福祉・介護業界のM&A動向は?訪問介護や障害福祉サービスの事例も
2024年7月29日
このページのまとめ
- 福祉・介護業界のM&Aには主に法人譲渡と事業譲渡がある
- 法人譲渡の特徴は「手続きが簡易」「従業員や利益も負債も継承される」など
- 事業譲渡の特徴は「譲受先が見つかりやすい」「許認可は継承されない」など
- 福祉・介護業界のM&Aでは設備要件の確認や人員配置体制加算などを把握する
「福祉業界のM&Aをしたいけど、自分に合った方法がわからない」とお困りの方もいるのではないでしょうか?福祉・介護業界では、国内での高齢化に伴いサービス利用者が増える一方で、人材不足が深刻で、経営に悩む経営者も少なくありません。
本コラムでは福祉・介護業界の動向やM&Aの方法、事例などを解説します。福祉・介護業界のM&Aで失敗しないための注意点も紹介しているので、参考にしてください。
目次
福祉・介護業界の最新動向
高齢化の影響などにより、福祉・介護サービスの利用者は増える一方、深刻な人材不足に陥っています。ここでは、福祉・介護業界における最新の動向について解説していきます。
サービス利用者数の増加
福祉・介護サービスの利用者は、高齢者人口の増加に伴い急激に拡大しています。
厚生労働省が公表している「介護保険事業状況報告 月報(暫定版)」によると、2024年4月の要介護(要支援)認定者数は710.1万人で、うち男性が226.9万人、女性が483.3万人です。2024年4月には387.4万人であった要介護者は、20年間で300万人以上増加しています。
2070年には、2.6人に1人が65歳以上、約4人に1人が75歳以上になると推計されています。
今後も高齢化が進行するにつれて、要介護者数はさらに増えていくでしょう。
一方、社会保障給付費は増加しています。
厚生労働省の調査によれば、2022年度の介護保険総費用は11兆1,912億円となりました。
2001年度の4兆3,782億円から、約2.6倍に増加しています。
なかでも、介護サービスの提供にかかる費用が10兆9,080億円、介護予防サービスの場合は2,831億円と、介護サービスの介護保険費用は10兆円を超える費用がかかっています。
参考:
厚生労働省「介護保険事業状況報告 月報(暫定版)」※2024年4月分
厚生労働省「令和4年度 介護給付費等実態統計の概況」
深刻な人材不足
厚生労働省が2015年に発表した「2025 年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について」では、介護人材の需給を以下の通りに予測しています。
介護人材の需要見込み(2025 年度) | 253.0 万人 |
現状推移シナリオによる 介護人材の供給見込み(2025 年度) | 215.2 万人 |
需給ギャップ | 37.7 万人 |
2025年には37万人以上もの介護人材が不足すると予測されています。
また、公益財団法人介護労働安定センターが実施した介護労働者の就業実態と就業意識調査の結果報告書によると、「労働者の労働条件・仕事の負担に関する悩み等」の項目では「人手が足りない」が 52.1%で最多でした。
さらに、公益財団法人介護労働安定センターが2022年10月1日~10月31日にかけて18,000の介護サービス事業所を対象に実施した、「事業所における介護労働実態調査の結果報告書」によると、介護サ-ビスに従事する従業員の63.0%が不足を感じています。
特に訪問介護の人材不足が深刻で、80.6%が不足を感じている結果となりました。
人材不足の原因
こうした深刻な人材不足の背景として考えられるのが、福祉・介護業界の以下のような実態です。
- 給与水準の低さ
- 過酷な労働環境
厚生労働省老健局老人保健課の「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、介護職員の平均月収は318,230円(※介護職員処遇改善支援補助金を取得(届出)している事業所の調査)で、福祉・介護業界で唯一の国家資格の介護福祉士でさえ平均月収は331,690円となっています。
また、福祉・介護業界は世間から3K(キツイ、汚い、危険)と揶揄されることもあります。
「労働環境が過酷」とのイメージからスタッフが集まりにくく、そのことが人材不足に拍車をかけていると言えそうです。
