このページのまとめ
- 廃業とは、経営者自身の意思で会社経営をやめること
- 法人の廃業では、登記・官報公告・専門家への依頼などで最低数十万円の費用がかかる
- 債務の清算が不可能な場合は、廃業できず破産となる
- 廃業以外にも「会社の休眠」「M&Aによる売却」などの選択肢がある
「会社を廃業するのにどれくらい費用がかかる?」という疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか?
会社の廃業には少なくとも数十万円ほどかかります。それ以上かかることもあるので、廃業を決断する前に費用を見積もっておくことが必要です。
今回は、会社の廃業費用について多角的に解説。株式会社・ 個人事業者・有限会社・合同会社の廃業にかかる費用の詳しい内訳を紹介します。また、廃業の手続きやメリット・デメリットもご紹介します。廃業以外の選択肢についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
廃業とは
「廃業」とは、経営者が自らの意思により会社の経営をやめることです。近年、経済的な理由だけでなく経営者の高齢化も廃業リスクの要因となっています。
中小企業が公表している「2022年版 中小企業白書」によると、経営者の平均年齢が年を追うごとに上昇傾向を示し、休廃業・解散件数も増加傾向を示しています。経営者の高齢化が休廃業・解散件数増加の一因といえるでしょう。なお、2021年の休廃業・解散件数は、44,377件という高水準でした。
廃業と倒産の違い
経営者の意思に反して事業活動が不可能となるのは「倒産」と呼ばれる状態で、廃業とは区別されます。具体的には、資金繰りが悪化し、取引先・従業員への支払いや債務弁済が滞るなどして経営困難に陥る状況が倒産です。
廃業と解散の違い
「解散」とは、会社の事業を停止する手続きです。
廃業は「経営者の意思による事業停止」を意味するのに対し、解散は「事業停止後の具体的な手続き」を指します。
関連記事:廃業とは?倒産や閉店などとの違いやメリット・デメリットなどを解説
法人の廃業にかかる費用
法人の廃業に際しては解散手続きを行わなければならず、それに関わる諸費用も発生します。
中小企業庁の「2019年版中小企業白書」によると、廃業費用の総額が100万円以上かかったとの回答が36.2%でした。なかには1,000万円以上かかったという回答も見られます。
法人の廃業にかかる諸費用の項目と目安は、以下のとおりです。
項目 | 費用目安 |
登記にかかる費用 | 約4万円 |
官報公告にかかる費用 | 3〜4万円 |
在庫・設備を処分するための費用 | 数万〜1,000万円以上 |
物件の原状回復にかかる費用 | (数万~10万円)× 坪数 |
専門家への依頼にかかる費用 | 数十万円 |
登記や官報公告への出費は、法人の種類にかかわらず廃業時にかかります。一方、在庫・設備の処分費用、物件の原状回復にかかる費用、専門家への依頼にかかる費用は、在庫・設備・物件の状況や事業の規模などによって大きく変わる可能性があるでしょう。
ここからは、法人の廃業にかかるそれぞれの費用について、詳しく解説します。
登記費用
会社の廃業の際にも登記は必要です。
会社の廃業で必要となる登記と費用の目安は、以下の通りです。
項目 | 費用目安 |
解散登記 | 30,000円 |
清算人の選任にかかる登記 | 9,000円 |
清算結了にかかる登記 | 2,000円 |
解散登記
解散登記は、企業が解散手続きに入ったことを示すうえで重要なステップです。登録免許税の名目で30,000円の費用がかかります。解散登記は会社解散の2週間以内に行わなければならないため、注意してください。
清算人の選任にかかる登記
会社の清算とは、解散後に有価証券や不動産といった債券の現金化・や債務の回収・弁済などを行う活動を指します。実際に清算手続きを担うのが、清算人です。
清算人の選任登記には9,000円かかり、解散登記と同じく解散後2週間以内に登記しなければなりません。
清算結了にかかる登記
清算結了登記とは、清算終了後に実施する会社消滅のための登記です。清算結了登記を済ませることで、法人税課税も終了します。
