このページのまとめ
- 再生ファンドには企業再生ファンドと事業再生ファンドがある
- 企業再生ファンドは経営不振の企業に投資して企業再生を図り、株式の売却で利益を得る
- 事業再生ファンドは金融機関などから出資を受けた官民連携ファンド
- 再生ファンドのメリットは資金確保やノウハウの享受、後継者問題の解消など
- 再生ファンドのデメリットは、株主偏重の経営やリストラが行われるリスクがあること
「再生ファンドって何?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか?
再生ファンドとは、経営に難を抱える企業に対して投資家から資金を集めて、その資金をもとに企業再生を図り、株式の売却によってリターンを得ることです。
この記事では、再生ファンドの概要や仕組み、メリット・デメリットなどについて解説します。また、再生ファンドの方法や手続き、事例一覧も紹介。企業を立て直す手法の一つである再生ファンドの理解を深めましょう。
目次
再生ファンドとは
再生ファンドとは、経営不振や破綻に陥った企業や事業の再生を図るファンドのことです。主に、「企業再生ファンド」と「事業再生ファンド」の2種類があります。
企業再生ファンドの概要
経営破綻に陥った企業に対して投資して株主となり、再生を果たして企業価値を高めたあとに株式を売却し、リターンを得るファンドのことです。
ただし、投資対象は経営不振に陥っている企業であるため、投資リスクは高くなります。
経営不振に陥った企業が復活することは非常に困難とされるため、経営不振から再生できる経営資源やポテンシャルがあるかを見極めるスキルも必要です。
企業再生ファンドの仕組み
企業再生ファンドは、経営不振の企業に投資してどのように利益を得ているのかを解説します。
1.企業の選別
再生の可能性が高い企業を選別し、投資家から集めた資金で株式を格安で購入します。再生の可能性の高い企業には、以下の特徴があります。
- 本業の収益力が高い
- 優れた技術やノウハウがある
長年手がけてきた事業とは別に、新規事業を展開しようとして失敗した会社や、他事業でも応用できる技術などを持っている企業は企業価値の高い会社として選ばれやすいでしょう。
2.企業の再生を図る
企業の再生には、主に以下の2つの手法が用いられます。
ターンアラウンド
ターンアラウンドは、事業を方向転換させて再生を図る手法です。業績不振の事業を改善し、収益を上げられるように立て直しをします。中長期的なプランを立てて企業の根本的な問題を洗い出し、部門を問わずに多角的な改革を図るという特徴があります。
ワークアウト
ワークアウトとは、従業員のリストラや事業規模の縮小などのダウンサイジングによって再生を図る手法で、短期間での収益改善を目的にしています。
ダウンサイジングとは、組織や人員の削減により生産性の向上を図る取り組みを指します。コストを最小限に抑えながら組織の構造調整を行い、より無駄のない効率的な職場を作るために行われることが多いです。
3.エグジットの実施
ターンアラウンドやワークアウトにより、収益が改善し、十分に企業価値が上昇した時点で、株式公開やM&Aによりエグジットを実施します。その売却益を投資家に還元していきます。
経営が悪化している企業を安価で買い叩くイメージから、企業再生ファンドはハゲタカファンドとも呼ばれています。
事業再生ファンドの概要
中小企業再生ファンドとも呼ばれる投資事業有限責任組合のことで、官民連携ファンドでもあります。中小企業への支援を行うことを前提に、金融機関や地方公共団体などから出資を受けています。
その出資金をもとに、株式取得か金銭債権などによる投資を行い、中小企業が再生するための経営資金を作ります。
事業再生ファンドの出資者(組合員)
事業再生ファンドの出資者(組合員)には、ジェネラルパートナーとリミテッドパートナーがいます。それぞれどのような役割を担っているのか解説していきます。
ジェネラルパートナー(無限責任組合員)
ジェネラルパートナーとは、自己の出資額に関係なく、無限に弁済責任を負う組合員です。対象中小企業に様々な経営支援業務を直接行い、ファンドを運営する対価として、組合から管理報酬と成功報酬を受領することができます。
