企業再生とは?事業再生との違いやメリット・手法・事例を解説
2024年8月19日
このページのまとめ
- 企業再生を成功させるには資金繰りを正常化することが必要
- 企業再生の主な手法は、法的再生・私的再生・M&Aの3つ
- 自社の状況を把握し、債権者やスポンサーの協力を得ながら実施可能な再生計画を立てる
- 専門知識が必要であるため、専門家の協力を得ることでスムーズに進められる
資金繰りの悪化によって企業の存続が困難になった場合は、企業再生か清算のいずれかを選ぶ必要があります。思い入れのある企業をつぶしたくない、取引先や従業員に迷惑をかけたくないという思いから、企業再生を図りたい経営者も多いでしょう。
本記事では、企業再生の概要と成功のための条件、3つの主な企業再生の方法を解説します。どのような選択肢があるかを知って、企業再生に前向きに取り組みましょう。
目次
企業再生とは
企業再生とは、存続の危機にある企業が立て直しを図り、経営を再び軌道に乗せることです。財務状況や事業を見直し、企業の体制を改善する必要があります。
企業再生を行う目的
企業再生は、赤字や債務超過といった資金繰り悪化の原因を取り除き、存続の危機から脱することを目的とします。
加えて、企業再生は企業の関係者や取引先を守ることにもつながります。企業が存続できなくなれば、従業員は仕事を失うでしょう。自社へ貸付を行う金融機関や、取引関係にある債権者も、自社が倒産すれば債権を回収できません。こうした事態を避けることも、企業再生を行う目的の1つです。
事業再生との違い
企業再生が企業そのものを立て直すのに対して、事業再生は企業活動の一部である事業について立て直しを行います。企業再生は企業全体を対象とするため、自社の一部を改善する事業再生よりも広い範囲が対象になるといえます。ただし、実際は事業の内容を見直すことで企業再生を図るケースが多いため、明確な使い分けはないといえるでしょう。
企業再生を成功させるために必要な条件
企業再生を成功させるには、以下の条件を満たさなければなりません。
- 経営者に企業再生への強い意欲がある
- 負債の削減で資金繰りを正常にできる
- 事業内容が収益の回復・拡大を見込める
- 債権者の協力を得られる
それぞれ具体的に見ていきましょう。
経営者に企業再生への強い意欲がある
企業再生では、中心となる経営者が強い意欲を持つ必要があります。経営を立て直すために、経営者は多くの決断をし、主体となって改善の計画を立てなければなりません。重要な役割を果たすことに加えて、企業再生が順調に進まない場合も多くあるため、固い意志を持って臨みましょう。
リーダーとしての覚悟ややる気を見せることで、従業員の協力も得やすくなるでしょう。実務を担う従業員がいなければ、うまく企業再生を進められません。加えて、債権者の協力も必要です。企業再生に後ろ向きな姿勢では、債権者の信頼を得られず、不誠実に捉えられる可能性もあります。意欲を持って真摯に取り組みましょう。
負債の削減で資金繰りを正常にできる
企業再生を成功させるには、負債を削減して資金繰りを正常化しなければなりません。債務免除や返済スケジュールの調整によって一時は危機を脱したとしても、正常な資金繰りのできる体制に変わっていなければ根本的な解決にはなりません。苦しい資金繰りに陥った原因が残っている状態では、再び資金繰りが悪化してしまう可能性もあります。
費用の見直しや削減、不採算部門の切り離しなどの企業体質の改善を行ったうえで、新たな資金投入を得るなどして、キャッシュフローを好転させる必要があります。そのためには、資金繰り悪化の原因を特定して同じ事態に陥らないように対策することが大切です。
事業内容が収益の回復・拡大を見込める
事業内容が市場において需要のあるものかどうかも、企業再生には重要です。企業再生のためには、負債の削減に加えて収益の回復や拡大を目指さなければなりません。十分な収益を得られるかどうかは、市場における需要の有無が影響します。世の中に必要とされている事業であれば、多くの収益を挙げられる可能性があります。市場の調査や観察なども行い、成功する確率の高い事業計画を立てなければなりません。
債権者の協力を得られる
企業再生のためには、債務の免除や返済・支払期限の延長など、債権者の協力を得ることが重要です。とくに融資金額が大きい金融機関などの同意を得なければなりません。債権者の協力を得られれば、スムーズに企業再生を進められるでしょう。
企業再生の3つの手法
企業再生の主な手法には、法的再生、私的再生、M&Aの3つがあります。それぞれの概要は以下の通りです。
手法 | 概要 |
