このページのまとめ
- 負債比率とは自己資本に対する負債の割合のこと
- 業種によっても異なるが、一般的に負債比率の理想は100~150%とされている
- 負債比率が低いときは財務状況が安定していると判断できる
- 負債比率が高いときは高いレバレッジ効果を期待できる
- 負債比率が高すぎるときは自己資本を増やす、もしくは負債を減らして改善する
「負債比率で何がわかるのだろうか」「負債比率が適正かどのように判断するのだろうか」と、気になる方も多いのではないでしょうか。負債比率は、金融機関から融資を受けるときや、M&Aの取引価格の計算にも用いられることがあるため、正確な理解が求められます。
本記事では、負債比率とは何か、理想の負債比率はどの程度かについてまとめました。負債比率を改善する具体的な方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
負債比率とは
負債比率とは、自己資本に対する負債(他人資本)の割合です。
負債には返済義務があるため、低いほど経営状態が良いといわれています。負債を返済する金額が少ないため、企業の財務的な安全性が高いといえます。
一方で、ある程度の負債を保持しているほうが良いともいわれています。負債比率が高いことは、少ない自己資本で大きな利益を上げられていると考えられるためです(レバレッジ効果)。
自己資本と他人資本の違い
自己資本とは、貸借対照表上の「純資産」のことで、返済する必要がないお金を指します。一方、他人資本とは、貸借対照表上の「負債」を指し、返済する必要があるお金のことです。
自己資本は返済の必要がありませんが、他人資本は期日までに返済しなくてはいけません。そのため、自己資本が多すぎても財務上の問題とはなりませんが、他人資本が多すぎるときは返済が滞り、財務上の問題に発展する可能性があります。
他人資本を活用することでレバレッジ効果を得られるメリットはありますが、多くなりすぎることがないように、常にコントロールすることが必要です。負債割合を適時計算し、妥当な数値か確認するようにしましょう。
負債比率の計算式
負債比率は、以下の計算式によって算出できます。
負債÷自己資本(純資産)×100=負債比率(%) |
自己資本比率と負債比率は反比例の関係になっており、自己資本に対して負債が大きいほど負債比率は高くなります。
たとえば、企業の自己資本が1億円で、負債が2億円であった場合には、以下のような計算となります。
2億円(負債)÷1億円(自己資本)×100=200% |
つまりこのケースの負債比率は、200%となります。
理想の負債比率とは?
負債比率が低ければ低いほど、返済に悩まされることがないため、財務上、良好な状態にあるといえます。しかし、他人資本が必要なときに負債を負うことを避けていると、企業の成長を妨げる可能性もあるため、一概に低いほうが良いとはいえません。業種によっても異なりますが、一般的な目安は以下をご覧ください。
負債比率 | 想定される財務状況 |
300%以下 | 健全 |
300%超600%以下 | 改善を目指すことが必要 |
600%超900%以下 | 早急な改善が必要 |
900%超 | 倒産の可能性あり |
理想の負債率は時期によっても異なります。たとえば、創業してすぐの時期は、積極的に融資を受け、企業を拡大していくことが必要です。他人資本が入れば入るほど、事業を大胆に展開でき、成長スピードも速くなるでしょう。
また、理想の負債比率は業種によっても異なります。自社の成長段階と業種に応じた負債比率を把握しておくことで、自己資本と他人資本の適切なバランスを取るようにしましょう。
負債比率の目安
会社や業界の状況によって基準は変動しますが、一般的に負債比率が低いと「経営が安定している」と判断できます。しかし、ただ低いほど良いわけではなく、100〜150%の状態が理想といわれています。
ここでは、負債比率の目安となる数値と、どのような状態かについて解説します。
1.負債比率:100%以下
負債比率が100%以下になる場合、負債と自己資本が同等か、もしくは負債よりも自己資本が上回っている状況を示します。これは、財務状況が非常に安定していると評価されます。
一方で、レバレッジ効果は期待しにくい状況とも考えられます。
2.負債比率:101~300%
負債比率が101~300%の場合、負債が自己資本を上回っている状況であるものの、300%以下であれば、標準的な財務状況と考えられます。300%近くなると、自己資本よりも負債が多くなりますが、問題のない返済計画を立てられるといわれています。
負債比率が100~150%であれば、適性な値と判断されることが多いです。
3.負債比率:301~600%
