多角化戦略とは?メリット・デメリットと企業の事例を解説
2023年11月16日
このページのまとめ
- アンゾフの経営戦略理論として市場浸透と新製品開発、新市場開拓と多角化戦略がある
- 多角化戦略とは既存事業とは別に新たな市場に参入すること
- 多角化戦略は水平型と垂直型、集中型と集成(コングロマリット)型の4種類がある
- 多角化戦略のメリットは相乗効果とリスク分散、経営資源の効率化など
- M&Aによる多角化戦略では投資規模や相手選び、人材の確保が重要
多角化戦略を検討するにあたって、「もっと詳しいことを知りたい」とお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。多角化戦略には4種類あり、それぞれの内容は異なるものです。本コラムでは、4種類の多角化戦略の概要、メリット・デメリット、M&Aによる多角化戦略を行う場合の注意点などを解説するとともに、上場企業における多角化戦略の成功事例も紹介しています。
目次
多角化戦略とは
多角化戦略とは、企業において従来から続けている事業とは別に、新たな事業を立ち上げて参入することです。経営戦略の1つとして、多くの企業で実践されています。多角化戦略の主な目的は、以下のとおりです。
- 消費者の多様化した需要への対応
- 経営リスクの分散
単一事業だけでは、消費者の多様化した需要について行けずビジネスチャンスを失ってしまう可能性があります。その一方で、多角化戦略を展開し、複数の事業を運営することで、消費者のニーズにリーチしやすくなります。
また、多角化戦略には経営リスクを分散させる効果も期待できます。社会情勢の急変などで1つの市場が悪化したとしても、複数の事業を展開していれば、他の事業でリカバリーできる可能性が高まるでしょう。
アンゾフの成長マトリクスとは
多角化戦略は、高名な経営学者であるイゴール・アンゾフの経営論「アンゾフの成長マトリクス」の中の1つとして挙げられています。アンゾフの成長マトリクスは、「製品」と「市場」をそれぞれ「既存」と「新規」に分類し、その組み合わせで以下の4タイプの経営戦略に分類したものです。
ここでは、この4つの経営戦略について、それぞれの概要を説明します。
市場浸透戦略
市場浸透戦略は、すでに販売している商品や展開しているサービスに関して、これまでと同じ市場において売上を伸ばす経営戦略を意味します。具体例としては、ライバル商品・サービスの顧客を奪うために、徹底的なプロモーションを行うこともその1つでしょう。
また、値下げによって販売数を増やすことで結果的に売上増を目指す場合もあります。その逆で、仮にマーケティングによって顧客離れが起きない確証があるのであれば、値上げを実施して売上増を図るというケースも考えられるでしょう。4つの戦略の中では最もローリスク・ローリターンといえます。
新製品開発戦略
新製品開発戦略は、すでに参入している市場に対し、新商品や新サービスを展開する経営戦略を意味します。全くの新商品・新サービスというよりも、すでに販売・展開している商品・サービスの知名度や実績を活かしたものを投入することが特徴です。
具体例としては、飲料メーカーや自動車メーカーの新商品展開が挙げられます。たとえば、女性向けのスキンケア商品を展開するメーカーが、新たにヘアケア商品を発売することなどがあります。
新市場開拓戦略
新市場開拓戦略は、既存の商品・サービスを新たな市場に投入する経営戦略を意味します。新市場開拓戦略には大きく2つの方向性があり、その1つが、異なる地域への事業展開です。北海道の飲食店が関東に進出したり、日本のメーカーが海外市場に進出したりすることが挙げられます。
もう1つが、異なる顧客層への販売展開です。高齢者向けサービスを別の世代向けに展開したり、女性向け商品を男性向けに販売したりすることが例として挙げられます。
多角化戦略
多角化戦略は、新たな商品・サービスを開発し、新たな市場で事業展開する経営戦略を意味します。
新商品・新サービスの開発には多大な費用がかかるものです。商品販売・サービス展開を始める際には、プロモーション費用もかかります。しかも、開発した商品・サービスが必ずヒットする保証はありません。
