自社株評価の計算方法とは?下げ方のポイントも解説

2023年5月11日

自社株評価の計算方法とは?下げ方のポイントも解説

このページのまとめ

  • 自社株評価とは非上場の株式の価値を算定すること
  • 自社株評価は高くなりやすい
  • 自社株評価の方法は3種類ある
  • 自社株評価は下げる方法がある

非上場企業がM&Aや事業承継、株式の相続などで株価を算定したいとき、自社株評価が必要です。市場価格のある上場株式とは違い、客観的な価値のわからない自社株は一定の基準にあてはめて算定するため、実際の評価よりも高くなるケースがあります。

本コラムでは自社株評価の概要や高くなる理由について説明し、自社株評価の方法と下げる方法について解説します。

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自社株評価とは

自社株評価とは、市場に出回らない非上場の株式を算定することです。株式公開していない自社株は株価の客観的な価値がわからないため、M&Aや事業承継、相続などで株価を算定する際は、定められた基準に従って計算しなければなりません。
そして、自社株評価は、高額になりやすいという特徴があります。

ここでは自社株評価の概要や、対策が必要な理由などを解説します。

非上場の自社株式を算定すること

自社株評価とは、非上場の自社株式の価値を算定することです。上場企業の株式は証券取引所の需要と供給により決まりますが、取引する市場のない非上場企業の株式は、その価格を国税庁の定める基準で決定します。

具体的には、国税庁が作成している「財産評価基本通達」の「取引相場のない株式等の評価」を基準にして評価することが決められています。

非上場企業といっても、上場企業に近い大会社から小規模会社まで、その形態はさまざまです。そのため、国税庁の財産評価基本通達では、非上場株式を大会社・中会社・小会社に分類し、規模に応じた評価方法を定めています。

自社株評価は高くなりやすい

自社株評価は国税庁の基準によって計算するため、実態とかけ離れた高値になる可能性があります。過去の業績が良かったなどの理由で、会社が保有する現預金よりはるかに高い評価額になることも少なくありません。

非上場企業は上場企業よりも信用性が低く、融資などの資金調達には限界があるため自己資金を貯めることも少なくありません。そのため、多額になった内部留保が自社株評価を高める要因ともなっているのです。

自社株評価の金額は、優良企業ほど高くなる傾向にあります。自社株の評価が上がる理由として、主に以下のような内容があげられます。

  • 以前に取得した会社所有の土地・有価証券などがあり、純資産価額が多額になっている
  • 過去の業績が良く、法人税等を支払った後の利益積立金が累積されている
  • 技術力が高く、自社でしか作れない製品がある
  • 資産価値が高い設備や機械、建物を保有している

高額な評価に基づいて株式を取得したり相続したりすると、取得金額を用意できない・高額な税金が課せられるといった可能性があります。

自社株評価は高額になることへの対策が必要

非上場会社で株価算定が必要になるケースはさまざまですが、主に相続もしくは贈与により後継者に引き継がせる、もしくはM&Aの際に自社株の売買価格を算定する場合に必要となります。

自社株評価が高額になると税金が高くなるなどさまざまな問題があるため、対策を立てなければなりません。例えば、事業承継では相続税や贈与税、M&Aでは自社株の譲渡益に対する所得税などの税金がかかります。

自社株評価の金額を知っておくことで、これらの税金を支払えるか、後継者が自社株を買い取ることができるのかなどの検討や具体的な対策ができるようになります。

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自社株評価の方法

非上場企業の株価算定は、株主や会社規模の判定から始めます。株主が経営に影響を与える同族株主等かそれ以外の株主かで方法が変わり、同じ同族株主でも会社の規模で変わるためです。業態が一般的な会社とは異なるなど特定会社等にあたる場合も、株価の算定方法は異なります。

ここでは、評価方法の流れについて詳しくみていきましょう。

株主を判定する

まず、非上場株式を取得した株主が同族株主か、それ以外の株主かを判定します。株式を取得した株主が会社への影響力を持っているかにより、評価の仕方が変わるためです。

影響力のある同族株主が取得する株式の評価は、配当や利益、純資産で評価する原則的な方法で計算し、それ以外の株主が取得する株式は特例的な方法で計算します。

同族株主とは、同族の議決権が30%以上のグループです。ただし、もし議決権総数が50%以上のグループがあれば、その株主と同族関係者のみが該当します。同族株主がいない場合は、15%以上のグループが同族株主等にあたります。