清算結了登記には2,000円かかり、解散から2ヶ月以上後に申請可能です。
官報公告費用
清算株式会社は、解散後に速やかに官報で解散の事実と債権申出に関する事項を公告しなければなりません。これは会社法499条で定められており、廃業の事実を債権者に報告するうえで重要な事項です。
法人が官報による公告を行うケースでは、1行あたり3,263円(税抜)の費用がかかります。一般的に解散公告は10行前後必要なので、 費用は3〜4万円程度かかる計算です。
在庫・設備の処分費用
これまでの事業活動で生じた在庫と設備がある場合、その処分についても考えなければなりません。
在庫は、確定申告による税負担を減らすためにまとめて処分するのが一般的です。しかし、一度に大量の在庫が売り切れるとは限りません。このような場合は、やむを得ず安価で売却したり、業者に頼んで処分してもらったりすることになるでしょう。
その際に処分費用が発生します。
設備についても、ニーズがあれば買い取りも期待できますが、古くなってニーズがない設備は専門業者と契約して廃棄処分してもらう必要があります。
廃棄処分にかかる費用は「トラック1台分あたり数万円から」が1つの目安とされていますが、設備や機械の量や状態によって負担すべき費用は変わります。買取不可の設備が多くある場合などは、廃棄処分に多額の出費を要する可能性もあるため、これを見越して廃業計画を立てることが重要です。
物件の原状回復にかかる費用
個人宅や保有している建物で事業を行っているケースでは、原状回復にかかる出費はありません。しかし、賃貸借物件で事業を実施していたケースにおいては、廃業や解散のタイミングで物件を借りる前の状態に戻さなければなりません。
原状回復にかかる出費は「(数万円〜10万円程度)× 坪数」が目安とされているため、物件の面積が大きくなると費用も高くなります。設備の位置を変更しているケースなどでは、さらに費用負担が増すでしょう。
専門家への依頼にかかる費用
登記をはじめとする諸手続きを税理士や司法書士などの専門家に依頼する場合も、費用が発生します。実際に、法人廃業では専門家に手続きを依頼するケースが多いです。
一連の手続きを専門家に依頼すると、数十万円程度の手数料が別途かかります。ただし、依頼する事務所によって費用は異なるため、複数の事務所の見積もりを取るのが得策です。
参照元:中小企業庁「2019年版中小企業白書」
有限会社・合同会社の廃業にかかる費用
有限会社や合同会社を廃業する場合、株式会社の廃業費用とほぼ違いはありません。
したがって、有限会社・合同会社の廃業に際しても、解散登記費用(30,000円)、官報公告にかかる費用(30,000〜40,000円)、清算人選任にかかる登記費用(9,000円)、清算結了にかかる登記費用(2,000円)が必要です。
個人事業主の廃業にかかる費用
個人事業主の廃業は、法人と比べて費用が安く済む傾向があります。個人事業主は法人のように登記を行う必要がないためです。税務署への提出書類や所轄の都道府県税事務所への廃業届の提出費用などがかかりません。
個人事業主が廃業する際に発生する費用は、次のとおりです。
- 在庫や設備の処分費用
- 賃貸物件の原状回復工事費
- 士業(弁護士、税理士などの専門家)への依頼費
個人事業主の場合、自宅を仕事場にして小規模な事業を行っているケースも少なくありません。その場合、上記費用も発生しない可能性があります。したがって、個人事業主の場合、事業内容や事業形態次第では、ほとんど費用が発生せず廃業できるかもしれません。
会社の廃業手続きを自分でおこなう際の流れ
会社(法人)の廃業手続きを自分でおこなう場合は、手続きの流れを理解しておくことが重要です。
具体的な流れは以下の通りです。
- 営業終了日の決定
- 株主総会での決議
- 解散登記
- 清算人の登記
- 廃業届の提出
- 官報での解散公告
- 財産の調査・清算
- 解散・清算の確定申告
- 清算決算報告書の承認
- 清算結了登記
ここからは、会社の廃業手続きを自分でおこなう際の流れを、1つずつ確認していきましょう。
1.営業終了日の決定
はじめに、いつ企業の営業を終了するか決定します。
