調剤薬局のM&Aの動向や実施するメリットを解説!価格相場の出し方も紹介
2023年9月12日
このページのまとめ
- 調剤薬局のM&Aは活発化している
- M&Aで調剤薬局を買収するメリットは「コスト削減」「人材やノウハウの獲得」など
- M&Aによって、売り手も後継者や個人保証といった問題を解決できる
- 調剤薬局のM&Aでは、従業員の離職や簿外債務などへの対策が必要
- 調剤薬局のM&Aに成功するためには、専門家の支援を受けることが効果的
「調剤薬局のM&Aの動向は?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
調剤薬局業界のM&Aは活発化しており、事業拡大や新規参入を目的としたM&Aが増加しています。適切な手段を選べば、有意義なM&Aを実施できるでしょう。
このコラムでは、調剤薬局の基礎知識からM&Aの動向、成功させるポイントまで幅広く解説します。調剤薬局のM&Aを行うメリット・デメリットや、価格の算定方法、国内における事例も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
目次
調剤薬局とは
調剤薬局は、薬剤師が調剤の業務を行うことを前提とした場所です。薬剤師が、販売、授与を目的として薬剤を調合します。そのため、調剤薬局には必ず薬剤師が常駐しているのが特徴です。
また、薬局を開設する際には手続きが必要で、「薬局開設許可申請書」を提出しなければなりません。
調剤薬局の収益は、患者と公的機関によって支払われる調剤報酬で成り立っています。
内訳は、主に以下の4つです。
- 調剤技術料(調剤基本料、調剤料、各種加算料とさらに3つに分けられる)
- 薬学管理料
- 薬剤料
- 特定保険医療材料
国の医療報酬制度によって定められており、一つひとつのサービス料・技術料・医薬品料は決まった額です。そのため、収益を増やすには「受け付ける処方箋の数自体を増やす」「技術料や薬学管理料が加算されるサービスを増やす」など、戦略的な展開が求められます。
調剤薬局と混同しやすいのが、ドラッグストアです。調剤薬局は、薬事法によって「薬剤師が調剤を行う場所」、医療法においては「医療機関の1つ」と位置づけられています。一方、ドラッグストアは、法律によって規定されている場所ではありません。
調剤薬局のM&Aの動向
調剤薬局のM&Aでは、事業拡大を目的に、大手チェーンが中小規模の薬局を買収するケースが多く見られます。
調剤薬局業界は、個人薬局が多く存在します。他業種のように、大手企業が大多数を占めている状態ではありません。そのため、今後も大手チェーンと中小規模の薬局間のM&Aが進むと考えられます。
また、調剤薬局業界に新規参入したい企業が、M&Aを積極的に活用しているのが特徴です。前述のとおり、調剤薬局を開業するためには、手続きを行い、常駐の薬剤師を確保する必要があります。企業が調剤薬局業界に新規参入することは容易ではありません。また、近年では調剤薬局の数が増加し、新規開業しにくくなっています。そのため、M&Aを活用して新規参入するケースが多い、というわけです。
M&Aによる調剤薬局の譲渡が増えている4つの理由
調剤薬局のM&Aが増加傾向にある背景には、さまざまな事情があります。
ここでは、譲渡を検討する調剤薬局が増えている4つの理由を見ていきましょう。
- 後継者不足
- 収益の低下
- 薬剤師不足
- かかりつけ薬局への転換
以下、詳しく解説します。
1.後継者不足
調剤薬局の業界に限ったことではないものの、経営陣を悩ませる問題の1つとして、後継者不足が挙げられます。
特に、小規模薬局では後継者を確保できないケースが増えている状況です。
責任者ともなれば、事業を維持・拡大していくために多くの決断をする必要があります。そのような役割を担える人材を確保するのは容易ではなく、なかなか後継者が見つかりません。
しかし、M&Aで第三者に承継すれば、この問題を解決できます。経営の意思や能力を持つ人に承継でき、後継者不足による廃業を避けられます。