法的再生 | 裁判所の監督のもとで、負債整理や手続きを行う |
私的再生 | 裁判所は関与せず、企業と債権者の話し合いによって負債整理や手続きを行う |
M&A | 他社への合併や株式・事業の売却などによって倒産を回避する |
以下ではそれぞれの手法について詳しく見ていきましょう。
1.法的再生
法的再生とは、裁判所の監督のもとで、法律に沿って行う再生手続きです。主な手法には、以下の3つがあります。
手法 | 概要 |
民事再生 | 個人・法人を問わない一般的な手法。民事再生法に基づく。経営者が引き続き経営権を持ち、主体となって再建に取り組む。 |
会社更生 | 株式会社のみが行える手法。会社更生法に基づく。経営陣は退任することが一般的で、経営は裁判所に選任された管財人が引き継ぐ。 |
特定調停 | 個人・法人を問わない手法。負債の返済が可能であることを前提として当事者間の話し合いを行い、裁判所は調停委員として仲介する。合意した内容を調書に記載することで、確定判決と同一の効力を持つ。 |
民事再生と会社更生は、いずれも会社を存続させながら経営の立て直しを図る手法です。民事再生は経営者が引き続き経営に携われます。
会社更生では経営者の退陣が必要であるものの、代わって経営を行う管財人に強い権限があるため、権利関係が複雑であっても債務整理を進めやすい傾向にあります。
特定調停では、裁判所は当事者間の仲介を行い、あくまでも当事者間の話し合いが中心となる手法です。
2.私的再生
私的再生とは、裁判所が関与せず、債権者と債務者の話し合いによって行われる再生手続きです。主な手法には、以下の5つがあります。
手法 | 概要 |
私的整理ガイドライン | 経済団体連合会や全国銀行協会などの有識者によって作成・公開されている、中小企業の事業再生などに関するガイドライン。 |
中小企業再生支援スキーム | 私的整理ガイドラインを踏まえて、中小企業の特性を考慮したもの。第三者である、認定支援期間の支援業務部門が手続きを行うため、法的再生に近い手法といえる。 |
特定認証ADR手続き | 産業競争力強化法に基づく手続き。裁判外の紛争解決手続きであるため、手続きを行っていることが公にならず、事業価値を損ないにくい手法。債務免除による税制の優遇措置を受けられるなどのメリットがある。 |
地域経済活性化機構(REVIC)による事業再生支援 | 地方の中堅・中小企業、大企業に対して、官民ファンドであるREVICが人材の投入や融資、金融機関から債権の買い取りなどを行う手法。多くの実績がある。 |
企業再生ファンド | 企業の再生を専門として行うファンド。投資家から集めた資金を元手に債権を買い取り、企業への融資を行ったり専門家を派遣したりして企業再生を目指す。企業の収益性を向上させたのちに、株式売却や株式公開によって収益を上げて、投資家に還元する仕組み。 |
私的整理ガイドラインと中小企業再生支援スキームは、企業再生のために作られた手法に沿って再生を進める方法です。特定認証ADR手続きでは、裁判にすることなく中立的な立場の第三者が債務者と債権者の間に入り両者の合意を目指します。
ファンドによる資金の融資やノウハウを用いて企業再生を目指す方法もあります。
3.M&A
企業再生のために、M&Aを行うことも1つの方法です。事業譲渡や会社分割など複数の手法があり、廃業や倒産を回避できます。主な手法には、以下の3つがあります。
手法 | 概要 |
事業譲渡 | 事業のすべてまたは一部を、第三者に売却する手法。不採算部門を切り離せるが、権利や従業員をそのまま引き継ぐことはできない。対価は現金で入ることが多く、事業資金に回せる。 |
会社分割 | 既存または新設の会社に事業を移転させる手法。権利や従業員の引継ぎができる。 |
第二会社方式 | コアとなる事業を第二会社に切り離し、採算が取れない事業と旧法人を消滅させる手法。 |
M&Aによる企業再生には、事業を第三者に引き継ぐ方法と再生を目指す事業を切り離す方法があります。資産や人材の引継ぎについても考えて手法を選ばなければなりません。第二会社方式では、旧会社は特別清算を行い消滅させることになります。
法的再生のメリット・デメリット
法的再生は、裁判所の監督によって再生手続きを進める方法です。法的再生のメリットとデメリット、具体的な手法を見ていきましょう。
法的再生のメリット
法的再生を行うメリットは以下の通りです。
- 公平性が担保される
- 債権者の協力を得やすい
- 債権者すべての同意を得なくても進められる
法的再生では、債権者との間に裁判所が入って協議や手続きを行います。裁判所は第三者として、法律に沿った明確な判断を行うため、公平性が確保されます。いずれかにとって一方的に有利な決定となりにくいでしょう。
