作成する必要があります。

募集する株式の種類・数

総数引受契約書には、募集する株式の種類と数も記載します。また、募集する株式の種類・数を契約書に最初から記載しておくとより丁寧です。たとえば、1人の引受人がすべての新規発行株式を引き受ける場合は、募集する株式数=引受数のため、「募集株式〇株すべてを割り当てる」のように記載できます。

一方、複数の引受人が持分を分けて引き受ける場合は、「募集株式〇株のうち△株を割り当てる」のように契約者が実際に引き受ける数を明記することが必要です。いずれの場合も、募集する株式の種類・数と、契約者が引き受ける株式の種類・数を明確に書き分け、混乱が生じないようにしておきましょう。

1株あたりの金額

募集株式の1株あたりの金額も記載します。記載方法は特にきまりはありませんが、「募集株式1株につき金〇万円」のように数字の前後に漢字を記載しておくとわかりやすくなります。

なお、実際に引受人が払い込むのは、1株あたりの金額に株数をかけたものです。たとえば募集株式1株が10万円で引受数が200株であれば、10万円×200株=2,000万円が払込金額となります。総数引受契約書には払込金額について記載する必要はありませんが、認識のずれが生じないよう、契約時には契約者間で実際の払込金額を確認しておくようにしましょう。

株式の割当方法

募集株式を1人に引き渡すか、複数人に引き渡すかについても記載します。

割当方法について明確に記載する必要があるときは、「割当方法」という項目を別に立てる方法も選択できます。しかし、「募集株式〇株すべてを割り当てる」「募集株式〇株のうち△株を割り当てる」のように、引受人が1人か複数人かを示唆する方法でも問題ありません。

資本金・資本準備金の情報

新株発行による増資で得た金額は、資本金か資本準備金のいずれかに繰り入れます。どのような割合で繰り入れるのかについても、総数引受契約書に記載しておきましょう。

資本金と資本準備金をそれぞれ別の項目として立てておくと、一目で理解できるようになります。特にきまりはありませんが「増加する資本金」「増加する資本準備金」と項目を立て、それぞれ募集株式1株あたりどの程度の金額になるのか明記します。

なお、新株発行による増資が実施されると、発行済み株式数が変更されるため、変更登記が必要です。登記には資本金額についての情報も記載するため、資本金額を計算する根拠となる総数引受契約書にも、資本金についての情報を明確に記載しておくことが求められます。

払込期日・払込場所

総数引受契約の払込期日についても記載します。年月日を明確に記載しておくことで、引受人に期日までの払込を促しやすくなります。

また、払込場所についての記載も必要です。新株に対する金額が金融機関への振込により払い込まれるときは、払込場所は金融機関と支店名となります。

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総数引受契約書の雛形

総数引受契約書は、上記の記載内容を網羅していれば特に形式は問われません。新株を発行する企業側と、新たに株主になる引受人の間で認識のずれが生じず、なおかつ第三者が見ても誤解なく理解できる契約書として仕上げましょう。

また、増資が実施された後は発行済み株式数が変わるため、変更登記が必要になります。その際、総数引受契約書が増加する株式数や資本金額の根拠を示す書類ともなるため、数・金額を明瞭に記載しておくことも必要です。

以下に雛形を紹介します。ぜひ契約内容にあわせて調整してご利用ください。

募集株式の総数引受契約書

株式会社〇〇(以下甲)および本引受人△△(以下乙)は、以下のとおり募集株式の総数引受契約を締結する。

第1条 甲は乙に対し、新たに発行する募集株式200株すべてを割り当てる。乙は本契約に承諾し、募集株式の総数の引受を行う

第2条 募集事項

1.募集株式の種類と数
普通株式200株

2.募集株式の払込金額
募集株式1株につき金10万円

3.株式価額の払込期日
令和〇年〇月〇日

4.増加する資本金
募集株式1株につき金7万円

5.増加する資本準備金
募集株式1株につき金3万円

6.払込取扱場所
東京都〇区〇〇
〇〇銀行 〇〇支店

本契約成立の証として本書2通を作成し、甲乙は記名捺印の上、各1通を保有する。

令和〇年△月△日

甲:東京都△区△ 株式会社〇〇(契約時に記名捺印)

乙:神奈川県〇市〇 △△(契約時に記名捺印)

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総数引受契約において注意すべきポイント

総数引受契約はメリットの多い契約です。非上場企業であってもスムーズに増資を実施できるだけでなく、取引先や自社の役員との関係強化も実現できます。また、比較的短時間で増資ができるため、商機を逃しにくいなどのメリットもあります。

しかし、次のポイントには注意が必要です。

  • 支配株主が変わることがある
  • 株主総会・取締役会が必要になる
  • 少数株主により異議を申し立てられる可能性がある
  • 表明保証違反が生じることもある