2.収益の低下
収益の低下も、M&Aを検討する調剤薬局が多い理由の1つです。
調剤報酬の改定により、今後ますます調剤薬局の収益は低下していくことが予想されます。
調剤報酬による収益が基盤となっている調剤薬局では、調剤報酬の改定が売り上げに直接影響します。売り上げが低下すれば、それに伴って調剤薬局の企業価値も下がってしまうでしょう。経営が低迷する前に、売却しようと考える経営者が増加しています。
3.薬剤師不足
薬剤師不足も問題です。近年では、深刻な高齢化や医薬分業の推進によって、調剤薬局やドラッグストアの数が増えています。その結果、薬剤師の需要が高まっており、特に地方では薬剤師不足が深刻です。
また、薬剤師には女性が多いのも、人材不足が起こっている原因の1つです。出産や子育てを機に、パートタイム勤務に切り替えたり、退職したりするケースが多く見られます。薬剤師資格を持っていても、正社員として働かない方が多く存在するため、現場が人材不足に悩んでいるのが現状です。
薬剤師を新たに確保するのは難しいため、M&Aを活用しようとする動きが見られます。
4.かかりつけ薬局への転換
かかりつけ薬局へ転換するために、人材や資源を新たに調達する必要性が生じているのもポイントです。
国は、患者が同一の薬局を利用する「かかりつけ薬局」を推奨しています。医療分業を確立し、薬剤に関して薬剤師が専門的な機能を発揮しやすくするためです。薬剤師が「かかりつけ薬剤師」としての業務を担うと、薬学管理料が加算されます。
「かかりつけ薬局」になるためには、在宅患者への対応や終日の対応が必要です。そのため、業務効率化や人材確保、設備の導入などが求められます。
人材や資源を調達するために、M&Aを検討することは有効であるといえるでしょう。
調剤薬局のM&Aの価格相場
調剤薬局M&Aにおける買収価格は、企業価値評価に基づき、最終的には交渉で決まります。価格を左右するポイントは非常に多く、「相場は〇〇万円です」と一概に決めることは難しいです。自社の企業価値を知りたい方は、M&Aの専門家に算定を依頼しましょう。
また、M&Aを行うにあたって、価格を決める基準と算定方法について理解しておくことが大切です。
以下では、調剤薬局M&Aの価格相場を決める3つの基準と、売却価格の3つの算定方法について解説します。
調剤薬局M&Aの価格相場を決める3つの基準
調剤薬局M&Aの価格を決定する基準は、以下の3つです。
- 時価純資産価額
- 営業権
- 技術料と処方箋応需枚数
以下、それぞれについて詳しく解説します。
1.時価純資産価額
時価純資産価額とは、企業が保有する純資産を時価に直した価額のことです。
譲渡側の所有する資産のうち、負債を除いたものを「純資産」と呼びます。資産とは、預金や株式のほか、調剤機器や調剤報酬明細書を作成するためのレセプトなどの設備、不動産、医薬品の在庫などのことです。
この「資産」から負債を控除した「純資産」を時価に換算して相場を算出した金額が、時価純資産価額であり、これが売却する際の価格の土台となります。
2.営業権
価格相場を左右するものの1つに、営業権があります。営業権とは、譲渡以降3~5年のうちに得られる営業利益を予測した無形資産です。
譲渡する調剤薬局に、将来の損失につながるリスクがあるときは、その分を売却値から差し引いて算出します。
反対に、売却以降に付加価値が加わる見込みであれば、その分をプラスして価格を算出します。
そうして算出した1年間で得られる利益が、その企業の価値とみなされるわけです。
3.技術料と処方箋応需枚数
月に加算される技術料と処方箋応需枚数も、価格相場を決める要素の1つです。この2つを把握することにより、調剤薬局の1か月の売上予測がつきます。
営業権同様、収益に関する情報は譲渡する調剤薬局の価値を計るために重要な項目といえます。
ただし、「売上はこの2つがすべてではないこと」「診療報酬の改定により調剤技術料は減少傾向にあること」などの点は見逃せません。
企業価値評価の3つの算定方法