会社規模を判定する

次に、会社規模の判定が必要です。会社規模の区分により評価方法が変わります。会社の区分は、「大会社」「中会社のそれぞれ大・中・小」「小会社」の5つです。

まず、大会社となるのは従業員数が70人以上の会社です。従業員数が70人未満の会社は取引高基準(売上高)、もしくは従業員数を加味した総資産基準で判定した結果のどちらか大きい方が自社の規模になります。

取引高基準では、「卸売業」「小売・サービス業」「その他」ごとに取引金額が設定され、会社の規模を判定します。従業員数を加味した総資産基準における従業員数は、原則として会社と雇用関係のある人すべてが対象です。

特定会社等に該当するか判定する

特定会社とは、特定の資産の保有バランスが非常に高い会社、もしくは業態が一般的な会社とは異なる会社を指します。

具体的には、以下の会社が該当します。

株式等保有特定会社財産評価基本通達の定めにより各資産を評価した価額の合計額のうち、占める株式等の合計額が50%以上の会社
土地保有特定会社・土地保有割合が一定以上の会社・会社の規模により70%または90%に区分される
その他・開業後3年未満
・直前期末の3要素(利益・配当・純資産)がゼロ
・開業前または休業中、もしくは清算中の会社

特定会社等に該当する場合、原則として純資産価額方式で評価します。

評価方法を決定する

以上の判定をもとに、自社株評価の方法を決定しましょう。方法は原則的評価方法と特例的評価方法に分かれ、原則的評価方法はさらに「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」に分けられます。

同族株主以外の少数株主の場合は、会社の規模にかかわらず特例的な方法である「配当還元方式」により計算します。

3つの評価方法を具体的にみていきましょう。

類似業種比準価額方式

評価対象の株式と事業内容が似ている上場会社を参考にする評価方法です。配当金額・利益金額・純資産価額という3つの要素を比較して計算します。類似する企業と自社との割合を求め、自社が非上場であることを勘案した調整を行います。

類似する企業は、国税庁が公表している対比表で、自社の業種と対応する業種を確認しましょう。

計算方法は、以下のとおりです。

1株あたりの株価=類似会社の株価×(評価会社の配当÷類似会社の配当+評価会社の利益÷類似会社の利益+評価会社の純資産÷類似会社の純資産)÷3×斟酌率

※斟酌率は、大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5のいずれかの数値を入れる

純資産価額方式

会社が解散した場合の価値に着目し、株主が受け取れる金額をもとに株価を評価する方法です。計算結果は貸借対照表の純資産の部の金額に近く、純資産が少なくなるほど自社株の評価額が低くなります。

資産および負債の評価額は貸借対照表に記載された帳簿価額をそのまま使わず、相続税法上の時価で計算します。

計算式は、以下のとおりです。

自社株評価額 =(自社の純資産総額 –  自社の負債総額 – 評価差額に対する法人税等相当額)÷課税タイミングにおける発行済株式数

国税庁の通達では、財産の種類ごとに時価を計算する方法が定められています。例えば、在庫にある原材料や部品は改めて調達する場合の仕入価格が基準となり、生命保険契約は解約した場合に支払われる払戻金などが評価対象です。

純資産価額方式は、複雑になりがちな自社株評価の計算を簡易的にできるのがメリットです。

配当還元方式

配当金をベースに自社株を評価する方法です。同族株主以外の株主だけが利用できます。会社の経営に影響力のない少数株主の多くは、配当金を目的にして株式を保有していると考えられるためです。

算定では過去2年間の平均配当金額を10%の利率で還元し、元本である株式の価額を求めます。

ほかの評価方法が会社の資産全体を対象とするのに対し、配当金という一部に着目するため、自社株評価の金額を低くしやすいという特徴があります。

計算式は、以下のとおりです。

自社株評価額 =(年間の配当額/10%) × (1株当たりの資本金額等の額/50円)

(将来の成長を考慮する場合)
評価額=将来予測される年間配当額/(資本還元率-投資利益率×内部留保率)

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自社株評価を下げる方法

自社株評価は事業承継や相続の際、税額に大きく影響します。高額になりがちな自社株評価は、いくつかの方法で下げることが可能です。

まず、類似業種比準価額方式では計算の基準となる配当金・利益・純資産の引き下げを検討します。

純資産価額方式では、相続税評価の基準となった純資産額を減らす、あるいは株式を発行して1株あたりの純資産価額を抑えることで自社株評価を引き下げることが可能です。

それぞれの内容を解説します。

配当・利益・純資産を引き下げる

類似業種比準価額方式では、上場している同業会社の配当金額や利益、純資産を比較して計算するため、これらの額が低いほど株価の評価を下げることになります。

それぞれの数値を低下させる方法をみてみましょう。

配当金

配当金の金額を下げる、もしくは配当を行わないことで株価を低くすることができます。株価の評価対象となるのは通常の配当に限られるため、そちらの配当率を抑えて創業記念配当金など特別配当を導入するとよいでしょう。