それぞれどのような点に注意すべきか解説します。

支配株主が変わることがある

支配株主とは、総株主の議決権の2分の1を超えている株主のことです。

新規に発行する株式の数量が今までの発行済み株式数を超え、なおかつ1人がすべての新株を引き受ける場合は、新たな引受人が支配株主になります。総数引受契約を実施するまでに支配株主が存在していた場合なら、支配株主が交代することになり、経営にも影響が及ぶかもしれません。

新規に発行する株式の数量が今までの発行済み株式数を超えていない場合でも、発行済み株式数が変わることで、従来の支配株主が保有する株式数が半数以下になる可能性もあります。この場合も企業の勢力図が変わり、経営判断に影響が生じるかもしれません。

また、議決権のある株式数の10%以上を保有する株主を主要株主と呼びますが、新株発行により主要株主も変わる可能性があります。新株発行を実施する前に、各株主・引受人が保有する株式の割合について確認しておきましょう。

なお、新株発行により支配株主が変わる場合は、新株代金の払込期日の2週間前までに、次の事項などを既存の株主に対して公示する必要があります。

  • 新たに支配株主になる引受人の氏名もしくは名称、住所
  • 支配株主が保有する議決権数
  • 募集株式発行後の全体の議決権数
  • 支配株主が変わることに対する取締役会の判断、理由
  • 支配株主が変わることに対する監査役の意見

株主総会・取締役会が必要になる

非上場株式では、株式に譲渡制限を設けていることも多いです。すべての株式が譲渡制限株式の場合、原則として、新株の募集事項は株主総会の特別決議によって定めなくてはいけません。また、総数引受契約の承認なども、株主総会や取締役会での決議が必要となります。

株主総会を開催するときは、公開会社なら開催日の2週間前までに株主に招集通知を発送することが必要です。また、非公開会社は原則として1週間前までに招集通知を発送します。いずれも時間がかかるため、計画的に進めることが求められます。

少数株主により異議を申し立てられる可能性がある

新株発行により議決権の割合が変わるため、異議を申し立てる株主が現れる可能性もあります。主要株主が異議を申し立てたときは、新株代金の払込期日もしくは払込期間が始まる前日までに株主総会を開催し、募集株式の割当や総数引受契約の承認において普通決議をしなくてはいけません。

表明保証違反が生じることもある

新株を発行する企業が、総数引受契約の引受人に対して開示した情報に誤りがないことを保証するために、表明保証を行うことがあります。表明保証は総数引受契約書のなかで「表明保証条項」として記載することが一般的です。表明保証条項には、表明保証違反が生じたときの対応なども記載しておきます。

新株発行会社による開示情報に誤りがあったときは、表明保証違反が生じたと判断され、表明保証条項に記載されたとおりの対応をしなくてはいけません。表明保証条項に「表明保証違反があったときは契約は無効。払込金額は全額返還」と記されている場合は、新株の引受契約が無効になり、新株発行会社は払込金額の返還を行うことになります。

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総数引受契約の手続きの流れ

総数引受契約は、以下の流れで実施します。

  1. 株主総会で募集事項を決定する
  2. 総数引受契約を締結する
  3. 出資金を払い込む
  4. 登記手続きをする

それぞれの段階ごとに実施する手続きについて見ていきましょう。

1.株主総会で募集事項を決定する

まずは新株の募集事項を決め、株主総会で決議をします。募集事項には以下の内容が含まれます。

  • 募集株式の種類・数
  • 募集株式1株あたりの金額、もしくは金額以外の財産、募集株式全体の払込金額
  • 金銭以外の取得を目的とする新株発行の場合は、その目的と当該財産の価額
  • 募集株式の代金の払込期日・払込期間、あるいは財産の給付期日
  • 株式発行により増加する資本金・資本準備金の金額

なお、公開会社の場合は、取締役会で募集事項を決定することもあります。

2.総数引受契約を締結する

株主総会や取締役会で決議した募集事項をもとに、株式の引受人と総数引受契約を締結します。総数引受契約は、引受人ごとに締結することが必要です。引受人が引き受ける株式数や1株あたりの金額が明記された総数引受契約書を作成し、引受人の氏名・名称と住所を記載して契約を締結します。

3.出資金を払い込む

総数引受契約の締結後、引受人は総数引受契約書に記載された期日までに株式の代金を払い込みます。金銭で払い込むときは、指定された金融機関の口座に入金します。

なお、代金の払込が確認されないときは、登記申請に影響が及ぶこともあるため注意が必要です。金融機関によっては24時間365日いつでも入金を受け付けているわけではありません。インターネットバンキングなどで入金手続きをした場合でも、実際の入金は翌営業日になることもあるため、期日に余裕を持って入金するようにしましょう。

4.登記手続きをする

引受人による出資が履行された後、発行済み株式数と出資金が変わった旨を法務局で登記手続きします。登記申請は、増資が実施されてから2週間以内に行われなくてはいけません。期限内に変更登記を実施するためにも、必要書類を準備しておきましょう。なお、登記手続きの必要書類については後述します。

