このページのまとめ
- イグジットとは、創業者や出資者が株式の公開や売却によって利益を得ること
- イグジットは、ハーベスティング(Harvesting)とも呼ばれる
- イグジットの手法は「IPO」「M&A」「MBO」「EBO」「LBO」の5つある
- イグジット成功に向けて企業価値を高め、自社に合った手法を選ぶことが重要
イグジットとは、創業者や出資者が株式の公開や売却をし、利益を獲得することを意味します。一口にイグジットとはいっても、IPOやM&Aなど、それぞれの手法の特徴を理解する必要があり、どれを選ぶべきか迷ってしまう方もいるでしょう。
本記事では、イグジットの意味や5つの手法のメリット・デメリット、成功のポイントなどを解説します。イグジットへの理解を深めることで、より慎重に自社の将来を検討できるはずです。
目次
ビジネスにおけるイグジットの意味とは
ビジネスにおけるイグジットとは、創業者や出資者が自身の保有する株式を売却することを通して、投資資金の回収や利益を獲得することです。主に、ベンチャービジネスや企業再生において実施されます。
その名の通り、投資した企業を最終的に回収することで、「撤退」することを意味します。また、収穫を意味するハーベスティング(Harvesting)と呼ばれることもある点は、押さえておきましょう。
イグジットをおこなう目的
イグジットが実施される背景には、出資者に金銭的なリターンを出さなければならない状況が関係しています。具体的には、企業の上場や売却という手段が考えられます。
また、出資者の利益の確保だけではなく、企業の資金調達の手段としてイグジットが用いられる場合もあります。なかには、後継者不在を理由にイグジットを実施する企業があるのも事実です。
イグジットをする企業の傾向
企業がイグジットを実行に移すにあたっては、出資者がその計画や成功の可能性を認め、投資をする必要があります。資金調達面で企業がイグジットによって十分な資金を確保することができれば、企業が順調に成長するきっかけとなるだけではなく、企業の経営状況を改善できる可能性が高まります。
そのため、イグジットを実施するのは、再生を目指している企業や、上場を検討している企業である場合が多いでしょう。
日米のイグジットの傾向
ひとえにイグジットとはいっても、日本とアメリカではそれぞれ傾向が異なります。イグジットを確実に進めるためにも、イグジットにまつわる基礎知識を確認しておきましょう。
日本におけるイグジットの傾向
「『平成30年度産業経済研究委託事業』に関する報告書」によると、日本のイグジットは、IPOが6〜7割と大きな割合を占めており、残りの3〜4割程度がM&Aにより実施されていることがわかります。
つまり、日本のベンチャー企業のイグジットの多くは、株式公開でおこなわれている点が1つの特徴だといえるでしょう。また、イグジット後は、創業者が事業から離れるケースが一般的ですが、そのまま事業に継続して携わる傾向が強いのも日本ならではの傾向です。
参照元:三菱総合研究所「『平成30年度産業経済研究委託事業』に関する報告書」
アメリカにおけるイグジットの傾向
一方でアメリカにおいては、イグジットの手段としてM&Aを選ぶ割合が9割程度である点が、日本と大きく異なります。シリコンバレーなどの地域では、ユニコーン企業の株式公開や、大手テック企業の事業買収などが多くみられます。
こうした傾向が強まっているのには、アメリカ特有のビジネスの進め方が関係しているといえるでしょう。アメリカでは、ベンチャー企業は積極的にイグジットをすることで資金を集め、新たな分野へ挑戦するという流れが出来上がっています。
イグジットの手法とメリット・デメリット
手法 | 概要 | メリット | デメリット |
IPO | 上場・株式公開 | ・経営者がそのまま事業を継続できる ・企業の知名度や信用が高められる | ・上場のハードルが高い ・株主に対する責任が伴う |
M&A | 企業の合併・買収 | ・赤字があっても売却の可能性がある ・IPOと比較して短時間で資金調達ができる | ・買い手が見つからない可能性がある ・希望通りの条件で売却できない可能性がある |
MBO | 現経営陣による株式買取 | ・会社の意思決定がしやすくなる | ・買収資金の調達に困難が伴う ・経営体制は大きく変わらない |
EBO | 従業員による株式買取 | ・後継者問題の解決策となる ・企業をよく知る従業員が経営に携われる | ・資金準備に苦労する場合がある ・企業体制の刷新には向かない |