こうした点から、多角化戦略は4つの経営戦略の中で最もハイリスク・ハイリターンだといえるでしょう。リスクを少しでも低減する手段として、M&Aにより異業種を買収する多角化戦略も行われています。
多角化戦略の種類
前述した多角化戦略は、さらに以下のような4つの分類に細分化することができます。
- 水平型多角化戦略
- 垂直型多角化戦略
- 集中型多角化戦略
- 集成(コングロマリット)型多角化戦略
ここでは、この4種の多角化戦略の違いを説明します。
1.水平型多角化戦略
水平型多角化戦略で進出する新規市場は、現在、自社が行っている事業の隣接する業界です。
具体例としては、内装業者が塗装業を始めるケースや、工作機械メーカーがロボット事業を始めるケースなどがあります。
類似する市場に対して、自社が持っている技術、ノウハウ、設備や機械類、販売網などがそのまま使えるため、新たな投資はほとんど必要ありません。既存事業とのシナジー効果を狙えるのも特徴です。
2.垂直型多角化戦略
新たな技術を獲得し、既存事業の川上、または川下に該当する新規市場へ進出するのが、垂直型多角化戦略です。
具体例としては、運送会社による倉庫事業の立ち上げや、スーパーやコンビニエンスストアなどのプライベートブランド商品の自社開発、食品メーカーの小売業への進出などがあります。
現在の事業と関連する市場ではあるものの、新たな技術やノウハウ、設備などが必要となることがほとんどであるため、水平型多角化戦略よりもリスクは高まります。
3.集中型多角化戦略
自社が持っている技術、ノウハウ、設備や機械類などを最大限活かした新商品・新サービスを、これまでの市場とは関連性の低い新規市場に展開するのが集中型多角化戦略です。
具体例としては、食品会社によるバイオ事業への進出、自動車メーカーによる航空機製造などが挙げられます。
自社のリソースを活かせるのはメリットですが、十分なマーケティングを行って市場選びをしないと商品やサービスが浸透しない危険性もはらんでいます。
4.集成(コングロマリット)型多角化戦略
これまで行ってきた事業と全く関連性のない新市場へ進出するのが、集成型多角化戦略です。コングロマリット型多角化戦略ともいわれます。資金以外の自社のリソースはほとんど活かせないため、多角化戦略の中でも最もハイリスク・ハイリターンです。
具体例としては、建設会社による外食事業への参入、美容院によるペット産業への参入、不動産会社による農業への参入などがあります。
多角化戦略のメリット
ここでは、多角化戦略で得られるであろう代表的なメリットを取りあげます。
- 相乗効果が期待できる
- リスクを分散できる
- 経営資源を効率化できる
- 製品の寿命の短期化に対応できる
それぞれのメリットについて、内容を解説します。
1.相乗効果が期待できる
自社が持つリソースを活かせる水平型多角化戦略や集中型多角化戦略、既存の事業と関連性のある市場に参入する垂直型多角化戦略の場合、シナジー(相乗)効果の創出が期待できるメリットがあります。
シナジー効果とは、それぞれの事業を個別で行うよりも同一企業内で事業展開することで、より大きな収益が得られる効果のことです。多角化戦略ならではのメリットといえるでしょう。
2.リスクを分散できる
多角化戦略は、経営上、リスクの分散ができるメリットもあります。単一事業しか行っていない場合、その事業が順調なら問題は生じません。しかし、事業の状況が会社の経営状態にダイレクトに反映される状態であることから、何らかの理由で事業が不調になると、その影響で業績が悪化してしまう可能性もあります。
その点、多角化戦略をとることで、不調の事業があっても別の事業がカバーできるため、1つの事業の影響で会社の経営が傾くような事態にはなりにくくなります。
3.経営資源を効率的に活用できる
多角化戦略には、リソース(経営資源)を効率的に活用できるようになるメリットもあります。
既存事業に用いているリソースは、必ずしも100%活用できているとは限りません。