福祉・介護業界のM&Aの譲渡方法
福祉・介護業界では利用者が増える一方、深刻な人材不足という厳しい状況が続いています。しかし事業の性質上、廃業が困難なことから、M&Aで事業を存続するケースが増えています。
福祉・介護業界のM&Aの譲渡方法は大きく以下の2つです。
- 法人譲渡・・・・・・福祉・介護サービス事業者全体を譲渡
- 事業譲渡・・・・・・福祉・介護サービスの事業もしくは事務所だけを譲渡
法人譲渡
法人譲渡とは会社の経営権を譲渡する行為です。
株式会社の場合には自社の株式を譲り渡し、一般社団法人やNPO法人の場合には理事の選任等を行い、理事を入れ替えます。「株式譲渡」とも呼ばれることもあります。
事業譲渡
事業譲渡とは、企業の事業の一部を分割して第三者に譲渡することです。企業が、福祉・介護事業以外の事業も行っている場合、福祉・介護業界の事業譲渡には2つの方法があります。
全部譲渡:その企業の福祉・介護サービス事業のすべてを譲渡すること
一部譲渡:福祉・介護サービス事業の一部を譲渡すること
福祉・介護業界の法人譲渡のメリット・デメリット
福祉・介護業界のM&Aにおける法人譲渡について、譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)それぞれのメリットやデメリットを見ていきましょう。
譲渡側(売り手)における法人譲渡のメリット
譲渡側(売り手)における法人譲渡のメリットとしては、例えば以下が挙げられます。
- 後継ぎ問題の解決
- 創業者利益の獲得
- 大手の傘下に入ることによる労働環境改善
それぞれ解説していきます。
後継ぎ問題を解決できる
人材不足が深刻な福祉・介護業界では、事業承継が課題になるケースが少なくありません。
会社譲渡することで事業承継ができるため、後継ぎ問題を解決できます。
創業者利益を獲得できる
新規事業の立ち上げを目的にM&Aを実施するケースもあるでしょう。
法人譲渡では企業を第三者に譲渡することで、株式の売却益を得られます。
事業の立ち上げや多角化にはコストがかかりますが、法人譲渡であれば、譲受企業の資金力を新規事業に向けて活用することができるのです。
ただし、根拠のない売却価格を設定すると失敗する可能性が高くなります。
福祉・介護業界における他社のM&A事例や相場と見比べ、適切な価格設定をすることが肝心です。M&A仲介業者で紹介されている福祉・介護施設の売り物件も確認すると良いでしょう。
大手の傘下に入ることによる労働環境改善
中小規模の福祉・介護事業者が大手事業者に法人譲渡する場合、大手事業者の雇用条件や労働環境に合わせて、スタッフの雇用条件や労働環境が改善されるケースが多いです。大手の知名度によって利用者が増えることも多いでしょう。
譲渡側(売り手)における法人譲渡のデメリット
譲渡側(売り手)における法人譲渡のデメリットとしては、例えば以下が挙げられます。
- 交渉決裂の可能性
- 拘束の可能性
詳しく解説していきます。
交渉決裂の可能性
法人譲渡は一部の事業のみを譲り渡すことはできません。不採算事業があれば譲渡価額が下がり、交渉が決裂するリスクが高まります。
また、借入金などの負債が大きすぎる場合にも、買い手がつかない事態に陥ることもあり得るので注意が必要です。
法人譲渡の交渉決裂を防ぐには、計画的に実施することが大切です。
拘束の可能性
福祉・介護業界のM&Aでは、譲受企業が事業を運営する際に譲渡側の代表者が必要な場合があります。そのため、譲渡後、長期にわたり譲渡先企業に拘束される可能性があります。
定年を待たずに退職する”アーリーリタイア”を見据えてM&Aを検討している場合、譲渡後拘束されると目的を果たせません。アーリーリタイアを考えている場合、相手企業と事前に交渉することが必要です。
譲受側(買い手)における法人譲渡のメリット
譲受側(買い手)における法人譲渡のメリットとして例えば以下が挙げられます。
- シナジー効果が大きい介護事業へ参入できる
- 包括的に譲り受けるので、手続きが簡易
- 経営権を掌握できる
それぞれ解説していきます。
シナジー効果が大きい介護事業への参入