LBO | 借入金での企業・事業買収 | ・多額の自己資金を用意する必要がない ・法人税が節約できる可能性がある ・大きなリターンを得られる可能性がある | ・資金繰り悪化のリスクがある ・借入金の返済が必要 |
イグジットを確実に進めるためには、自社に合った手法を選択することが重要です。今回は、5つの異なる手法の特徴やメリット・デメリットなどを解説します。
IPO
IPO(Initial Public Offering)とは、企業が株式を上場させて資金調達を図る手法です。株式上場をする際は、経営者や出資者が保有している株式を一度売却し、新たに別の投資家たちに株式を購入してもらいます。
これまで企業の関係者のみが株式を保有していた場合は、上場によって市場に株式が出回ることで、より多くの資金を得られる可能性があるでしょう。
メリット
IPOの主なメリットとしては、次の4点が挙げられます。
- 株式公開後も経営者が事業を継続できる
- 上場に際して経営側は資金を獲得できる
- 幅広い層の株主を獲得できる
- 企業の知名度や信用度が上がる可能性がある
IPOであれば同じ経営者がそのまま経営を続けることができるのが、他の手法と大きく異なる1つ目のメリットです。また、株式を上場することで、これまで縁のなかった多くの人々に株を購入してもらえる機会を得られます。
株式上場をしている会社として、信頼性が高まり、知名度を上げられる可能性もあるでしょう。その場合、相乗効果として資金調達がしやすくなるのもポイントです。
デメリット
一方でIPOのデメリットとしては、以下の点を把握しておく必要があります。
- ある程度の企業規模がないと株式上場が叶わない
- 株式上場までには厳しい審査基準をクリアする必要がある
- 株主に対する責任が発生する
多くのメリットが期待できるIPOですが、望めばすべての企業が株式を上場できるというわけではありません。株式を上場するためには、証券市場ごとに定められた厳しい条件をクリアする必要があり、必然的にある程度の規模がある企業でないと実現できないのが事実です。
また、多くの投資家に向けて株式を公開する以上、株式上場後も株主に対する責任が伴う点は押さえておく必要があるでしょう。
M&A
M&A(Mergers and Acquisitions)とは、企業や事業の合併・買収を意味します。他企業や投資会社に対して事業や会社そのものを売却し、資金を得る手法です。
具体的には、自社を構成している特定の事業や、株式を譲渡することで、M&Aが成立します。資金調達の他にも、後継者問題や経営基盤の強化、新規分野への参入など、さまざまな理由でM&Aが実施されます。
メリット
M&Aの主なメリットは、以下の通りです。
- IPOよりも比較的短期間で資金調達ができる
- 赤字を抱えていても売却が決まる可能性がある
IPOで株式を公開するまでには、数年間の準備期間が必要であるのが一般的です。対してM&Aであれば、条件さえ合えば、すぐに買い手が見つかる可能性があり、よりスピーディーに資金調達が可能となります。
また、経営状況が悪く赤字を抱えてしまっている場合でも、企業や事業の将来性が認められれば、売却が成立する可能性があります。
デメリット
ただし、M&Aを実施する際には、次のデメリットに関しても慎重に検討する必要があります。
- 必ずしも買い手が見つかるとは限らない
- 希望額よりも売値が下がってしまう可能性がある
M&Aを成立させるためには、相手側に自社や事業を魅力的だと感じてもらう必要があります。売却したいと強く希望していても、条件の合う相手が見つからなければ資金調達ができないのがデメリットです。
また、M&Aを進めるうえでは、両者で契約内容を慎重に検討して進めるのが一般的です。売却価格を調整するなかで、希望額での売却成立が難しく、最終的に売値を下げざるを得えない場合も考えられます。
MBO
MBO(Management Buyout)とは、経営陣側が創業者や出資者の保有している株式を買い取る手法です。上場廃止や経営体制の見直しを理由に、MBOが実施されるケースがあります。
ただし、MBOを実施するためには、相当な資金を準備しなければなりません。そのため、金融機関や投資ファンドの支援を受け、手続きを進めるのが一般的です。
メリット
MBOによって、経営陣が株式を買い取ることのメリットは、会社の意思決定がしやすくなる点です。
MBOを実施することは、経営陣が既存の株主から経営権を獲得する状態を意味します。つまり、会社の所有者と経営者が統一されることで、その後の意思決定がしやすい状況を作れるのがメリットです。