調剤薬局M&Aで売却価格を算定するための方法には、以下の3つがあります。
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
- コストアプローチ
以下、それぞれについて詳しく解説します。
1.マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、譲渡する調剤薬局と同規模の薬局が、どのくらいの価格で売買されたかを参照する方法です。市場の価格相場をもとにする、と考えるとわかりやすいでしょう。
類似度の高い複数企業の売買実績を基準に算定します。
類似度の判定には、規模のほかに立地やこれまでの実績、市場でのポジションなどさまざまな条件が関与します。
妥当な企業を選定できれば、信頼度の高い算定が可能です。客観的な評価が得られる方法といえるでしょう。
2.インカムアプローチ
インカムアプローチは、将来生み出すであろう収益に着目する算定方法です。調剤薬局の譲渡後に抱えうるリスクがあれば、その分を差し引いて価格を決定します。
過去の実績よりもこれからの未来に焦点を当てて算出する方法です。M&Aは将来性を重視するため、相性の良い算定方法といえます。
ただし、不確定要素を見込みによって判断するため、予定した収益には至らなかったということも充分に起こりうる点に注意が必要です。投資を回収しきれないリスクを防ぐためには、現実的で公平な試算を行いましょう。
3.コストアプローチ
コストアプローチは、前述の時価純資産額に営業権を加味した算定方法です。現在の企業価値と将来性を合わせた評価がなされます。貸借対照表から負債を除いた純資産額から、売却価格を算出するのがポイントです。
企業の純資産に着目したものであるため、「純資産法」ともいわれます。
貸借対照表があれば算定できる方法であるため、比較的容易に行うことができて、客観性が高いのがメリットです。中小企業のM&Aにおいてはよく用いられる算定方法です。
調剤薬局M&Aを実施する買い手側の4つのメリット
調剤薬局におけるM&Aで買い手側が得られるメリットは、主に以下の4つです。
- コストが削減できる
- 人材を確保できる
- 事業を拡大できる
- ノウハウを獲得できる
以下、詳しく解説します。
1.コストが削減できる
M&Aによって複数の調剤薬局を経営することで、コストの削減につながるのがメリットです。一度に大量の仕入れが可能になるため、スケールメリットがはたらき、買い手側は流通コストを削減できます。個人経営の調剤薬局よりも医薬品の単価を下げることが可能となり、全体の売上アップにもつながるでしょう。
また、複数の店舗で運営手法を共有できるため、効率化を図れる点もメリットです。
このように、調剤薬局をM&Aで買収することにより、コストの削減を実現できます。
2.人材を確保できる
M&Aによって、薬剤師を確保しやすくなるのもメリットです。
前述のとおり、薬剤師の不足に悩まされている調剤薬局は多いです。
M&Aによって従業員ごと譲受できれば、一から人材を確保する必要がなくなります。複数の調剤薬局を経営するのであれば、従業員を別店舗に派遣することも可能です。
そのため、戦略として積極的に調剤薬局を買収し、人材を確保している企業も存在します。
薬剤師を多数抱えている薬局ほど、買い手からの需要は高いといえます。
3.短期間で事業を拡大できる
短期間で事業拡大を実現できることも、調剤薬局M&Aで買収する大きなメリットです。
M&Aによって複数の店舗を同時に展開させていくことで、グループの知名度が上がり、収益につながります。
もともと大きな収益を上げてきた企業を買収できれば、全体の利益は大幅にアップするでしょう。規模の大きい調剤薬局では、優れた人材を抱えている可能性も高く、結果として、全体の業務効率がアップすることも期待できます。
4.ノウハウを獲得できる
調剤薬局M&Aによって、買収先の企業が持っているノウハウを獲得できる点も大きな魅力です。