裁判所によって計画が実現する可能性が客観的に判断されるため、債権者の協力を得やすい点もメリットです。また、債権者全員の同意を得られない場合でも、債権額に応じた多数決で進められます。
法的再生のデメリット
法的再生のデメリットは以下の通りです。
- 企業イメージや信頼が損なわれる可能性がある
- 既存の取引先との取引が減少したり、停止したりする恐れがある
- 弁護士に依頼するコストや予納金の支払いが必要となる
法的再生を行うと、信用調査会社が公開する倒産速報に社名が掲載されます。企業が倒産状態にあることが公となるため、企業イメージや信頼が損なわれかねません。同時に、取引の減少や停止となる可能性もあります。
法的再生の手続きや必要書類の作成には、法律に関する専門知識が必要であるため、弁護士の協力が必要です。裁判所を介する企業再生では、予納金の支払いも求められます。数百万円から千数百万円程度となるため、中小企業にとっては負担が大きいでしょう。
私的再生のメリット・デメリット
私的再生は裁判所を介さず当事者同士の話し合いによって再生を目指す方法です。私的再生のメリットとデメリット、具体的な手法を見ていきましょう。
私的再生のメリット
私的再生を行うメリットは以下の通りです。
- 再生手続きを行っていることが公にならない
- コストを抑えられる
- 柔軟にスケジュールを設定できる
再生手続きを行っていることが公にならないため、取引関係者への影響を少なく抑えられるでしょう。弁護士による手続きや書面の作成が不要であり、裁判所への予納金も不要であるため、法的再生に比べてコストを抑えられることもメリットです。
また、私的再生では法的再生のように法律に沿ったスケジュールで進める必要がないため、企業再生にかかる時間も短縮できる可能性もあります。
私的再生のデメリット
私的再生を行うデメリットは以下の通りです。
- 話し合いが難航して長引く可能性がある
- 債権者にとって有利な内容になる可能性がある
- 法的再生よりも債権者の信頼や協力を得にくい
- 債権者全員の同意を得られなければ再生計画の効力は発生しない
私的再生では当事者同士の話し合いが必要です。そのため、合意に至らない場合は手続きが長引く可能性もあります。ただし、弁護士などの協力を得て話し合いを進めることは可能です。
法的再生のように明確な手続きがなく裁判所の仲介もないため、公平な内容の合意に至らない可能性もあります。また、債権者からの協力を得にくい傾向にもあります。
M&Aのメリット・デメリット
M&Aは第三者による合併や買収により倒産や廃業を回避し、企業や事業を存続させる方法です。M&Aのメリットとデメリット、具体的な手法を見ていきましょう。
M&Aのメリット
M&Aによって企業再生を行うメリットは以下の通りです。
- 倒産を回避できる
- 第三者の協力を得られる
- 複数の手法の選択肢がある
法的再生と私的再生は、倒産状態から企業を立て直す方法です。しかし、M&Aを行うことで企業を倒産させることなく、企業や事業を存続させられます。第三者による合併や買収により、協力を得ながら企業再生が可能です。M&Aの手法は複数あるため、自社の状況に合わせて選べることもメリットです。
M&Aのデメリット
M&Aによって企業再生を行うデメリットは以下の通りです。
- M&Aの相手を探さなければならない
- 専門知識が必要
M&Aを行うなら、まずは相手先を探さなければなりません。相手が見つからない、自社が希望する条件に合わないといった可能性もあります。また、M&Aには専門知識が必要であり自社のみで行うことは難しいものです。専門家へ依頼する場合は、コストについても検討しなければなりません。
企業再生実施の流れ
企業再生を実施する流れの一例は以下のようになります。
相談・検討 | ・専門家に相談しながら状況を調査・分析して現状を把握する ・企業再生が最善の策であるかどうかを判断し、具体的な方法を検討する |
調査 | ・企業の持つ資産を査定する(デューデリジェンス) |
調整 | ・債権者への説明を行い、協力をお願いする ・新たなスポンサーを探す |
計画の策定 | ・再生計画案を立てる (戦略、目標数値、具体的なスキームなど) |
実行 | ・計画に沿って実行する ・進捗・予実管理を行う ・関係者へ報告を行い、良好な関係を維持する |
企業再生を行う前に、自社の状況について詳しく調査する必要があります。調査したうえで企業再生をするかどうかを決定することもあれば、企業再生をどのような手法で行うかを検討するために詳しい調査をする場合もあるでしょう。いずれにしても、企業再生の計画を立てるためには、事前の状況把握が重要です。