しかし、出資したファンドの経営が失敗してしまい、多額の負債を抱えてしまった場合に、その弁済を上限なく無限に背負わなければならない立場でもあります。そのため、主に投資専門会社が就任します。
リミテッドパートナー(有限責任組合員)
リミテッドパートナーは、弁済責任を負う金額が自己の出資分だけの組合員です。ファンドへの投資の成果として買収差益(キャピタルゲイン)を得ることを目的に、ジェネラルパートナーに資金の運用を委託します。
従来は個人投資家もリミテッドパートナーになることが可能でしたが、2015年の金融商品取引法の改正により、原則として「金融商品取引法施行令17条の12第1項各号に列挙される投資家」でないと出資ができなくなりました。そのため、金融機関、地方公共団体、独立行政法人、中小企業基盤整備機構などが就任しています。
参考:e-Gov法令検索「金融商品取引法施行令」
事業再生ファンドの支援内容
一般的な事業再生ファンドでよく見られる支援内容は、以下の5つになります。
1.再生計画の策定
中小企業が単独で自社の問題点を洗い出し、再生計画を策定することは簡単ではありません。
中小企業診断士などの専門家を交えて、中小企業再生支援協議会と一緒に再生計画を策定していきます。
中小企業再生支援協議会とは、経営が悪化した中小企業の再生を目的に、各都道府県に設置された公的な団体です。
2.資金支援
再生計画策定後に、事業再生ファンドが株式の買取などを行い、再生に必要な資金を提供します。
3.債権買い取り
資金提供とともに、あるいは資金提供の代わりに債権の買取を行い、中小企業の再建を容易にします。ファクタリングとも呼ばれる支援です。
4.ハンズオン支援
経営者だけでは策定された再生計画を実行することが困難な場合、経営アドバイザーなどのスタッフを補佐役として会社に常駐させ、スムーズに計画が進むようにします。
5.M&Aによる事業再生
M&Aにより不採算事業を売却し、収益を上げられる見込みのある事業に経営資源を集中させます。
再生ファンドのメリット・デメリット
再生ファンドには、メリットとデメリットがあります。メリットだけではなく、デメリットも把握して、再生ファンドの利用を検討しましょう。
再生ファンドの3つのメリット
M&Aによって再生ファンドに事業や株式を売却することで、以下のようなメリットがあります。
- 資金支援を得られる
- ファンドのノウハウを活かせる
- 後継者問題を解決できる
再生ファンドを活用する最大のメリットは、ファンドの投資により資金支援を得られることです。ファンドの出資した資金により、経営課題を解決できる可能性が高くなるでしょう。
また、再生ファンドは多くの場合企業経営に介入します。資金提供だけでなく、経営再建などの専門家による施策が実行されれれば、経営ノウハウを学ぶ機会も得られます。効率的に企業再生を進めることが可能です。
また、後継者問題を解決できるというメリットもあります。再生ファンドから後継者候補を受け入れることで、事業を継承することが可能です。近年、中小企業では後継者問題が深刻化しています。後継者問題の解決を図りたい場合も再生ファンドとのM&Aが有効です。
再生ファンドの3つのデメリット
再生ファンドに売却するデメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 企業文化に合わない経営をされる可能性がある
- リストラや事業縮小、社員の士気低下などで人材が流出する危険性がある
- 短期間で転売されるリスクがある
再生ファンドの主な目的は、経営不振に陥った企業に投資することで企業価値を上げ、将来的なキャピタルゲインを獲得することです。そのため、長年培ってきた企業の文化や伝統よりも、利益を優先して経営の合理化を図る傾向があります。
企業文化に合わない経営をされる可能性があることは、再生ファンドを利用する上での最大のデメリットといえるでしょう。
人件費や事業活動費を削減するために、リストラや事業縮小が行われることも想定されるため、不安定な会社の状況や企業文化の変化を嫌って社員が離職する危険性もあります。