配当金の引き下げは、自社株の配当金が高い場合に効果のある方法です。最初から低い場合はあまりメリットは期待できません。

利益

利益は自社株評価に大きく影響する要素です。うまく利益を圧縮できれば、自社株評価を低くすることができます。

一例として、役員退職金を支払って経費に計上する方法があります。事業承継に伴う組織再編で経営者や役員が退任する際は、退職金を支払うことで現金という資産を減少させるとともに、その期の利益を圧縮することが可能です。その結果、株価の低下につながります。

会社の資金に余裕がある場合、生命保険に加入して損金計上することで利益を圧縮する方法もあります。生命保険は万が一の場合にまとまった保険金が入るのもメリットです。

長期的な視点では、高収益を上げる部門や成長が見込まれる新規事業を分社化する方法もあります。今後の純資産への利益蓄積を防ぐ効果が期待できるためです。

分社化する方法として、会社分割制度による子会社化、後継者を中心とした株主で構成された新会社への事業譲渡などがあげられます。

純資産額

純資産額を下げるには、含み損(時価が取得した金額を下回っているときの損失)が出ている資産を売却して損失を計上したり、不良債権の処分で貸倒計上をしたりすることで対応が可能です。

売却や貸倒計上により簿価で評価されている資産が減少することで、自社株評価を低くすることができます。

相続税評価後の純資産額を減らす

純資産価額方式を利用するときは、相続税評価後の純資産額を減らすことで自社株評価の引き下げが可能です。

例えば、新たな資産(土地・建物)を購入して負債を増やす、大型設備投資を行うといった方法があります。

土地や建物は資産として計上されるため、株価を下げる効果はないのではないかと思われがちですが、賃貸用不動産など、土地や建物は低めに評価されることもあり、純資産の価額を下げるのに効果的です。

現金を保有したまま株式を相続するよりも、不動産にすることで自社株評価の引き下げが期待できます。

発行株式数を増やす

新たに株式を発行し、自社株評価を下げる方法もあります。発行済株式数を増やすことで、1株当たりの価値が下がるという仕組みです。

例えば、従業員持株制度を作り、第三者割当増資を行うという方法があります。従業員持株制度とは、奨励金の支給などの便宜を与え、従業員が会社の自社株を取得することを奨励する制度です。

経営権に影響しない程度の株数を従業員に譲渡することで、株式を社外に流出させずに自社株評価を下げることが可能です。

ただし、株式発行の可否については株主総会の特別決議が必要になり、第三者割当増資の場合は発行価格によって有利発行と判断される場合もあるため、事前調査が必要になります。

会社の規模を変える

会社規模を変えることで、自社株評価を低くすることができます。例えば、M&Aによる会社を合併するケースでは、合併の結果、会社規模が大会社に変わる場合があります。

会社の規模が大きくなるほど類似業種比準方式での評価割合が高くなり、 類似業種比準方式による評価は純資産価額よりも低い傾向です。そのため、会社規模を変えることで自社株評価の大幅な低下が期待できる場合もあります。

関連記事:企業価値とは?計算方法や高めるための4つの方法をわかりやすく解説

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自社株評価ができない場合

次に該当する会社は、原則的な評価方法は馴染まず、個別に評価を行います。

  • 開業から3年に満たない
  • 利益・配当・純資産がゼロ
  • 開業前または休業中の会社
  • 資産の保有が目的の会社
  • 赤字や債務超過がある

開業から3年に満たない会社や利益・配当・純資産がない会社は、安定した事業活動が行われていると判断できず、類似業種比準に使う数値を使えません。そのため、純資産価額により評価します。

開業前とは会社設立後開業していない状態の会社で、休業中とは課税時期の前後に休業している会社のことです。開業前または休業中の会社は事業活動はなく利益も配当もないため、純資産価額方式の評価を行います。

また、自社株評価は一般的な事業活動をしていることが前提のため、資産の保有目的である会社や赤字・債務超過のある会社も純資産価額などをもとに個別の評価が行われます。

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まとめ

非上場企業の自社株評価は、株主構成や会社規模により評価方法が異なります。自社にあてはまる方法により計算しなければなりません。自社株評価は一定の基準で計算するため高額になりやすく、引き下げるための対策が必要です。

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