また、リソースの中には活用されずに社内で休眠しているものもあるでしょう。多角化戦略で新たな事業を行うことで、十分に活用されていなかった設備や人的リソースを存分に活用できるようになる可能性があります。
4.製品の寿命の短期化に対応できる
多角化戦略には、製品の寿命の短期化に対応できるメリットもあります。技術革新のスピードが著しく、消費者の需要が多様化する現在、製品寿命(プロダクト・ライフサイクル)は従来よりも短期化する傾向にあります。
多角化戦略をとっておけば、ある事業で製品が寿命となって売上が落ち込んでも、別事業での売上でそれをカバーできる可能性があります。
多角化戦略のデメリット
多角化戦略では、以下のようなデメリットが懸念されます。
- 経営が非効率的になる可能性がある
- コストが増える
- ブランドイメージが希薄化するおそれがある
それぞれのデメリットについて、その内容を解説します。
1.経営が非効率的になる可能性がある
水平型多角化戦略以外の多角化戦略では、経営が非効率になる懸念があることがデメリットの1つです。たとえば、既存事業向けに完成した管理システムなどがあっても、異業種市場に新規参入した場合、以前からある管理システムでは整合性がうまくとれないケースがあります。
現行の管理システムをアレンジするのか、あるいは新たな管理システムを一から作るのか、いずれにしても新たな体制を組むまでの間は、非効率な状態になる懸念があります。
2.コストが増える
水平型多角化戦略以外の多角化戦略の場合、新商品・新サービスの開発費用やプロモーション費用、新たな市場に参入するためのマーケティング費用など、相当のコストが発生することもデメリットとして懸念されます。
ほとんどのコストは先行投資であることから、まず資金繰りが大変です。そのうえ、新商品・新サービスが不調に終わった場合、コストが回収できず業績を下落させる懸念もあります。
3.ブランドイメージが希薄化する恐れがある
水平型多角化戦略以外の多角化戦略では、新たな事業分野の市場へ進出することから、これまで築きあげてきた会社のブランドイメージが希薄化するというデメリットが懸念されます。
特に新規参入した市場でうまく成功できなかった場合などは、競合他社との差別化という部分も懸念点です。やはり、十分にマーケティングを行って勝算を持って新規市場に参入する必要があります。
M&Aによる多角化戦略の注意点
多角化戦略の実践、つまりは新規事業の立ち上げ手段として有用なのが、他の企業や他社の運営する事業を買収で獲得するM&Aです。M&Aによる多角化戦略を行うにあたっては、以下の点がポイントになります。
- 自社の規模を考慮して投資の規模を決める
- 相乗効果が得られる企業を選ぶ
- 事業を推進できる人材を確保する
それぞれのポイントを説明します。
1.自社の規模を考慮して投資の規模を決める
M&Aで他社を買収するとなれば、相応の費用がかかります。自社の規模を考えて対象企業を選びしょう。また、M&Aのスキーム(手法)によっては、先方が合意すれば必ずしも対価を現金にする必要がありません。自社株式や社債などを対価にできるため、現金の出費を抑えられます。
さらに、事業譲渡や会社分割の手法を用いれば、企業を丸ごと買収するのではなく、必要な事業のみの買収が可能です。企業を丸ごと買収するよりは対価を抑えられるでしょう。
2.相乗効果が得られる企業を選ぶ
M&A後、より高い収益を狙えるように、M&Aの対象企業を選定する際は自社が行っている事業との間でシナジー効果の創出が期待できる相手を選ぶべきです。
本格的にM&Aを検討する前に、そもそもどのような多角化戦略を行うかの方針を明確にし、対象事業を定めておく必要があります。また、採るべき多角化戦略としては、コングロマリット型多角化戦略以外の多角化戦略が候補です。
3.事業を推進できる人材を確保する
M&Aの買収側の成功は、M&A後に実施するPMI(Post Merger Integration=経営統合プロセス)がうまく進捗するかどうかにかかっています。そのためには、買収対象企業内の幹部社員や役員など、事業を進めるうえでキーパーソンとなる人材が、M&A実施の際、離職しないよう慎重に対応することが肝要です。