また、短期間で転売されるリスクもあります。再生ファンドに会社を売却すると、基本的に経営権も投資家に渡るため、投資家は自由に株式を売却できるようになります。投資価格よりも高い価格で買い取ってくれる企業や投資家が現れた場合、支援してくれた投資家はその企業や投資家に転売するかもしれません。
再生ファンドへの売却を考えている場合、これらのデメリットをよく把握しておく必要があるでしょう。
企業再生について
再生ファンドは、投資家から集めた資金をもとに企業の再生を図ります。
ここからは、企業の再生方法について解説します。
企業の2つの再生方法
企業の再生方法は、法的再生と私的再生の2種類に分けられます。
法的再生
法的再生とは、民事再生法や会社更正法などの法律に沿って行う企業再生手法のことです。裁判所の関与のもと法律に沿って進められるため、安全性が高いという特徴があります。法的再生はさらに再建型と清算型に分けられます。
再建型とは、会社を存続させたまま法的再生を進める方法のことで、民事再生・会社更生・特定調停などの手法があります。
一方で精算型とは、一度会社を解散させて事業再生を図る手法のことです。清算型での法的再生には、再建型の事業再生をしても黒字化が見込めない場合や、清算した方が債権者への弁済額が多くなる場合といった条件があります。
私的再生
私的再生とは、会社と債権者という個人間の合意のもと事業再生を行う手法のことです。法的再生のように裁判所が関与することはなく、あくまでも当事者間の合意にもとづいて事業の再生を行います。債権者の合意が得られれば、柔軟で迅速な再生に踏み切ることができます。
ただし、私的再生を行えるのは、債権者の数が少なく公平性を保てる、債権者が事業再生に協力的であるといった条件に該当する場合のみです。
企業の再生手続き
企業の再生手続きについて、再建型の例を用いて解説します。
- 企業再生・M&Aの専門家に相談
- 企業再生の分析・検討
- デューデリジェンス
- 再生計画案の策定
- 実行
企業の再生手続きを始める場合、まずは企業再生やM&Aの専門家に相談します。破綻寸前の中小企業を再生させることは簡単なことではありません。そのため、専門家のサポートを受けながら企業再生を検討します。
次に、再生したい企業の分析と検討をします。対象企業がどのような経営状態にあるのか、なぜ破綻寸前になっているのかを把握し、再生のための土台作りを行います。
次に、デューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスとは、会社の事業内容や財務状況などを詳しく調査することです。資産と負債を把握して、具体的に事業再生計画を立てていきます。
次に、デューデリジェンスの結果をもとに再生計画案の策定をします。3〜5年で再生できるように、黒字化が見込める事業を見極めたり、人員削減や赤字事業の撤退をしてコスト削減を図ったりします。
再生計画案の策定が完了したら、再生に向けて再生計画案を実施します。
再生ファンドの事例一覧
近年、再生ファンドによるM&Aが増えつつあります。ここからは、再生ファンドの事例を5つご紹介します。
コールバーグ・クラビス・ロバーツ
コールバーグ・クラビス・ロバーツは、アメリカのニューヨークを拠点とする国際的投資会社で、世界三大PEファンドの一つと言われています、レバレッジド・バイアウト(LBO)による買収を得意としていますが、他にもヘッジファンドや不動産投資も手掛けるなど、幅広く投資している有名企業です。
そんなコールバーグ・クラビス・ロバーツは、日本の株式会社日立国際電気への株式公開買付(TOB)を成立させたことがあります。株式会社日立国際電気は、映像・通信ソリューション事業と成膜プロセスソリューション事業を展開する企業です。
コールバーグ・クラビス・ロバーツの子会社であるHKEホールディングス合同会社が株式会社日立国際電気にTOBを実施し、26,242,364株(保有割合約26%)を取得しています。
参考:
株式会社日立製作所「子会社株式に対する公開買付け等に係る基本契約の変更に関するお知らせ」