シナジー効果とは、企業が協力することで発生する相乗効果です。福祉・介護事業には、居宅、施設、地域密着型サービスの区分の中で様々な介護サービスがあります。M&Aで既存の事業とシナジー効果の高い介護事業に参入することにより、事業の拡大や効率的なサービス提供ができます。既存事業でのスキル・ノウハウや設備を有効利用し、事業拡大することができます。
具体例として、下記が挙げられます。
- 集客ノウハウ(集客につながるHP、費用対効果の高い広告の作り方など)
- 介護人材とスキル(事業に必要な資格者やスキルなど)
- 営業ノウハウ
介護サービスは、事業により施設基準や人員基準が厳しく指定されています。資格を持つスタッフごと介護サービスを譲り受けることで短期間で新たな介護サービスに参入できます。
譲渡側企業の介護サービスを加えることで、知識やスキルを自社のものと組み合わせ、企業の成長を加速させることが可能です。
手続きが簡易
法人譲渡の場合、株主を変更するだけで手続きが完了するため、事業譲渡に比べて手続きのプロセスはシンプルです。
個別の契約や雇用契約、許認可も引き継がれますから、M&Aによる対象企業への影響が比較的少ないと言えるでしょう。
会社の規模が大きいほど、メリットは大きいです。
ただし福祉・介護業界における法人譲渡では、サービスに関するデータの引き継ぎに注意しなければなりません。
特に、福祉・介護業界では、介護請求ソフトや介護サービスの業務ソフトの活用が業務効率やサービスの質に大きく影響します。利用者の情報や業務システムの連携をスムーズに実施できないと、膨大な作業工数がかかってしまう可能性もあります。
対象企業の勤怠管理や給与計算のシステムはどんなものか事前に確認したうえで、法人内のシステム担当者や外部のシステム開発会社等と連携し、計画的に導入・移行を図りましょう。
経営権を掌握できる
福祉・介護業界のM&Aでは、経営権の掌握は重要な意味を持ちます。経営方針が事業全体を左右するケースがあるからです。例えば経営戦略によって以下のような点が異なります。
- 人材育成方針(教育体制や研修、OJTなど)
- 業務方針(情報共有方法や介護ロボットなどICTによる効率化など)
- 福利厚生(シフトや給与など)
- 企業理念(重視すること、軸となる考え方など)
しかし上記はサービスの質や働き手の満足度、ひいては事業収支に大きく影響する要素です。
企業ごと譲渡する法人譲渡の場合、所有権や経営権を譲渡することになります。一般的には譲渡側の経営者は経営から退きますが、施設基準などで必要な管理者・資格者もしくはサービス提供者の場合は、従業員もしくは委託事業者として、業務の継続を依頼することもできます。
譲受側(買い手)における法人譲渡のデメリット
譲受側(買い手)における法人譲渡のデメリットとしては、従業員退職や負債引続に伴うリスクがある点が挙げられます。
従業員が退職するリスクがある
福祉・介護事業では、サービスごとに人員基準が定められています。法人譲渡では、必要な資格者ごと事業を譲り受けることは大きなメリットですが、従業員一人一人に配慮しないと事業継続に必要な従業員が退職してしまい、予定していた介護事業を継続することができなくなるリスクがあります。
負債を引き継ぐリスクがある
企業ごと承継する法人譲渡では、債務も引き継がなければなりません。サービス残業など現経営者も気がついていない債務がある場合は、経営者が変わった途端、過去の労働債務を主張されるリスクがあります。
福祉・介護業界の事業譲渡のメリット・デメリット
福祉・介護業界のM&Aにおける事業譲渡について、譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)に分けてメリットやデメリットを見ていきましょう。
譲渡側(売り手)における事業譲渡のメリット
譲渡側(売り手)における事業譲渡のメリットとしては、例えば以下が挙げられます。
- 売りたい事業だけを譲渡できる
- 負債を抱えていても譲受先を見つけやすい
- 従業員を残せる
それぞれ詳しく解説していきます。
売りたい事業だけを譲渡できる
事業譲渡の場合、売却したい事業のみを指定して譲渡することができます。
将来性がある事業、集中したい事業を残すなど、譲渡後の展望にあわせて調節できる点はメリットと言えるでしょう。
ただし、商号を継続して用いる際は、承継する事業の債務を引き継ぐこともあります。
負債を抱えていても譲受先を見つけやすい