かかりつけ薬局が推奨されていることもあり、調剤薬局はその地域に合わせた運営が求められます。しかし、本部を中心とした経営では、地域に応じた細部のケアが不十分になる可能性が否定できません。
そのリスクを解消するのがM&Aです。調剤薬局をM&Aで買収すれば、もともとその地域で収益を上げてきた薬局の運営スキルや業務スキルを獲得できます。
また、調剤業務に直接的に関わるノウハウだけでなく、雑貨の販売やセミナーの開催など、店舗ごとに維持されてきた特色も損なうことなく継承できます。
調剤薬局M&Aを実施する売り手側の4つのメリット
調剤薬局M&Aを実施する売り手側のメリットとしては、以下の4つが挙げられます。
- 後継者問題を解消できる
- 創業者利益を得られる
- 個人保証や担保を解消できる
- 従業員の雇用を引き継げる
以下、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1.後継者問題を解消できる
売り手側の大きなメリットとして、後継者問題を解消できる点が挙げられます。
前述のとおり、調剤薬局業界では、後継者問題に悩んでいる経営者が多く存在します。特に、小規模経営の店舗では、従業員や親族から妥当な後継者を選出し、承諾をもらうことが難しくなっているのが現状です。
M&Aの実施によって第三者に事業を引き継いでもらえれば、後継者問題を解決できます。
2.創業者利益を得られる
M&Aで売却することで、創業者利益を確保できるのも魅力です。
一般的に、後継者不足の問題を理由に廃業するとなると、廃業コストがかかります。経営者は事業を継続できないばかりでなく、負債を抱えることになるでしょう。
一方、M&Aを実施すれば、売却によって創業者利益を得られます。調剤薬局を譲渡した後に別の事業を始めたり、新たに起業したりする際に必要な資金として活用可能です。
3.個人保証や担保を解消できる
個人保証や担保が解消できる点も、売り手側のメリットとして挙げられます。
小規模経営の店舗では、調剤薬局自体が経営者個人の資産として登録されています。それと同様に、個人保証や担保も経営者個人の名義で組まれているケースが多いです。
M&Aを行うことで、それらすべてを一括して引き継いでもらえるため、リスクや重責から解放されることになります。
4.従業員の雇用を引き継げる
従業員ごと買い手企業に引き継ぐ場合は、従業員の雇用を守ることにつながります。
薬局を廃業させるとなると、従業員の雇用は失われてしまい、従業員は次の就職先を探さなければなりません。
一方、M&Aを実施すれば、基本的に従業員の雇用も継続されます。M&A実施前と同条件で雇用が継続されるケースが多いため、従業員にとっても安心です。大手企業に買収されれば、従業員は大企業のグループ社員として働けるようになり、喜ばれるでしょう。
調剤薬局M&Aを実施する買い手側の2つのデメリット
一方、調剤薬局のM&Aにはデメリットも存在します。メリットだけでなく、デメリットについてもよく理解したうえで、M&Aを実施するか検討しましょう。
買い手側のデメリットは、以下の2つです。
- 簿外債務を抱える可能性がある
- 従業員が離職する恐れがある
以下、それぞれの詳細を解説します。
1.簿外債務を抱える可能性がある
調剤薬局M&Aで買収するデメリットの1つが、簿外債務を抱えるリスクがあることです。
M&Aの手法として株式譲渡を選択した場合、資産や負債はすべてまるごと引き継がれます。もし、売り手が負債について通知しないままM&Aを決行した場合、買収後に簿外債務が発覚し、買い手が簿外債務を抱えてしまいます。
そのような事態に陥らないためには、企業監査を徹底し、デューデリジェンスで問題がないかを慎重に調査することが重要です。
2.従業員が離職する恐れがある
従業員が離職するリスクも、調剤薬局M&Aの買い手側が抱えるデメリットの1つです。
買い手によっては、M&Aの実施に伴い、労働環境や雇用条件、具体的な業務内容などが変化する可能性があります。これまでの環境や業務に親しんできた従業員から、反感を買うリスクは否定できません。その結果、M&A後に従業員が離職してしまう可能性があります。