負債比率が300%を超えたあたりから、財務状況が厳しくなってきていると判断できます。すぐに倒産する危険性はないものの、経営の改善が要されるレベルとなります。経営に問題がある可能性も考えられるため、見直しを図りましょう。
4.負債比率:601%~900%
600%を超えると、債務過多な状況と考えられ、早急な改善が求められます。負債の返済が間に合わない可能性もあるため、600%は超えないようにしましょう。
5.負債比率:900%以上
負債比率が900%を超えると、倒産の可能性が高まります。このような状況では、内部だけで改善ができない可能性もあるため、外部機関に負債比率の改善を依頼することも選択肢の一つです。
負債比率の業種別平均
負債比率の目安は、業界によって異なります。
政府による令和4年度「中小企業実態基本調査」の「第2-2表 中小企業(法人企業)の1企業あたりの資産及び負債・純資産(産業大分類別)」を参考に、負債比率の業種別の平均値を以下の表にまとめました。値は令和3年度のものです。
負債平均 | 純資産平均 | 負債比率 | |
建設業 | 約138,750千円 | 約104,876千円 | 約132% |
製造業 | 約288,592千円 | 約229,567千円 | 約126% |
情報通信業 | 約91,089千円 | 約120,654千円 | 約75% |
運輸業・郵便業 | 約269,398千円 | 約138,046千円 | 約195% |
卸売業 | 約314,872千円 | 約206,586千円 | 約152% |
小売業 | 約110,920千円 | 約64,139千円 | 約173% |
不動産業・物品賃貸業 | 約317,723千円 | 約172,412千円 | 約184% |
学術研究および専門・技術サービス業 | 約113,443千円 | 約131,962千円 | 約86% |
宿泊業・飲食サービス業 | 約115,296千円 | 約18,664千円 | 約619% |
生活関連サービス業・娯楽業 | 約181,406千円 | 約109,898千円 | 約165% |
その他サービス業 | 約150,077千円 | 約83,973千円 | 約179% |
負債比率の目安を調べるときは、自社が属する業種と同じものの値をチェックしてみましょう。
負債比率と自己資本比率の違い
負債比率と同様に、経営状態を評価する指標として「自己資本比率」があります。それぞれの違いは、以下の通りです。
自己資本比率とは
自己資本比率とは、企業の総資産のうちの自己資本の割合のことで、負債比率の対として使用される指標です。
自己資本は、会社の資産として扱われるため、返済する必要はありません。たとえば、資本金、利益剰余金などが自己資本に含まれます。
負債比率とは異なり、自己資本比率が高い方が返済義務のある資産が少ないことを意味するため、財務状況が安定していると考えられます。
一方で、自己資本比率が高いとレバレッジ効果は期待できないともいえるでしょう。とくに株主によっては、負債を負ってでも利益を追求してほしいと考える人はいるため、適切な数値に保つことが大切です。
自己資本比率の計算方法
自己資本比率は、以下の計算式で算出します。
自己資本÷総資産×100=自己資本比率(%) |
たとえば、自己資本が1億円、総資産が2億円の場合は、以下の計算式になります。
1億円(自己資本)÷2億円(総資産)×100=50% |
このケースの自己資本比率は、50%です。
自己資本比率は自己資本(純資産)が増えれば増えるほど大きくなりますが、負債比率は自己資本が増えるほど小さくなります。自己資本比率が高く、負債比率が低いほど、財務状況は健全と判断されるため、自己資本を増やすことは安定性の高い経営に必要なことといえるでしょう。
自己資本比率の目安(業種別の平均)
自己資本比率は、30%以上確保しておくと良いとされています。50%以上になると、財務状況が安定していると考えられます。
政府による令和4年度「中小企業実態基本調査」の「第2-2表中小企業(法人企業)の資産及び負債・純資産」に基づいて、令和3年度の業界別の値をまとめました。
純資産平均 | 総資産平均 | 自己資本比率 | |
建設業 | 約104,876千円 | 約243,627千円 | 約43% |
製造業 | 約229,567千円 | 約518,159千円 | 約44% |
情報通信業 | 約120,654千円 | 約211,743千円 | 約57% |
運輸業・郵便業 | 約138,046千円 | 約407,444千円 | 約34% |
卸売業 | 約206,586千円 | 約521,458千円 | 約40% |
小売業 | 約64,139千円 | 約175,060千円 | 約37% |
不動産業・物品賃貸業 | 約172,412千円 | 約490,135千円 | 約35% |