状況の把握と協力者の確保をしたうえで、実施可能な再生計画を策定しなければなりません。企画を実行しながら、進捗は順調であるか、予算に沿って実施できているかなどをチェックします。債権者やスポンサーに適宜報告しながら、良好な関係を保ちつつ計画を実施しましょう。
企業再生を実施する際の注意点
企業再生を目指すためには、注意すべき点もあります。以下で詳しく見ていきましょう。
業務の改善を優先して行う
企業再生を成功させるためには、経済活動を継続できるよう事業を立て直すことを優先的に考えましょう。人員の削減は最終手段としなければなりません。従業員の解雇を行うためには条件があり、満たさない場合は解雇権の乱用とみなされる可能性があります。
専門家に相談する
企業再生は手法を問わずさまざまな手続きや知識が必要であり、経営者のみで進めるのは困難です。以下のような専門家の力を借りると円滑に進められるでしょう。
弁護士 | 法律の専門家。とくに法律の知識が必要となる法的整理では弁護士をサポートを受けるのが一般的 |
公認会計士・税理士 | 会計・税務の専門家。企業再生に関する税金や資産に関するアドバイスを得られる |
M&A仲介会社 | M&Aを専門に行う会社。M&Aに関する経験や知識が豊富であs理、相手会社の選定や手続きについてサポートを受けられる |
企業再生の代表的な事例
企業再生は簡単なことではありません。しかし、費用の削減や組織の改善、M&Aなどによって、多くの企業が企業再生に成功しているのも事実です。以下では、過去に企業再生を行った3つの企業の例を紹介します。
日本航空株式会社の事例
日本航空株式会社はリーマンショックによって経営不振に陥り、2009年には国土交通省より経営改善計画の策定が指示されていました。それでも危機的な状況は続き、2010年、裁判所へ会社更生法に基づく更生手続き開始を申し立てます。
企業再生では、企業再生支援機構から3,500億円の融資を受け、5,215億円の債権放棄を実施しました。国内外の路線削減や人員削減、子会社の売却などによってコストを大幅に削減し、繰越欠損金制度による法人税の軽減などを経て、2011年度には過去最高の利益を計上しています。2012年9月に東京証券取引所第一部への上場を経て全株式を売却し、企業再生支援機構の支援が終了しました。
参照元:国土交通省「日本航空の再生について」
株式会社カネボウ化粧品の事例
株式会社カネボウは、1887年に創業し繊維事業を営む老舗会社でした。バブル期に経営を多角化させ、8社の関係会社がありましたが継続的な債務超過に陥り、2004年に産業再生機構に支援を申し立てます。当初は化粧品部門を売却することで体質の改善を図る計画でしたが、巨額の債務超過が判明しました。そのため、繊維事業の縮小など不採算部門からの撤退、減資や債権放棄などを盛り込んだ計画を新たに提出し、支援を要請します。
組織体制を一新するべく、カネボウグループのコア事業であるかどうかで事業を分類し、化粧品事業は花王に、繊維事業はセーレンに譲渡しました。残る食品・日用品・薬品事業は「クラシエ株式会社」として、2007年に再出発しています。
参照元:厚生労働省「カネボウ株式会社及び関係会社8社の産業活力再生特別措置法に基づく事業再構築計画の認定について」
株式会社ダイエーの事例
株式会社ダイエーは、小売業として売上高が日本一となったこともある企業でしたが、事業の多角化に失敗したことなどにより、2004年に産業再生機構の支援を申し立てます。ダイエーは莫大な有利子負債を抱えており、店舗の土地の含み損も高額でした。有利子負債を返済しなければならないため、事業の拡大ができなかったものの、一時は業績の回復を見せました。
しかし2009年以降も赤字が続き、2015年にイオンが完全子会社とすることで、「ダイエー」の店舗名はなくなっています。
参照元:株式会社ダイエー「株式会社ダイエーによる株式会社光洋の完全子会社化に関する株式交換契約締結のお知らせ 」
まとめ
企業再生では、自社の状況を把握したうえで、実現可能な再生計画を立てなければなりません。選択した企業再生の手法に沿って、必要な手続きを進めていくことも重要です。加えて、経営者の覚悟や関係者の協力も必要です。このように、企業再生を成功させるためにはさまざまポイントがあります。専門知識の必要な分野であるため、専門家に依頼して企業再生を進めることも視野に入れましょう。
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