また、売り手側と買い手側の従業員間で、不和が生じるリスクも考えられます。企業文化や業務のやり方、給与水準の違いなどをめぐって社内で分裂が生じると、適切なシナジー効果を得られません。むしろ、マイナスの効果を生んでしまう可能性もあります。
M&Aについて従業員に説明し、納得してもらうことが大切です。また、名ばかりの統合にならないようにするために、買い手の経営陣には、従業員のケアを率先して行うことが求められます。
調剤薬局M&Aを実施する売り手側の2つのデメリット
調剤薬局のM&Aにおいて、売り手側にとってのデメリットは以下の2つです。
- 従業員が離職するリスクがある
- 顧客や取引先の反発を受けるリスクがある
以下、それぞれ解説します。
1.従業員が離職するリスクがある
従業員が離職するリスクがあることは、買い手だけでなく、売り手にとっても大きなデメリットです。
基本的には、薬剤師を含む従業員は買い手の企業に引き継がれます。M&A成立後には、従来の労働環境との違いに悩み、離職してしまう可能性が否定できません。
ただでさえ人材が不足している薬剤師や、これまで貢献してきてくれた優秀な人材が離職してしまうことは、企業やサービスの質を下げることにつながります。
従業員が辞めてしまう事態にならないよう、事前に説明したり、買い手に従業員への配慮を促したりしましょう。
2.顧客や取引先の反発を受けるリスクがある
調剤薬局M&Aにおける売り手側のデメリットとして、これまでの顧客や取引先から反発を受けるリスクがある点が挙げられます。
買収によって医薬品の購入窓口である営業担当者が替われば、前任者とまったく同じように業務を遂行することは難しいでしょう。そのため、取引先には多少なりとも負担がかかります。
また、薬剤師が替わるとすれば、顧客のおくすり手帳の管理が充分に引き継がれない可能性も出てきます。そのような事態があれば、顧客が不安や不自由を感じることもあるでしょう。
買い手への引き継ぎをしっかりと行い、顧客や取引先が安心できる体制を構築する必要があります。
調剤薬局のM&Aで買収する際の4つのポイント
調剤薬局のM&Aをスムーズに進め、M&Aを行うメリットを享受するためには、以下のポイントを理解しましょう。
- M&Aの目的を明確にする
- デメリットの対策を講じておく
- 主な処方元となる病院などの理解を得る
- M&Aのプロに相談する
以下、それぞれのポイントを解説します。
1.M&Aの目的を明確にする
調剤薬局M&Aの目的を明確にしておくことは、買収における重要なポイントです。
目的をはっきりさせていないと、適切な手法を選べません。M&Aには、株式譲渡や事業譲渡合併など、複数の手法があります。目的によって戦略的に計画することが、事業の維持・拡大のためには必要です。まずは目的を定めてください。
目的を明確化し、有効な手法を検討するためには、M&Aの仲介会社に相談することもおすすめです。プロの立場から、さまざまなアドバイスをしてもらえます。
2.デメリットの対策を講じておく
調剤薬局M&Aで生じうるデメリットに対して策を講じておくことも欠かせません。
前述のとおり、M&Aを実施することにはさまざまなメリットがある一方、デメリットも存在します。簿外債務や従業員とのすれ違いなど、起こりうる問題点を事前に洗い出し、対策しておくことが大切です。問題発生時の対処法も考えておけば、落ち着いて対処できます。
3.主な処方元となる病院などの理解を得る
地域の病院やクリニックを主な処方元としている調剤薬局を買収するときには、処方元の理解を得ておくことが重要です。
調剤薬局M&Aによって取引が中止されるようなことがあれば、期待していた収益を得られず、経営が傾いてしまう可能性があります。
丁寧にコミュニケーションをとることで、M&A締結後も良好な関係を維持できるでしょう。処方元の不安を取り除き、円滑なM&Aを目指してください。