学術研究および専門・技術サービス業 | 約131,962千円 | 約245,405千円 | 約54% |
宿泊業・飲食サービス業 | 約18,664千円 | 約133,960千円 | 約14% |
生活関連サービス業・娯楽業 | 約109,898千円 | 約291,304千円 | 約38% |
その他サービス業 | 約83,973千円 | 約234,050千円 | 約36% |
負債比率と同様、自己資本比率も業種によって目安値が異なるので、該当する業種の自己資本比率を確認してください。
負債比率と同様に確認しておきたい4つの指数
経営状況を把握するにあたって、負債比率と同様に確認しておきたい指標があります。
1.交差比率|在庫の投資効率
交差比率は、在庫の投資効率を測る指標です。交差比率を求める計算式は、以下の通りです。
在庫回転率×粗利益率=交差比率 |
在庫回転率とは、一定期間内にどれだけ在庫を出し入れしたかを示します。交差比率が高いほど、効率的に利益が出ていると判断できます。
2.有利子負債比率|利子のある借入金
有利子負債比率とは、自己資本に対して、金利の負担がある負債の割合を指します。
計算方法は、以下の通りです。
有利子負債÷自己資本=有利子負債比率 |
負債比率を算出すると、返済期限のないものや返済義務のないものまで計算に含まれてしまいます。一方で、有利子負債比率は、それらを除いて計算することが可能です。
有利子負債比率は、低いほど財務状況が健全とされています。一方で、一定の有利子負債があるということは、金融からの信用があるとの評価にもつながります。
3.債務償還年数|借入金完済までの年数
債務償還年数は、借入金を完済するまでにどれだけの年数がかかるかを示した指標です。
計算式はいくつかありますが、もっともシンプルなものは以下の通りです。
借入金÷(当期純利益+減価償却費ー法人税など)=債務償還年数 |
年数が短いほど、返済能力があると判断できます。
4.ROE(自己資本利益率)|株主から見た収益性
ROE(自己資本利益率)は、株主資本利益率とも呼ばれ、株に投資してどれだけの利益を得られるかを示した指標です。これは、経営者視点ではなく、株主の立場から、出資した資本で効率的に利益を得られているかを測る指標となります。
自己資本利益率を求める計算式は、以下の通りです。
当期純利益÷自己資本=自己資本利益率 |
自己資本利益率の目安は5〜10%で、10%以上になると優良と考えられています。
負債比率の改善方法は2つ
負債比率が高すぎるときは、次の方法で改善を目指します。
- 自己資本を増やす
- 負債を減らす
それぞれの方法について具体的に解説します。
1.自己資本を増やす
自己資本を増やす方法としては、次の方法を検討できます。
- 株主割当増資
- 第三者割当増資
- 補助金・助成金の活用
それぞれの方法について説明します。
株主割当増資
株主割当増資とは、自社株式を既存株主に対して発行することです。株主の持株数に応じて新株を発行し、自己資本を増やします。
株主割当増資では持株数に応じて新株を割り当てるため、発行済み株式数と自己資本は増えますが、株主ごとの株式数の割合は変わりません。そのため、株主間の勢力図が変わらないという特徴があります。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、自社株式を特定の第三者に対して発行することです。既存の株主以外からも出資を募れるため、より大規模な増資を実現できることがあります。
第三者割当増資を実施すると、株主ごとの持株比率が変わります。株主間の勢力図が変わるだけでなく、発行株式数によっては経営権にも影響を及ぼすことがあるかもしれません。
補助金・助成金の活用
国や自治体の補助金・助成金を活用し、自己資本を増やす方法もあります。たとえば事業再構築補助金は、新市場進出や事業転換、業種転換、事業再編などに取り組む中小企業を支援する補助金制度です。規模拡大が期待される業種や業態で挑戦し、従業員の給与増や人材育成に取り組む企業に対して、100万円~1億円の補助金が支給されます。
補助金制度や助成金制度は、いずれも永続的なものではなく、予定していた支給額や応募時期が終わると利用できません。こまめに中小企業庁や経済産業省などのホームページをチェックして、条件に合致する制度に申し込みましょう。
参照元:経済産業省「事業再構築補助金」
2.負債を減らす
負債を減らす方法としては、次の方法を検討できます。
- 単価・客数を増やす
- 変動費・固定費を減らす
- 資産を売却する
各方法を説明します。
単価・客数を増やす
利益を生み出し、負債を返済する方法を検討できます。たとえば単価を上げれば、1商品・サービスあたりの利益が増えるため、返済額を増やせるかもしれません。ただし、単価を上げすぎると売上個数が減り、利益が減るリスクがあります。