日本取引所グループ「新規上場申請のための有価証券報告書」
ブラックストーン
アメリカに拠点を置く大手の投資ファンド運用会社「ブラックストーン」も、コールバーグ・クラビス・ロバーツと並んで世界最大規模の企業再生ファンドとして有名です。
競合他社に比べると遅めではありますが、日本でも企業再生ファンド活動をしています。例えば、2021年に武田薬品工業の大衆薬事業を引き継いだ武田コンシューマーヘルスケアを約2,300億円で買収しました。
参考:武田薬品工業株式会社「武田コンシューマーヘルスケア株式会社株式のBlackstoneへの譲渡完了について」
株式会社雪国まいたけ
雪国まいたけは、困難とされてきたまいたけの人工栽培による大量生産技術の開発に成功し、1983年に株式会社として設立されました。
1994年に新潟証券取引所地域産業育成部に上場、2000年代には世界進出と順調に成長を続けてきましたが、2010年代より経営が悪化、さらに2013年には内部告発により不適切な会計処理が発覚しました。
創業者の発言力が強すぎる点を問題視した経営陣は、アメリカ・ボストンに本社を置く投資ファンド、ベインキャピタルを招いて、創業者にTOBを仕掛けました。メインバンクの協力もありTOBは成立し、雪国まいたけは一旦ベインキャピタルグループの事実上の完全子会社となった後、2017年に米卸大手の神明ホールディングスの出資を受けて、2020年には東京証券取引所市場第一部への上場を果たしました。
参考:株式会社雪国まいたけ「会社と歴史」
カネボウ
紡績会社として1887年に創業したカネボウは、日用品、化粧品、食品、住宅・不動産業などに進出し、事業を拡大していきました。化粧品事業はバブル経済下で大きく発展しましたが、紡績事業などでは長く赤字が続いている状況でした。その状況を打開しようと化粧品事業の利益を投入した為、成長性の高い化粧品事業に対して再投資が行われにくくなり、大きな問題となります。
問題を解決するために、2004年に化粧品事業を他の事業部門から切り離し、分離・独立させることが決定。新会社カネボウ化粧品に対して、産業再生支援機構から3660億円、カネボウ本体から140億円が出資され、機構は85%の議決権を持つことになりました。カネボウ化粧品は2006年に花王に売却され、今日に至ります。
参考:内閣府「株式会社カネボウ化粧品に対する債権の株式化について」
日本航空
日本初の国際線定期航空運送事業の免許会社として発足した日本航空は、航空機の座席の過剰供給やホテル経営などの関連事業への投資が問題視されていた最中、2008年のリーマンショックが直接的な打撃となり経営破綻しました。
経営再建は、企業再生支援機構のもとに行われました。2010年に会社更生法の適用が申請され、金融機関が5,215億円の債権を放棄し、企業再生支援機構から3,500億円の公的資金が注入されました。
座席の供給過剰の原因となっていた大型機を売却し、中型機を主軸とする機体編成への転換を図るほか、JALカードなどの関連会社の売却や大規模なワークアウトなど、徹底的な組織・経営改革が行われました。その結果、2010年に1,337億円の赤字を抱えていた日本航空は、2012年3月期に2,049億円の営業黒字を達成。2012年9月には再上場を果たし、その後の経営は順調に進んでいます。
参考:国土交通省航空局「日本航空の再生について」
まとめ
経営不振や経営破綻の状態となった企業の再生を図る再生ファンド。企業の再生に向けて、事業売却や合併などのM&Aが用いられることもあります。再生ファンドを検討している方や事業・会社の売却を考えている方、レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社にご相談ください。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、IT及びWeb、建設、製造業など幅広い領域に特化したM&Aサービスです。各領域に豊富な知識と実績のあるコンサルタントが所属しており、経営者さまのお悩みに寄り添いながら納得のいくM&Aに導きます。