創業10年で売上高5億円の成長企業。さらなる飛躍を見込んで選択した戦略的M&Aとは
譲渡企業
事業内容
SES
売上高
5億200万円
営業利益
19,369千円(22/03期)
譲受企業
事業内容
SIer
上場区分
東証プライム
譲渡金額
非公開
基本情報
【M&Aのスキーム】
株式譲渡100%
【譲渡企業】
会社名 :株式会社シンプリズム
設立 :2011年4月1日
事業内容:ITソリューションサービス/コンサルティングサービス/オフィスITサポート
上場区分:非上場
社員数 :78名
資本金 :1,000万円
売上高 :5億200万円(2021年3月期)
※M&A相談当時の情報です
2022年6月にM&Aを行い、株式譲渡を実行した株式会社シンプリズム。
創業から10年で売上高5億円を突破しており、飛躍し続けている企業さまです。
今回は株式会社シンプリズムの代表取締役・二瓶 嘉昭さまに、成長中の企業なのになぜM&Aを決断したのか、その理由や成約までの経緯などを伺いました。
実際にM&Aを実施したなかで大変だったことや、仲介会社を選ぶときのポイントについても話を聞いています。
経営者さまプロフィール
株式会社シンプリズム
代表取締役 二瓶 嘉昭 さま
SES業界の在り方に疑問を抱き、一念発起して2011年に起業。「エンドユーザー直の環境でサービスを追求できるエンジニア集団を創りたい」と考え、株式会社シンプリズムを設立した。
20代での起業、設立直前に震災もあり、周囲から反対の声も多かったが、「やらないで後悔するより、やって後悔したい」という気持ちが勝り、前進することを決意する。今日に至るまで紆余曲折はあったものの、設立12年目を迎えている。
社員により良い成長環境を用意することが、M&Aの目的
──株式会社シンプリズムについて教えてください。
二瓶さま(以下敬称略):株式会社シンプリズムの事業内容は、主にSESです。システムの設計、構築・保守・運用における技術支援を行っている会社です。「人、モノの価値を最大限に引き出すサービスを提供し、世の中をうれしくする」をモットーに、顧客の顕在、潜在ニーズを汲み取り、最適なシステム環境を提供すべく、より良いサービスを模索し続けています。
──二瓶さまは現在40代と、経営者のなかでは比較的お若いかと思います。
二瓶:そうですね。周りの経営者からは「まだ早いんじゃないか」と言われることが多かったです。
ネットで検索していると、高齢による事業承継が圧倒的多数だということは分かっていました。ただ、M&Aは引退を見据えた事業承継だけではなく、事業成長の有効な手段の一つではないかと考えておりました。
──では、M&Aを実施しようと考えた理由は何でしょうか?
二瓶:自社の長期発展を叶えるためです。私はシンプリズムの創設時から「社員(技術者)にとってより良い環境を用意する」と決めていたので、売却益ではなく、M&Aによって得られる環境が一番の目的でした。そのため、戦略的M&Aとして捉え、実施に踏み切りました。
課題であったのは、社員の技術向上と、それに伴う待遇(給与)の向上です。
これらを同時に叶えるには、エンジニアの市場価値を重視しなければなりません。時代の流れに左右されない“インフラエンジニア特化“という路線を歩んだのも、その理由の一つです。
ただし、「エンジニアとして何ができるか」が求められるなか、市場価値の高い、需要のあるエンジニアを育成するには『実務経験』を積ませることがもっとも大事であり、そのためにも、成長できる案件の受注は必須でした。
「業界としてレベルの高い職場を用意することで、社員が飛躍的に成長できる環境を整える」これは、M&Aを実施するうえで最たる理由でしたね。
──社員の成長を見据えたとき、M&Aが有効な手段だと考えた理由をお聞かせください。
二瓶:M&Aなら、一朝一夕では手に入れられない環境を得ることができるからです。大手企業が時間をかけて築き上げてきたものを活用させてもらえることは、特にSESの領域において、非常に魅力的であり、理想とする環境を手に入れるためのショートカットが可能だと考えました。
数多くのシステムを構築してきた実績を持ち、長年にわたってエンドユーザーとのお付き合いが継続していることから、我々が目指す領域(直接サービスを提供する位置)に既に到達しているわけです。M&Aを行うことによってそういったレベルが高い環境に飛び込めることは、成長を望む社員にとって大きなメリットです。刺激を受けて、格段に成長できると思いました。
「もったいない」と周りに言われても、信じていたM&Aの効果
──実際にM&Aで株式譲渡をした際、周りの反応はいかがでしたか?