また、客数を増やすことでも、利益増・返済額増を実現できるかもしれません。ただし、接客スタッフの人件費や、店舗拡大のための建設費などがかさむ可能性が想定されます。事前にシミュレーションを実施し、利益増につながるのか確認しておきましょう。
変動費・固定費を減らす
利益を得るためにかかっているコストを見直しましょう。宣伝広告費などの変動費や、家賃などの固定費が多すぎると、利益が減り、返済に充当できる金額も減ってしまいます。
単価を上げることには顧客減のリスクが伴いますが、無駄なコストを削減する方法にはとくにリスクがありません。利益につながらないコストを使っていないか、事業全体を見直してください。
資産を売却する
利用していない資産がある場合は、売却し、現金化する方法もあります。売却して得た資金は返済に充当しましょう。価値が高い資産を売却すれば、まとまった資金を得られるため、負債比率も大幅に減らせることがあります。
負債比率がM&Aの買取価格に与える影響
M&Aで企業を売りに出す際に、負債比率はその取引価格に影響を与えます。
負債比率が高い場合、資金繰りがうまくいっていないと判断されるため、M&Aでの売買にリスクがあると捉えられやすくなります。M&Aでの売却を検討している場合は、負債比率を下げることが重要です。
M&Aの相談先
M&Aにより企業を売却するときは、専門家に相談をして慎重に進めていくことが必要です。検討したい相談先を紹介します。
金融機関 | 顧問税理士や顧問会計士 | M&A仲介会社 | |
財務状況改善のアドバイスを得られる | 〇 | 〇 | × |
M&Aの相手企業を紹介してもらえる | △ | × | 〇 |
M&A成立まで一貫したサポートを得られる | △ | × | 〇 |
△:M&Aのサポートに対応した金融機関では、相手企業の紹介などを受けられることがあります。
金融機関
M&Aを実施するか迷っているときは、金融機関に相談できます。金融機関には企業財務の専門家が多くいるため、財務状況を改善する具体的な方法や融資について相談してみましょう。金融機関によっては、M&Aのサポートを実施していることがあります。おおまかな傾向は以下をご覧ください。
- 証券会社、メガバンク:大企業を対象としたM&Aのサポート
- 地方銀行、中堅証券会社:地域企業や中小企業を対象としたM&Aのサポート
ただし、地方銀行や中堅証券会社ではM&Aの専門部署を設置していないこともあります。すでにM&Aの実施を決めている場合は、M&A仲介会社への相談をおすすめします。
顧問税理士や顧問会計士
M&Aをするかどうか迷っている段階なら、顧問税理士や顧問会計士への相談は有意義といえるでしょう。顧問税理士や顧問会計士なら自社の財務状況を熟知しているため、的確なアドバイスをもらえます。
しかし、税理士・会計士がM&Aに詳しいとは限らないため、財務上のアドバイスにとどまる可能性があります。相談によりM&Aを決意したときは、M&A仲介会社やM&Aに対応している金融機関に問い合わせてください。
M&A仲介会社
M&Aの実施を決意した場合は、M&A仲介会社への相談がおすすめです。M&A仲介会社は、M&Aの相手企業の紹介から契約締結まで一貫したサポートを提供する会社です。独自のネットワークで相手候補企業を多数確保しているため、幅広い選択肢から相手企業を見つけられる点も特徴です。
M&A仲介会社によって対応する業種や事業規模が異なるため、自社に合う仲介会社なのか見極めることが必要になります。無料で相談や見積もりを実施しているM&A仲介会社もあるので、まずは問い合わせてみましょう。
まとめ
負債比率が低いほど財務状況は安定していますが、企業の成長段階や業種によっては、低ければ低いほど良いと一概には判断できません。自社の成長段階や業種に応じた目安を知り、適切な負債比率かチェックしてみてください。
負債比率が高すぎるときは、倒産リスクが高いと考えられ、M&Aの売却価格にも影響を及ぼすことがあります。M&Aを検討しているときは、負債比率の改善を実施するようにしてください。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、各領域の専門性に長けたコンサルタントが在籍しています。相手企業の紹介からM&Aのご成約まで一貫したサポートを提供することが可能です。
料金に関しては、M&Aの成約時に料金が発生する完全成功報酬型です。M&A成約まで無料でご利用いただけます(譲受側のみ中間金あり)。
企業の財務状況に応じたサポートを提供していますので、返済比率に不安があるときも、ぜひレバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社にご相談ください。