法人ごと譲り渡す法人譲渡の場合、譲渡側(売り手)の経営状態が悪いと、なかなか譲受先が見つからないことがあります。しかし事業のみを譲渡する事業譲渡は譲渡側(売り手)に負債がある場合にも、譲受先を見つけやすいです。
従業員を残せる
企業ごと譲渡する法人譲渡の場合、従業員も譲渡する必要がありますが、個別に事業を引き継ぐ事業譲渡の場合、従業員を承継させず自社に残すことが可能です。スタッフが足りていないなど従業員を承継させたくない場合は事業譲渡が有利と言えるでしょう。
譲渡側(売り手)における事業譲渡のデメリット
譲渡側(売り手)における事業譲渡のデメリットとして、例えば以下が挙げられます。
- 手続きが複雑
- 譲渡益の税率が高い
それぞれ解説していきます。
手続きが複雑
事業を個別に譲渡する事業譲渡は、法人譲渡と比較して手続きが複雑で時間もかかります。
事業譲渡では賃貸借契約、雇用契約など、取引先とのあらゆる契約を譲受側(買い手)と新たに契約し直す必要があるため、多数の資産や契約をかかえているほど負担が増大します。
譲渡益にかかる税率が高い
事業譲渡では、事業の売却益に税金が課されます。
法人譲渡の場合の譲渡益税率は約20%であるのに対し、事業譲渡の譲渡益税率は約30%です。ただし、ケースによっては法人譲渡よりも税金を抑えることができます。
譲受側(買い手)における事業譲渡のメリット
譲受側(買い手)における事業譲渡のメリットとしては、例えば以下が挙げられます。
- 買収する事業範囲を指定できる
- 高い節税効果を期待できる
- リスクを低減できる
それぞれ詳しく解説していきます。
買収する事業範囲を指定できる
福祉・介護事業のM&Aでは事業の拡大や多角化を主眼に置くケースがありますが、事業を展開するには多額のコストがかかります。
しかし買収する事業範囲を指定することのできる事業譲渡では、投資額を抑えることが可能です。
事業譲渡は、資金力のない中小企業にも適した譲渡方法と言えるでしょう。
高い節税効果を期待できる
事業の価値は目に見えるものだけではありません。知名度や信用、従業員の能力、取引先関係などの目に見えない価値も存在します。
事業を買収するときには、事業の現在の価値(時価純資産価額)にこうした無形固定資産の価値を上乗せして買収するのが通常です。
この上乗せ分の金額を「のれん」と呼び、損益処理できます。そのため高い節税効果を期待できるわけです。
負ののれんは差額負債調整勘定として処理できます。
リスクを低減できる
企業全体が譲渡対象である法人譲渡は、売却側に債務があればその債務も引き継ぐことになります。
他方、事業譲渡では債務や負債などを引き継ぐ必要がありません。
経営状態が悪く、赤字事業を抱えたくない場合などには、承継する事業を選択できる事業譲渡はメリットが大きいと言えそうです。
譲受側(買い手)における事業譲渡のデメリット
譲受側(買い手)における事業譲渡のデメリットとして、例えば以下が挙げられます。
- 手続きが煩雑で時間もかかる
- 従業員を引き継げない
- 許認可や賃貸借契約は自動的には引き継がれない
それぞれ詳しく解説していきます。
手続きが複雑
簡便なプロセスでスピーディに譲渡が完了する法人譲渡と比べて、事業譲渡は事業を個別に譲渡するため手続きが複雑になり、時間も要することになります。
つまり引き継ぐ項目が多い大企業ほど、譲渡にかかるコストが大きくなるのです。
従業員と新たな労働契約が必要
事業譲渡では法人譲渡と異なり、包括的に従業員を引き継ぐことはできず、基本的に個々の従業員と個別の労働契約が必要になります。事業譲渡でも事業の継続に必要な従業員が継続して働くことができるよう、以前の労働条件と同じもしくはより良い条件を提示する必要があります。人材不足の解消を目的にM&Aを検討している場合は、事業譲渡ではなく、法人譲渡がベターと言えます。
許認可や賃貸借契約は自動的には引き継がれない
事業譲渡では、許認可も自動的には引き継がれません。
福祉や介護の事業を行うには行政から設備要件についても承認を得る必要がありますが、設備の土地・建物に関する賃貸借契約も自動的には引き継がれません。
売り手側が売却対象となる施設について補助金を受けていても、譲受後に要件を満たさなくなった場合行政から補助金の返却を要求されたり、譲渡内容について一定の条件を付けられたりする可能性があります。