二瓶:「まだ早かったんじゃないか」「右肩あがりの状態なのにもったいない」という反応がほとんどでした。経営者の知人とM&Aの話題になったときも、「売却するとしても、高値がつかない限りは売らない」と話す経営者もいました。苦労して創り上げてきた会社だから、普通はそう考えるよな……と。
会社を設立したのはちょうど東日本大震災があった直後です。震災の影響を乗り越えながら、私たちも苦労して会社を育ててきました。それゆえに会社への思い入れも深く、株式を売却することに抵抗がなかったわけではありません。
──M&Aを本気で進めようと思ったきっかけは何ですか?
二瓶:半信半疑でM&Aに向けて行動をスタートしましたが、M&Aが、社員のためになると思えるようになっていきました。そもそも自分がオーナーであるかどうかは、私にとっては特に大きな問題ではありませんでした。
シンプリズムを立ち上げた理由の一つは、エンジニアにとってより良い環境を作ることでしたので、M&Aを実施することによって「社員がエンジニアとしてさらに成長できる」という目的を果たせるのであれば、躊躇する理由はないと思えるようになったのです。M&Aの準備を進めているなかで「なんのために会社を創ったのか」という原点に立ち戻った感じです。
──社員の方々を大切にされているんですね。
二瓶:会社は人の集合体だと思っています。つまり、人が成長すれば会社が成長することと同義になります。成長させる、と一言で言うと簡単ですが、「子育て」に近い感覚かもしれません。当社は業界未経験者を積極的に採用しているため、エンジニアとしてのキャリアを当社に入社してスタートします。学ぶ環境が良質であればあるほど、蓄積されるノウハウの質もそれに応じて良くなっていく。経営者が社員に対して用意する環境は、社員の未来を左右する大きな要素だと思いますし、同時に会社の発展にも大きな影響を及ぼします。
レバレジーズのコンサルタントが後押しし、社風に合う譲渡先が見つかった
──M&Aの相手を検討するときに重視していたポイントは何ですか?
二瓶:シンプリズム社員の性質や、自社の社風と合うかどうかを確認していました。
候補企業との面談では主要経営陣が揃って面前にいますので、緊張の連続でしたが(笑)。
社長と財務担当者の方など、役員間の会話等を注視していました。人間関係が良好なのか、トップダウンの組織体制なのかはM&A後の関わり方にも影響してきますので。面談いただく立場ではありながらも、どれぐらい「人を大切にしている会社か」を少ない情報の中から分析するように心がけていました。社員がマイナスと捉えず、M&A後も今まで通りに働き続けられることは必須条件だったので、しっかり見極めるようにしていました。
──トップ面談を進めるなかで苦労したことはありましたか?
二瓶:限られた短い時間のなかで、相手の「本音と建て前」を理解することに難しさを感じました。M&Aは会社と社員の未来を左右する大きな決断になるので、一歩踏み込んだ質問もしなければならないのですが、どこまで聞いて良いのか躊躇してしまう場面もありました……。また、私自身、M&Aは初めての経験なので、どのような質問を投げかければ良いのか、適した言葉が思い浮かばないことも悩みでした。
そんなふうに思っていたので、レバレジーズM&Aアドバイザリーのコンサルタントが同席してくれたのは心強かったですね。私の代わりに踏み込んだ質問をどんどんしてくれて、かなり助かりました。M&Aに熟練している人にサポートしてもらうと、満足のいくトップ面談ができると思います。
私一人ではなかなか厳しかったと思います。
──いくつもの意向表明書を受け取ったなかで、譲受企業さまを選んだポイントを教えてください。
二瓶:まずは自社の発展にどのような作用が働くかを考えていましたので、事業内容や今後の展望などを聞き、自分達の目標となる企業様かどうかを重要視していました。それと、経営陣のお人柄ですね。私自身、M&A後も継続していくつもりでしたので、今後コミュニケーションをとらなければならない相手とのフィーリングは非常に大事にしていましたし、「私の感じ方=社員達の捉え方」だと思っていました。そういった点で好印象だった企業様を選ばせていただきました。
──譲受企業さまを選ぶ一番の決め手となったことは何でしょうか?
二瓶:社長が「とにかく人を大事にする」と公言していたことです。そして、その信念が今後も引き継がれる会社だと思えたからです。
SESの領域では、まず前提として人材を集めなければなりません。需要が増えているので、優秀なエンジニアは取り合いの状態。人を集めるためには、エンジニアにとって魅力的な会社であることが求められます。
私は人を集められる会社は「人を大事にする会社」だと考えています。譲受企業さまはリーマンショックのときでさえリストラをしないと決めて、苦しい状況を乗り越えていったそうです。
社員を大切にすることを徹底している方針であれば、安心して株主になっていただくことができると思いました。
財務面はクリーンにしておくべき!DDのスムーズさが違う
──「デューデリジェンス(DD)は煩雑そう…」と敬遠する経営者さまも多いのですが、実際にやってみていかがでしたか?