デメリット
一見メリットの大きいMBOですが、以下のようなデメリットには注意が必要です。
- 買収資金の準備に困難が伴う可能性がある
- 経営体制が大きく変わらない
株式を買い取れるほどの大金を経営陣が保有していない場合は、金融機関や投資ファンドから借り入れる必要があります。
MBOの実施後に経営がうまく軌道に乗らない場合は、経営不振などに陥ってしまう可能性もあるでしょう。また、既存の経営陣が引き続き経営を任される点は変わらないため、大きな経営体制の変化は期待できない場合が多いようです。
EBO
EBO(Employee Buyout)とは、従業員が株式を購入することで企業を買収する手法です。他の方法と比較すると、事業の継続を前提としている場合に用いられることが多く、後継者の不在に悩む中小企業において状況を打開する手段としても役立ちます。
従来のEBOでは、金融機関からの融資で資金を準備するのが一般的でしたが、近年ではファンドやベンチャーキャピタルの投資によって資金調達をするケースも増えているのが特徴です。
メリット
EBOのメリットとしては、次の点が挙げられます。
- 後継者問題の解決策となる
- 企業のことをよく知る従業員が経営をおこなえる
企業や事業の後継者が確保できていない場合に、解決策となる可能性があります。主に、会社を継続させるために、経営者から従業員に事業を継承する目的で実施されるのが一般的です。
EBOでは新たに経営権を握るのが、社内の事情をよく知る従業員である点も、その後の経営を効果的におこなうためのメリットだといえるでしょう。
デメリット
経営者から従業員への事業継承とはいっても、次のデメリットには注意する必要があります。
- 資金準備に苦労する場合がある
- 企業体制の刷新には向かない
EBOでは、いち従業員が株式や事業の買取をする必要があるため、資金が不足してしまう恐れがあります。実施にこぎつけるためには、金融機関からの借り入れや投資をしてくれるスポンサーを探さなければなりません。
資金調達の段階で問題が発生してしまうと、なかなか計画どおりに進まない可能性があるのがデメリットです。また、あくまで経営権を握るのは既存の社員であるため、企業体制を大幅に変えたい場合には不向きだといえるでしょう。
LBO
LBO(Leveraged Buyout)とは、借入金を用いて会社や事業を買い取る手法です。売却の対象となる会社や事業の資産や信用力を担保に、金融機関は資金を融資します。
他の手法と比較した場合に、少ない自己資金で取引ができる可能性が高いのが特徴です。
メリット
LBOの実施で得られるメリットは、次のとおりです。
- 多額の自己資金を用意する必要がない
- 法人税の節約につながる可能性がある
- 投資額に対して大きなリターンを得られる可能性がある
LBOは融資で買収資金を賄うため、多額の自己資金を必要としないのが1つ目のメリットです。融資してもらえる金額は、対象の企業価値によって異なります。
LBOでは取引完了後に利息の返済をおこない、条件を満たしていれば損金算入が可能です。この場合、LBOの売却対象会社は法人税を節約できます。
さらに、手元の資金が乏しい場合に、大きなリターンを狙えるのも、LBOならではのメリットだといえるでしょう。
デメリット
一方で押さえておきたいLBOのデメリットとしては、以下の点が当てはまります。
- 資金繰り悪化のリスクがある
- 借入金の返済が必要
LBOの実施に際して高額の借入金が発生した場合は、返済に追われ資金繰りが悪化してしまう可能性があります。業績不振などに陥ってしまうとLBO自体が失敗とみなされてしまうため、ミスが許されないという緊張感が続くのもデメリットです。
また、LBOの借入金は通常のローンと比べて負債比率が高いため、余剰資金が発生しても、ローンの返済に充てなければならないケースが多いでしょう。
2段階イグジットの概要とメリット
2段階イグジットとは、ファンドに株式を譲渡して大企業の傘下に入った後に、IPOを目指す手法です。ファンドの支援を受けながら、IPOの準備ができる点で、近年注目が高まっています。
2段階イグジットの概要とメリットを解説します。
2段階イグジットとは
2段階イグジットでは、未上場企業が最終的なIPOを目指し、その前段階としてM&Aにより大企業の傘下に入ります。大企業の資源を利用して事業の拡大や成長を図る目的で、過半数の株式を売却するのが一般的です。
創業者もある程度の株式を継続して保有する形で企業に残り、ともにIPOに向けて準備を進めます。