4.M&Aのプロに相談する
M&Aのプロフェッショナルである仲介会社に相談することも、買収を成功に近づけるポイントです。
M&Aを実施するためには、専門的な知識や知見が必要です。M&A仲介会社は、交渉を進めるためのスキルや豊富な経験を有しています。
特に、調剤薬局業界でのM&A実施は、人材確保や許可証の取得などクリアすべき点が多いです。M&Aを進めるハードルが高く、時間もかかるでしょう。
調剤薬局のM&Aに成功するためには、M&Aのプロが持つネットワークやノウハウを積極的に活用するのが効果的です。
国内薬局の3つのM&A事例
最後に、国内における調剤薬局のM&A事例を3つ紹介します。
- アインホールディングス×ファーマシィホールディングス
- マツモトキヨシ×ココカラファイン
- クオールホールディングス×勝原薬局
事例の概要やM&Aに至った背景について紹介しているため、M&Aを検討している方は参考にしてください。
以下では、それぞれの事例について解説します。
アインホールディングス×ファーマシィホールディングス
株式会社アインホールディングスは、2022年5月、広島県に本社を構える株式会社ファーマシィホールディングスをグループ化しました。
アインホールディングスは、東証プライム市場に上場しており、全国で約1,100 店舗の薬局を運営する、大手企業です。
ファーマシィホールディングスは、経営ビジョンを実現するために、経営理念や企業風土に多くの共通点があるアイングループに参画することが有効と判断しました。M&Aによって、会社が成長するだけでなく、従業員にとっても活躍や挑戦の場が広がる、としています。
このM&Aでは、ファーマシィホールディングスの会社の商号と、ファーマシィ薬局のブランドは、M&A後も継続しているのがポイントです。
参照元:株式会社ファーマシィ「アイングループへの参画に関するお知らせ」
マツモトキヨシ×ココカラファイン
株式会社マツモトキヨシホールディングスは、2021年2月、株式会社ココカラファインとの経営統合契約および株式交換契約を締結しました。
経営統合に至った背景として、ドラッグストア・調剤薬局業界の変革が挙げられます。ライフスタイルや社会構造などが変化する中、勝ち残るためには経営統合が必要であると判断した、といいます。
経営統合により、「株式会社マツキヨココカラ&カンパニー」として、2021年10月には売上高1兆円、店舗数3,400超を誇る、大規模な企業が誕生しました。
社会・生活のインフラ企業として、ヘルス&ビューティの分野で存在感を発揮し、中長期的に企業価値を高めるとしています。2026年3月期には、グループ売上高1.5兆円を目指す方針です。
参照元:株式会社ココカラファイン「株式会社マツモトキヨシホールディングスとの経営統合に関するご案内」
クオールホールディングス×勝原薬局
クオールホールディングス株式会社は、2021年1月、株式会社勝原薬局の全株式を取得し、グループ化しました。株式会社勝原薬局は、兵庫県姫路市を中心に11店舗の調剤薬局を運営する企業です。
クオールホールディングスは、100年以上にわたって地域社会に貢献してきた勝原薬局を買収することで、地域に密着した「かかりつけ薬局」を目指し、地域医療や在宅医療に貢献するとしています。
参照元:クオールホールディングス株式会社「調剤薬局 11 店舗を運営する株式会社勝原薬局の株式取得に関するお知らせ」
まとめ
本コラムでは、調剤薬局のM&Aについて、動向やM&Aを行うメリット、成功のポイントや事例などを解説しました。
M&Aを活用することで、売り手は後継者不足や個人保証といった課題を解決できます。買い手にとっては、店舗数を増やして事業を拡大できたり、調剤薬局事業に新規参入するハードルが下がったりするのがメリットです。
調剤薬局のM&Aをスムーズに進めるためには、M&Aのプロである仲介会社のサポートを受けましょう。
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