また、増資により変更登記を実施するときは、登記手続きの際に登録免許税を納付しなくてはいけません。登録免許税の税額は以下のとおりです。

増資による変更登記の手数料(登録免許税額)

  • 増加した資本金の金額×0.7%
  • 上記の金額が30,000円未満のときは申請1件につき30,000円

参照元:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表

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総数引受契約の必要書類

総数引受契約を締結し、速やかに登記申請を行うためには、次の書類を準備しておくことが必要になります。

  • 取締役会議事録
  • 株主総会議事録
  • 出資金の払込証明書
  • 資本金の計上証明書
  • 変更登記申請書

それぞれの書類を利用する場面や、書類作成においての注意事項を説明します。

取締役会議事録

取締役会を設置している企業は、総数引受契約についての決定は取締役会で行います。取締役会を開催するときは、討議された内容を「取締役会議事録」に記録しておかなくてはいけません。取締役会議事録は書面以外でも電磁的記録で作成することが可能ですが、いずれも企業内で定めた適切な時期に作成し、適切に保管することが必要です。

総数引受契約を行うときは、取締役会議事録に次の内容が記載されていることが求められます。

  • 募集株式の種類・数
  • 引受人の名前・名称
  • 定款の変更内容
  • 株主総会の開催についての情報

上記の内容が記載されていることで、取締役会において適切に総数引受契約に関する決議が実施されたことを証明できます。

株主総会議事録

新株の募集条件の決議や定款変更については、株主総会で行います。定款変更については企業にとって重要事項であるため、議決数の過半数の株主が出席し、3分の2以上の賛成を得る特別決議が必要になります。

株主総会で決議された内容は、すべて「株主総会議事録」に記録することが必要です。記載方法は特に決まっていませんが、第三者が見ても内容を理解できること、情報が過不足なく記載されていることが求められます。総数引受契約においては、少なくとも次の内容を株主総会議事録に記載しておきましょう。

  • 株主総会の名称、開催日時、場所
  • 取締役や監査役の出欠
  • 議決権のある株主の総数、出席株主の議決権数
  • 株主総会で討議された内容、終結に至るまでの経過
  • 株主総会で決議された内容、決議結果

出資金の払込証明書

引受人が指定された金融機関に代金を振り込んだ後、新株を発行する企業は、振込を証明するための書類「払込証明書」を作成します。払込証明書には、以下の内容を記載します。

  • 募集株式に対して既定の金額を払い込んだことを示す文言
  • 払込金額
  • 払込金額によって引受人が受け取る株式数
  • 払込証明書の作成日
  • 引受人の氏名・名称
  • 払込金額を受け取った企業の名称、代表者の氏名

また、払込証明書の内容が正しいことを示すために、代金が振り込まれた口座の通帳のコピーも添付して保管しておきます。

資本金の計上証明書

引受人が支払った金額を、規定に従って資本金として計上します。計上した事実を証明するために、以下の内容を記載した「計上証明書」を作成し、社内記録とします。

  • 新株に対して払込を受けた金額
  • 金銭以外で給付を受けた場合は、当該財産の価額(給付日時点)
  • 計上証明書の作成日
  • 計上証明書を発行する企業名、代表者の氏名

変更登記申請書

変更登記を行うときは、法務局に「変更登記申請書」を提出します。法務局でも受け取れますが、法務局のホームページでもダウンロードできるため、事前に作成しておくとよりスムーズに登記手続きができます。

なお、登記手続きは司法書士などの専門家に依頼することも多いです。依頼する場合は、通常の登記変更手数料(登録免許税)に加え、専門家報酬が必要になります。

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まとめ

総数引受契約は、新株発行による増資を実施する際に締結する契約です。公募による第三者割当増資を実施するよりも、手続きが簡便化できるだけでなく、事前にすべての株式の引受人を把握できるなどのメリットがあります。

しかし、総数引受契約による第三者割当増資を実現すると、株主における議決権数の割合が変わることもあり、少数株主によって異議申し立てが行われる可能性もあります。異議申し立てが行われたときは、株主総会の開催・決議が別途必要になることもあり、増資の実施までに時間がかかってしまうこともあるため注意しましょう。

また、総数引受方式に限らず、新株発行による増資を実施したときは変更登記を行わなくてはいけません。増資額の0.7%(30,000円未満のときは30,000円)に相当する金額を登録免許税として納付するだけでなく、場合によっては司法書士などの専門家に手続きを依頼することも必要になります。

このように増資の手続きのなかでも比較的簡単とされる総数引受方式ですが、実現するには多くの準備や手続き、発行書類なども必要になり、決して容易に実現できるわけではありません。また、登記などのように期限が決まった手続きもあり、計画的に進めていくことが求められます。

総数引受契約をスムーズに実施するためには、確かな知識と経験が必要です。新株発行による増資を検討している場合や、資金調達の方法で悩んでいる場合は、ぜひ経営に関するコンサルティングを包括的に受けられる専門会社に相談してみましょう。

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