福祉・介護業界のM&Aの注意点
福祉・介護業界は他業界と比較して、設備や人員配置などに関する細かな取り決めが多いです。福祉・ 介護事業の M&Aで 失敗しないためには、事前確認をきちんと行い、計画的に実施することが重要になります。
そこで次に福祉・介護業界のM&Aの注意点を紹介します。
人員配置・設備・運営基準の確認
福祉・介護事業では、厚生労働省が定めた事業区分ごとの人員配置・設備・運営基準を守らなければなりません。 3年ごとの介護報酬改定時に変更が加えられることも多いので、改めて最新の人員配置・設備・運営基準の遵守と加算できるのに請求していないものがないか、確認をします。
人員配置体制加算の単位を把握する
人員配置体制加算とは療養介護や生活介護の事業所で、一定基準を超えた職員を配置した場合に算定されるものです。基準となる人員配置を満たさない場合、減算が必要になるケースがあります。
人員配置体制加算は条件によりⅠ〜Ⅲに区分され、加算される単位は施設の定員に応じて変化します。人員配置体制加算の区分と加算単位の条件は以下の通りです。
Ⅰ
区分条件
- 区分5、区分6に該当する利用者、もしくはそれに準ずる利用者の割合が6割以上
- 生活支援員等の員数が常勤換算で利用者数を1.7で割った数以上
加算単価
利用定員の数が20人以下・・・・・・265単位
利用定員の数が21人以上60人以下・・・・・・212単位
利用定員の数が61人以上・・・・・・197単位
Ⅱ
区分条件
- 区分5、区分6に該当する利用者、もしくはそれに準ずる利用者の割合が5割以上
- 生活支援員等の員数が常勤換算で利用者数を2.0で割った数以上
加算単価
利用定員の数が20人以下・・・・・・181単位
利用定員の数が21人以上60人以下・・・・・・136単位
利用定員の数が61人以上・・・・・・125単位
Ⅲ
区分条件
- 生活支援員等の員数が常勤換算で利用者数を2.5で割った数以上
利用定員の数が20人以下・・・・・・51単位
利用定員の数が21人以上60人以下・・・・・・38単位
利用定員の数が61人以上・・・・・・33単位
相手先企業の人員配置体制加算を把握することが重要です。
ローンやリースの契約状況を調べる
事業譲渡では、債務や負債などを引き継ぐ必要はありません。
一方、企業全体が譲渡対象となる法人譲渡では、売却側に債務があればその債務も引き継ぐことになります。
対象企業のローンやリースの契約状況を調べることが重要です。
2016年に、大手精密機器受託メーカーの鴻海がシャープの買収を試みたものの、多額の負債が発覚したことなどが原因で、契約を延期した事例があります。
この事例では最終的にM&Aは実現しましたが、相手先の財務調査不足で失敗するケースは少なくありません。
また、法人譲渡では未払残業代や賞与引当金といった帳簿外の債務「簿外債務」まで引き継ぐ必要があります。簿外債務は、決算書に記載されませんので、対象企業の経営状況を入念に調べることが重要です。
設備要件を確認する
事業譲渡の場合、設備の土地・建物に関する賃貸借契約は自動的には引き継がれません。
福祉・介護サービス事業を営むには、行政から設備要件について承認を得る必要があります。
例えば介護施設の設備要件は厚生労働省の「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」によって定められていますが、細かな要件は訪問介護、通所介護など業務形態によって異なります。
障害者施設等の福祉施設でも、厚生労働省の「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」や「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害者支援施設の設備及び運営に関する基準」などによって設備基準が設けられています。
自治体によっては条例で独自の基準が定められているケースもあります。
事業譲渡が成約しても、設備要件を満たしていない場合、福祉・介護事業の運営ができないといった事態に陥ってしまうのです。
注意が必要なのが、売り手も気がつかないうちに設備要件を欠いているケースもある点です。
目的の事業に対応した設備要件を満たしているか、必ず確認しましょう。
デューデリジェンスを慎重に行う