売り手側のメリット
2段階イグジットの売り手側のメリットは、通常よりも高い売却価格がつく可能性がある点です。一般のM&Aよりも有利な条件で契約を進められるのは、M&Aの審査の段階で、すでに将来的なIPOを見据えた評価が実施されるためです。
大企業の傘下に入りIPOを目指すという流れができていることで、その恩恵を受けられる可能性があります。
買い手側のメリット
買い手側にとっても、2段階エグジットで最終的なIPOという共通の目標を持っていることで、M&A後のトラブルが回避されやすいのがメリットです。たとえば、M&Aを進める際にすでにお互いが同じ方向性であると確認できているため、売り手側企業の創業者や重要メンバーなどが、IPO実現の前に退社してしまう可能性は低いといえるでしょう。
イグジットを成功させるポイント
イグジットを成功させるためには、次の3つのポイントを意識するようにしましょう。
- 事業の収益性を高める
- 会社の成長期やタイミングのよい時にイグジットをおこなう
- 自社が有利になる手法を選ぶ
各ポイントを解説します。
事業の収益性を高める
自社にとって有利な条件でイグジットを進めるためには、事業の収益性を高めて企業価値を上げておくことが重要です。企業の将来性が認められることで、より高い売却価格で契約が成立する可能性があります。
具体的には、競合他社と差別化できる点を強化することや、収益率を改善することなどが有効です。
会社の成長期やタイミングのよい時にイグジットをおこなう
イグジットを成功させるためには、実施のタイミングも重要です。会社が成長を続けて利益を上げているタイミングでのイグジットは、企業価値を高く評価してもらえる可能性があります。
また、社内のタイミングだけではなく、市場の動きなど外部要因にも注意を払うようにしましょう。イグジットを成功させるというゴールを設定し、それに向けて準備を進め、いつでもイグジットに踏み切れる状態を整えておくのが理想です。
自社が有利になる手法を選ぶ
先にご紹介したとおり、イグジットには複数の手法があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の状況に応じて効果的な手法を選択することが重要です。
ときには、複数の手段を事前に検討しておき、状況に合わせて柔軟な対応をするのも手です。たとえば、IPOを目指して事業を進めるなかで実現が難しい状況に陥った場合、M&Aでの事業売却に切り替えて資金を調達するなど、臨機応変な意思決定が企業成長にプラスとなる可能性があります。
イグジットをおこなう際の注意点
最後に、イグジットをおこなう際の2つの注意点をご紹介します。
- 経営権や資金調達など包括的に考えて戦略を練る
- あらゆる可能性を想定しておく
自社にとってイグジットを有利に進めるために、できる準備をしておきましょう。
経営権や資金調達など包括的に考えて戦略を練る
イグジットの実施に際しては、経営権の所在や資金調達の方法など、さまざまな側面から自社を分析し、意思決定をしなければなりません。目先の利益だけを優先するのではなく、戦略を立てる場合には、包括的な要素を踏まえて慎重に検討するようにしましょう。
あらゆる可能性を想定しておく
イグジットで資金調達を計画している場合、必ずしも思いどおりにすべてが進むとは限りません。万が一計画通りに契約が進まなければ、方向性の変更を迫られることもあるでしょう。
また、世界情勢の動きなど、自社の力ではどうしようもない事情により、企業価値に変動が出てしまう恐れもあります。そのような場合は、一度立ち止まってプランを再考するなど、焦らずに対応することが重要です。
まとめ
イグジットとは、創業者や出資者が自身の保有する株式を売却・公開するなどして、資金の回収や利益の獲得をすることです。イグジットが実施される背景には、企業の資金調達だけではなく、後継者問題の解決といった意図があるケースもあります。
イグジットの手法は、IPO・M&A・MBO・EBO・LBOの5種類です。それぞれの特徴やメリット・デメリットを把握し、自社に合った方法を検討する必要があります。
イグジットは、企業価値を高めたうえで、タイミングよく実施するのが成功の秘訣です。計画的に準備を進めて、自社に有利な条件でイグジットを成功させましょう。
イグジットの実施には、さまざまな専門知識やノウハウが求められます。確実に成功させたい場合には、経験豊富な専門家に依頼するのも手です。
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