廃業に際しては、清算の他、従業員・取引先側での対応期間も考慮し、数ヶ月程度先の日程に設定するのが一般的です。営業終了日が決定したら、取引先などの関係者には書面で伝え、従業員にも忘れず通知してください。
2.株主総会での決議
次に、株主総会の特別決議を実施します。
株式会社においては過半数の株主が出席し、かつ特別決議で3分の2の賛同を得なくてはなりません。
また、定款に清算人の定めがないケースでは、併せて清算人の選定も実施します。清算人には代表取締役が選定されるのが一般的です。破産した場合や清算人不在のケースでは、裁判所が清算人を選定します。
3.解散登記
株主総会での決議(解散決議)の後は、清算人が解散登記を管轄の法務局で行います。解散登記を行う期間は、決議から2週間以内と定められているため、注意してください。
なお、解散登記には登記申請書や定款、株主総会の議事録などの書類を提出する必要があります。
4.清算人の登記
解散登記と同じく、株主総会での決議から2週間以内に実施しなければならないのが、清算人の登記(清算人選任登記)です。効率を考えると、2つの登記を同時に行うのが得策です。
5.廃業届の提出
税金や社会保険に関する廃止届を提出します。
具体的な提出先と提出書類は以下の通りです。
【税務署】
- 事業廃止届出書
- 異動届出書
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
【都道府県税事務所】
- 解散についての届出書
【労働基準監督署(*事業開始日から50日以内に提出)】
- 労働保険料還付請求書
- 確定保険料申告書
【ハローワーク(*事業開始日から10日以内に提出)】
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険適用事業所廃止届
- 雇用保険被保険者離職証明書
【日本年金機構 (*事業開始日から5日以内に提出)】
- 健康保険/厚生年金保険適用事業所全喪届
6.官報での解散公告
解散公告を官報で行い、会社の解散と債券の申し出について公告します。会社で把握している債権者については個別通知します。
解散公告は会社法499条に定められている事項なので、必ず行わなければなりません。解散後、速やかに実施しましょう。公告掲載は2ヶ月以上必要です。
7.財産の調査・清算
清算人は、就任後すぐに会社の財産を調査する必要があります。併せて、解散日時点の財産目録と、それを基にした貸借対照表を作成します。
これらは、株主総会への提出・承認を経て清算結了登記まで保存しなければなりません。
8.解散・清算の確定申告
会社の廃業で実施する確定申告には、以下3種類があります。
解散事業年度確定申告
解散確定申告とは、解散事業年度(解散する事業年度のスタートから解散日まで)における確定申告です。解散日翌日より2ヶ月以内が申告期間となります。
清算事業年度確定申告
事業年度をまたいで清算手続きする際に必要な確定申告です。事業年度の終わった2ヶ月以内に実施しなければなりません。なお、清算事業年度確定申告は、事業年度をまたぐたびに必要となります。
残余財産確定事業年度確定申告
残余財産額が確定した際に必要となる確定申告です。この確定申告は、金額確定から1ヶ月以内に実施しなければなりません。
9.清算決算報告書の承認
清算確定申告が終了したら、清算決算報告書を作成することが必要です。清算決算報告書に対して株主総会で承認を得ることで、会社消滅となります。
10.清算結了登記
株主総会の承認日より2週間以内に清算結了登記を法務局にて実施します。
登記に際しては登記申請書、株主総会議事録、委任状などを用意しておきましょう。
有限会社・合同会社の手続きの注意点
有限会社も合同会社も、基本的には株式会社と同じ廃業手続きを行います。
しかし、相違点もあるので注意してください。
有限会社の手続きにおける相違点
有限会社は、2006年に新会社法の施行により株式会社と同じ扱い(特例有限会社)となりました。
ただし、下記の相違点があります。
- 半数以上が出席した株主総会決議で4分の3以上の同意が必要
- 清算人会の設置はできない
- 清算人の登記は、清算人の氏名・住所のみ
自社が有限会社にあたる場合は要チェックです。
合同会社の手続きにおける相違点