デューデリジェンス(DD、買収監査)とは、買収する予定の事業者の価値や事業内容、リスクなどについて調査することです。
デューデリジェンスは、M&Aのプロセスの中でも重要性が高いプロセスと言えます。
特に介護事業のM&Aは、行政への指定申請等が絡み、複雑かつ相応の時間を要します。
福祉・介護サービスを運営する場合、施設などの許認可も必要ですが、事業譲渡では譲受側(買い手)に許認可は引き継がれず、ケースによっては許認可を取得し直さなければなりません。
福祉・介護業界のM&Aのデューデリジェンスに関しては、厚生労働省が策定した合併・事業譲渡等マニュアルに目を通しておくとよいでしょう。
合併・事業譲渡等マニュアルには、社会福祉法人において合併や事業譲渡をおこなう際のポイントなどが記載されていて、福祉・介護業界のスムーズなM&Aに資するはずです。
厚生労働省の「社会福祉連携推進法人制度」の利用も選択肢でしょう。
社会福祉連携推進法人は令和4年4月から始まった新たな法人制度です。
社会福祉連携推進法人を活用することで、福祉・介護人材の確保、経営基盤の強化、地域共生の取組推進といったことが可能になります。
ただし、デューデリジェンスが不十分だと、譲渡後に思いもしない債務などが発覚し、場合によっては破産にまで追い込まれる可能性もあります。デューデリジェンスは専門家に依頼するのが安全です。
参照元:
厚生労働省「合併・事業譲渡等マニュアル」
厚生労働省「社会福祉連携推進法人制度」
福祉・介護業界のM&A事例
最後に福祉・介護業界のM&A事例を紹介します。
こころネットとNPO法人エルタ
2021年1月、こころネットは自社介護事業の連結子会社「こころガーデン株式会社」の全介護事業を福島県の認定NPO法人エルタに譲渡しました。
売り手のこころガーデン株式会社は、福島県福島市でサービス付き高齢者向け住宅「こころガーデン八島田」を運営するほか、訪問介護事業・通所介護事業・居宅介護支援事業等を行っており、買い手のNPO法人エルタは障害福祉サービスや介護事業を行っています。
こころネットはNPO法人エルタの障害福祉サービスに関する専門性に着眼し、譲渡を決断したようです。
参照元:NPO法人エルタ「事業承継のお知らせ」
ケアサービスと広域社会福祉会
2020年9月18日、株式会社ケアサービスは、株式会社広域社会福祉会が行う訪問介護事業を買収しました。
ケアサービスは、東京都大田区を中心に福祉用具貸与・販売、訪問介護、シニア向け施設紹介、クリーンサービス、エンゼルケア(湯灌・メイク)を行っていて、広域社会福祉会は訪問介護(介護予防)事業を展開しています。
ケアサービスは福祉会の訪問介護事業を買収することで自社のサービスラインナップを拡大し、更なる市場シェア拡大を狙ったとのことです。
参照元:株式会社ケアサービス「事業譲受に関するお知らせ」
メディカル一光グループとライフケア
2020年9月30日、メディカル一光グループの連結子会社株式会社ハピネライフ一光は、介護関連施設の運営会社、株式会社ライフケア(愛知県一宮市)の株式を取得し子会社化する株式譲渡契約を締結しました。
メディカル一光グループは、調剤薬局事業・ヘルスケア事業・医薬品卸事業を中心に、不動産事業・投資事業といった事業を展開しています。
ライフケアは居住系介護施設の運営や通所介護事業などの介護事業を展開しています。
メディカル一光グループが、ヘルスケア事業の規模拡大の一環としてライフケアを孫会社化した形です。
参照元:株式会社メディカル一光グループ「当社連結子会社による「株式会社ライフケア」の株式取得(当社の孫会社化)に関するお知らせ」
まとめ
福祉・介護業界ではサービス利用者が増える一方、人材不足の状況にあり、M&Aで事業を存続させるケースが増えています。福祉・介護業界のM&Aには法人譲渡と事業譲渡がありますが、どちらも譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)双方にメリット・デメリットが存在します。基本的には法人譲渡は大手企業にメリットが大きく、事業譲渡は中小企業にメリットが大きいでしょう。
ただし福祉・介護業界のM&A特有の注意点もありますから、計画的に実施することが大切です。
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