二瓶:正直すごく大変でしたね(笑)。M&Aを進めていくプロセスのなかで最も骨が折れる時間だったと思います。本来、会社経営において必要になる資料を求められるので、当たり前と言えば当たり前なのですが、当社のような小さな会社では細かく資料化していないことも多いので、あっちこっちからデータをかき集めて資料作成することが大変でした。
それと、財務面で具体的な質問や資料提出を求められる場面では、私自身に会計の知識が乏しく、言葉の理解をしなければならなかったので、Google先生には大変お世話になりました……。それでも分からないことも多く、アドバイザーさんや会計士に相談しながらなんとか進めていきました。ただ、経理畑の父の教えで、設立以来ずっと明朗な会計処理を実施してきた甲斐もあり、不透明な部分がほとんどなかったため、想像していたよりは円滑に進んだ印象です。
──財務面がすでに整理された状態だったのですね。
二瓶:普段からスタッフがきっちり細かく管理していたので、トップ面談の際、財務面の綺麗さは本当によく褒められました。問題も少なかったので、デューデリジェンスが比較的スムーズに進んだのだと思います。
トップ面談やDDを経て、不明瞭な会計処理があるかないかは会社の価値に大きく影響を及ぼすことを痛感しました。きっちりできていれば譲受企業の好評価につながります。
逆にいえば、財務面が乱雑な状態だと印象が悪くなりますし、デューデリジェンスにも余計な時間がかかってしまいます。いざM&Aを進めようとした際に「現金出納帳の金額が合わない!」なんてことがないように、日頃から綺麗に整理しておくことが大切だと思います。
キーパーソンへの伝達は慎重に。譲渡先との関係づくりも重要
──M&Aを行うことに対して、キーパーソンの方々の反応はいかがでしたか?
二瓶:M&Aに対する抵抗感を表情から感じ取りました。当然プレスリリース前なので企業名を伝えることもできず、最小限の者にしか伝えることができませんでしたが最初にM&Aについて打ち明けたときは、警戒して構えている様子でした。何度か先方と会っている私と違って、相手の会社のことをほとんど知らない状態ですから、警戒するのも無理ないですよね。
──最終的にはご納得いただけたのでしょうか?
二瓶:はい。「二瓶さんが決めたことなら」と私の意向を尊重してくれました。M&A後に先方と深い関わり合いになることが想定されていた社員とは、1対1で会話をする時間を設けて私の思いを伝えましたし、相手の気持ちを聞く場にしました。
また、M&A実施直後に、当社のキーパーソンを集め、先方の経営陣とゆっくりお話しする交流の場を設けました。序盤は緊張している様子でしたが、話しているうちに和やかな雰囲気になっていき、ホッとしましたね。最後はメチャクチャ盛り上がってました(笑)
M&Aが済んだら終わりではなく、むしろ新たなスタートですので、相手の会社との相互理解を深めることが重要だと思います。顔を合わせて直接話せる機会を作って本当に良かったと思います。
会社の未来を左右する決断だからこそ、信頼できる仲介会社を
──M&Aの仲介会社を探すときに重視していたポイントは何ですか?
二瓶:SESの業界についてどれだけ理解を示してくれるかという点です。それもただ「SES業界に関する知識を持っている」だけでなく、「SES業界の実態に精通しているかどうか」という観点でM&A仲介会社を探していました。
精通していない場合、当社が抱えている課題やM&Aで叶えたいことを伝えたとしても、本当の意味で理解できないのではないかと思います。また、譲受企業側からしたら、しばらくの間は仲介会社の担当者が窓口になるわけであり、私の代弁者となっていただくので、こちらの意図していることを汲み取ってもらえるかどうかはとても重要なポイントでした。
──数あるM&A仲介会社の中からレバレジーズM&Aアドバイザリーを選んでいただいた理由を教えてください。
二瓶:1つは担当してくださった方のうち1人が、もともとSESの業界で働いていたので、サポートについてくれるのは心強いと感じました。また、レバレジーズさんの母体がもともとSES業界で有名な企業だったのも大きな利点です。
もう1つの理由は、お互いに腹を割って話せる相手だと思えたからです。
ここは一番のポイントでした。成功報酬型の仲介会社の場合はM&Aを成立させないと料金が発生しないので、成約させるために駆け引きしてくる会社もあるだろうと思います。私はM&Aに関する知識をあまり持っていないので、「足元を見られるのではないか」と少し不安でした。そんな風に感じていたので、何を考えているのかが読めないような担当者に依頼することには抵抗がありました。
その点、レバレジーズM&Aアドバイザリーさんは正直に色んな話を教えてくれましたし、堅実さが伝わってきたんですよね。私も思っていることを正直に伝えてしまうタイプなので、腹の内を明かしてくれるところに好感を持ちました。ご担当者の誠実さと愚直さに惹かれて、レバレジーズM&Aアドバイザリーさんに決めました。
──サポートを受けるなかで、ギャップに感じられることはありましたか?