合同会社の手続きで異なる点は以下のとおりです。
- 解散の決議には総社員の同意が必要
- 清算人会の設置はできない
- 解散後は会社の合併が制限される
- 合同会社の「社員の責任」は5年経過しないと消滅しない
合同会社を廃業させる場合は、上記4つのことに留意しましょう。
会社の廃業を選択するメリット・デメリット
ここでは、会社を廃業するメリットとデメリットを紹介します。
それぞれを理解したうえで廃業しないと後悔する事態になりかねないので、あらかじめ確認しておきましょう。
会社廃業のメリット
会社廃業のメリットは、以下のとおりです。
- 経営から退いて心身の負担がなくなる
- セカンドライフがスタートし、やりたかったことなどができる
- 倒産前の廃業することで関係先への迷惑を最小限にできる
- 会社の休業とは違い、納税が不要となる
- 黒字廃業の場合は、まとまった資産が残せる
ただし、上記のようなメリットは廃業ではなく、事業継承でも享受できる可能性があります。事業継承の可能性についても検討すると良いでしょう。
会社廃業のデメリット
会社廃業のデメリットは、以下のとおりです。
- 顧客・取引先・地域経済へ影響が出る可能性がある
- 従業員の雇用が失われる
- 技術・ノウハウ・実績が途絶える
- 許認可が全て取り消しとなる
- 廃業にはある程度の時間・費用がかかる
たしかにデメリットはありますが、「経営難や業績悪化が将来的に改善不可能だと判断される場合」「事業継承や会社売却などが難しい場合」などでは、廃業が最良の選択となり得ます。
会社の廃業ができないケース
「会社に借金があると廃業できない」といわれることも多いですが、これは事実です。会社に借金がある場合は清算(通常清算)が不可能であり、廃業ではなく破産を選択することになります。ただし、残余財産によって債務の清算が可能であれば、借金があっても廃業は可能です。
会社に借金はなくても、廃業手続きに必要な諸費用が支払えない場合などは、廃業は困難です。対策としては、少しでも廃業の可能性が生じた時点で早めに専門家に相談することが挙げられます。
会社の廃業以外で検討すべき選択肢
会社の廃業でメリットが享受できるケースがある一方、 デメリットがあったり廃業が難しかったりするケースもあります。
そのような場合に検討すべき選択肢は、「会社の休眠」「M&Aによる売却」などです。
会社の休眠
会社の休眠とは、長期間にわたり事業活動を停止させることです。最後に登記を行った日から12年以上が経過すると、会社は休眠会社となります。
休眠会社には、法人税や消費税がかからない、法人住民税の均等割が免除される場合がある、会社の解散・清算をした場合のコストが不要などのメリットがあります。
しかし、固定資産税は発生し続け、税務申告が必要、定期的な役員の変更登記が必要、最後の登記から12年が経過すると「みなし解散」となるなどのデメリットもあるため注意が必要です。
新たなビジネスを考案するまで会社を休業したい場合や、法人税・消費税の負担を抑えたい場合などは、休眠会社を検討するのも一つの選択肢です。デメリットや注意点を事前に確認したうえで検討してください。
M&Aによる売却
会社を廃業する代わりにM&Aを選択することができます。
M&Aのメリットは、従業員の雇用を維持できることや取引先との取引を継続できること、事業・ノウハウを継承できることなどです。また、会社を売ることで売却益を得られます。です。
しかし、M&Aには複雑な手続きと費用がかかるなどのデメリットがあるほか、買収後の統合や従業員のマネジメントなど、新たな課題が生じる可能性もあります。
M&Aは、廃業する代わりに事業を継続させたい、会社や事業を後世に伝えたい場合に適しています。デメリットや注意点を踏まえたうえで、検討してみてください。
まとめ
法人の廃業は、個人事業主の廃業と比較して費用がかかります。最低でも数十万円かかり、在庫・設備の処分や原状回復などが必要だと100〜1,000万円程度かかるケースも少なくありません。
廃業以外に会社の休眠やM&Aによる売却などの方法もあるため、幅広い選択肢を検討するのが得策です。
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