多角化戦略の企業の成功事例
ここでは、実際に多角化戦略に成功した企業として以下の4社を紹介します。
- セブン&アイ・ホールディングス
- 富士フイルムホールディングス
- ヤマハ
- ソニーグループ
これらの企業では、どのような多角化戦略が取られたのか確認しましょう。
1.セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスのグループとしての多角化戦略の柱は、以下の4事業です。
- セブン - イレブン・ジャパンおよびセブン - イレブン・沖縄による国内コンビニエンスストア事業
- 北米、ハワイ、中国での海外コンビニエンスストア事業
- イトーヨーカ堂やヨークベニマルなどのスーパーストア事業
- セブン銀行やセブン・カードサービスなどの金融事業
その他にも、レストラン事業のデニーズ、音楽・映像ソフト販売のタワーレコード、チケット事業のぴあなどが子会社としてグループ傘下に属しています。
参照元:セブン&アイ・ホールディングス「グループ | セブン&アイ・ホールディングス (7andi.com)」
2.富士フイルムホールディングス
富士フイルムは2006(平成18)年以降、ホールディングス体制になりましたが、それ以前の2000(平成12)年以降、本業であった写真フイルム市場が、デジタル化の進展により急激に落ち込む危機を迎えました。その際に多角化戦略が取られ、現在は主に以下の4つの事業領域を展開しています。
- ヘルスケア
- ビジネスイノベーション
- マテリアルズ
- イメージング
ヘルスケアとは、医療用画像診断システムなどの分野です。ビジネスイノベーションとは、オフィス・ビジネス向けソリューション事業などが該当します。マテリアルズとは、電子材料などの高機能材料の分野です。イメージングには、インスタントカメラ「チェキ」などがあります。
参照元:富士フイルムホールディングス「富士フイルムグループ事業概要」
3.ヤマハ
1887(明治20)年の創業時にオルガンの製造から事業を開始したヤマハは、総合楽器メーカーとして、オルガン、ピアノ、打楽器、管楽器、弦楽器、ギター、電子楽器などを製造しています。また、それ以外に、音楽教室事業、音響機器事業、ゴルフ用品事業やリゾート施設事業などが多角化戦略として展開されているのが特徴です。楽器事業と音響機器事業は、すでに海外市場への進出も果たしています。
参照元:ヤマハ「1.ヤマハの価値創造 (yamaha.com)」
4.ソニーグループ
1946(昭和21)年に設立されたソニーグループが、最初に製作し販売したのはテープレコーダーでした。それ以降、音響機器事業を中心に事業を行ってきましたが、現在では以下のような多角化戦略が取られています。
- ゲーム&ネットワークサービス
- 音楽
- 映画
- エンターテインメント・テクノロジー&サービス
- イメージング&センシング・ソリューション
- 金融
- その他
多くの事業が、海外市場に進出しているのも特徴です。
参照元:
ソニーグループ「ソニーグループポータル | 株主向け報告書 (sony.com)」
ソニーグループ「ソニーグループポータル | Sony Japan | 会社沿革」
まとめ
企業の業績向上を目指す場合、経営の多角化戦略は有効な手段です。ただし、新たな市場への参入には決して小さくないリスクが伴います。できるだけリスクを抑えて多角化戦略を実現するには、M&Aで異業種を買収する方法が有力な選択肢の1つです。
しかしながら、M&Aを成功裏に導くには専門的な知識や経験が欠かせません。M&Aでの多角化戦略実現を目指す場合は、M&A仲介会社などの専門家に相談するのが得策です。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
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