二瓶:株価評価に関してギャップを感じました。ただ、これはポジティブなギャップです。
当初は正直、「株価評価なんてしたことがないから基準が分からない」「安く叩かれるのではないか」と訝しんでいたんですよね。株価評価が高いとその分譲受企業がつきにくくなるでしょうから、せっかくのチャンスを逃してしまうのではないかと。
でも実際は逆だったんです。コンサルタントが面談の中で妥当な金額を正直に伝えてくれ、その金額に値する価値を見出してくれました。自社の強みや実績を丁寧に評価し、私にも分かりやすく説明してくれたんです。買い叩くどころか、株価評価を引き上げてくれたのがコンサルタントでした。
「ここまで親身になってサポートしてくれるものなのか!」と驚きました。
M&Aはゴールではなくスタート。中長期的なシナジー効果に期待を寄せる
──M&Aを実施した所感をお聞かせください。
二瓶:M&Aを実施してから間もないため、「社員が成長できるようなより良い環境創り」が叶っている実感は正直まだありません。シナジー効果は中長期的に現れると思うので、これからですね! M&Aはゴールではなくリスタートだと考えています。
今後、親会社のプロジェクトに当社の社員がトライできたり、プロジェクトへの参加を通して成長できたりすることが増えてくると、「M&Aをやって良かった」と実感できるのだと思います。
これからの未来がとても楽しみです。また、個人的な話ですが、上場企業の役員方とコミュニケーションを図れることで、数字に対する考え方、あるべき会社の姿などが毎度勉強になっています。
──最後に、会社を経営するオーナーさまに向けてアドバイスをお願いします。
二瓶:各企業ごとに様々な状況があるので一概には言えませんが、上昇志向がある経営者こそ、M&Aは一考に値するかと思います。孤軍奮闘することも多く、チャレンジの連続であり、向かおうとする道が正しいのかどうか不安を抱えることもあるかと思います。
そういった状況の中、M&Aを検討する過程で様々な経営者と会話する機会もあり、また自社を客観的に見る機会にもなったことで、会社設立の原点に立ち戻り、自己実現のための道筋を改めて考えることができました。私の場合はたまたま方向性やフィーリングが合う企業と知り合うことができたのでM&Aが成立しましたが、その過程を経験しただけでも大きな収穫になりました。
必要以上に慎重になり過ぎず、まずはいくつかのM&A仲介会社に相談してみるのも良いのではないかと、今であれば思うことができます。最初は「相性の良い企業は見つかるだろうか」「興味を持ってくれる企業は見つかるのだろうか」と不安を抱えていましたが、アドバイザリーさんが自社の価値を分析し、私の意向をしっかりと理解してくれたおかげで親和性の高い企業様へのアプローチを実施してくれました。結果的に複数の会社さまから意向表明書をいただくことができました。このご時世、人材が確保できていることは強みになります。人が集まり、業績が上がっているときにこそ、さらに成長していくための経営戦略としてM&Aを考えてみてはいかがでしょうか。
レバレジーズM&Aアドバイザリー 担当者コメント
M&A事業部 責任者 稲葉 康太
近年SES業界ではM&Aが活発化しておりますが、事業承継を見据えて取り組まれるケースだけではなく、様々な成長戦略を見据えて取り組まれるケースが増えてきております。
二瓶様の場合も、「社員がエンジニアとしてさらに成長できる」という目的を果たせるのであれば、というお言葉通り、従業員様の成長を軸に、あらゆる手段を模索し実行されていく中で、M&Aという手段を選ばれました。
PMI(M&A後の統合プロセス)を経て、相乗効果が発揮されていくのは先となりますが、ご自身が代表を継続されることで独自性を維持しながら、自社単体では受託が難しかった案件獲得や大手資本力を支えに長期的な安定、チャレンジングな環境を実現できる最適なお相手とのM&Aが実現できたと思います。