休眠会社とは?法人が休眠するメリットや手続きを解説

2024年3月15日

休眠会社とは?法人が休眠するメリットや手続きを解説

このページのまとめ

  • 休眠会社とは事業活動を行わず、最後の登記から12年を経過した株式会社を指す
  • 休眠会社のメリットは「廃業費用がかからない」「いつでも復活できる」など
  • 休眠会社のデメリットは「税務申告が毎年必要」「みなし解散の恐れがある」など
  • 休眠会社にするときも休眠会社を復活させるときも、手続き自体に費用はかからない
  • 事業継続が難しいときは、休眠以外にも廃業やM&Aを検討できる

後継者不足や他の事業が忙しいなどの理由で、事業継続が難しくなるときがあります。そのようなときは、会社を休眠状態にする「休眠会社」を検討できるかもしれません。

本記事では、休眠会社のメリットやデメリットについて解説します。会社を休眠させる手続きや費用、休眠以外の選択肢、それぞれの選択肢を選ぶメリット・注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてください。また、相談先も紹介します。

「休眠会社」とは

まずは、休眠会社の意味や目的について知識を深めていきましょう。

休眠会社の意味

休眠会社とは、一般的には長期間において事業活動を行っていない法人のことを指します。しかし、法律上においては厳密な定義があり、「株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したもの(会社法第472条1項)」と定められています。

株式会社においては、古くから存在する会社であれば2年おきに、会社法制定後に設立された会社であれば10年で役員の任期が終了し、役員の改選を行うのが本来のルールです。役員を改選した際には「役員変更登記」を行う必要がありますが、その期間を超過して12年間まったく登記が行われていない場合は自動的に「休眠会社」として扱われます。

また、最後に行った登記手続きから12年以上が経過していないケースにおいても、経営者自身の判断によって休業の届出を行えば会社を休眠状態にすることが可能です。

なお、有限会社や合同会社の役員には任期がないことから、これらの会社においては最終の登記申請日から12年を超過しても休眠会社になることはありません。

出典:法務省「平成十七年法律第八十六号 会社法」

会社を休眠させる目的は?

会社を休眠させる目的はさまざまですが、一般的によくある理由は以下の通りです。

  • 代表取締役の死亡や高齢化、病気など
  • 事業再生に向けた準備期間を確保するため
  • 経営者がほかの事業に忙しく、経営活動がストップしている

なかには事業の存続が難しいものの資金不足で廃業できず、ひとまず休眠会社にして様子を見る経営者も存在します。廃業するには登記手続き費用や官報公告費用のほか、弁護士・税理士への相談料、在庫・設備等の処分費用といったまとまったコストがかかるためです。

休眠会社にする4つのメリット

休眠会社にすることで得られるメリットは、主に下記の4つです。

  • 一部税金の支払いが免除される
  • 廃業にかかる費用を抑えられる
  • 手続きを行えばいつでも復活させられる
  • 再開時に許認可の再取得が必要ない

具体的にどのような利点があるのか、以下で詳しく見ていきましょう。

1.一部税金の支払いが免除される

休眠会社の期間中は事業活動を実施していないため、必然的に法人税や法人事業税、消費税の支払いは発生しません。また、自治体によっては、所得の有無に関係なく毎年約7万円が課税される法人住民税の均等割りに関しても、休眠の届出によって一部免除される場合があります。

2.廃業にかかる費用を抑えられる

廃業時に発生する各種費用を抑えられることも、休眠会社にするメリットのひとつです。

廃業時には解散の登記から清算結了の登記まで合計41,000円の登録免許税が発生するほか、官報公告費用として約3万円、さらには解散登記を司法書士に依頼したり、税理士や弁護士などに相談したりした際には10万円~20万円程度の手数料がかかります。その点、休眠状態にすればそういった高額な費用はかからず、手続きの手間も省くことが可能です。

3.手続きを行えばいつでも復活させられる

もし廃業する場合、届出が受理されるとその後で同じ企業名で営業活動を実施することはできなくなります。それに対して休眠会社の場合は、税務署等へ申請すればいつでも事業を復活させられます。

たとえば経営者がしばらくの間持病の治療に専念することになり、「今は事業を停止したいけれどいずれは再開したい」と考える場合もあるでしょう。そういったケースでは廃業するのではなく休眠会社にしておくことで、回復後のスムーズな事業復活を目指せます。

4.再開時に許認可の再取得が必要ない

もし廃業後に新規で事業を行う場合、許認可が必要な事業であれば、たとえ同業種であっても管轄の行政庁からの許認可を再取得しなければなりません。しかし、休眠状態にしておけば休眠前に取得した許可を引き続き持続させられるため、再開時に改めて許認可を取得する必要がないこともうれしいメリットです。

休眠会社にする4つのデメリット

休眠会社には先述のようなメリットがあるものの、下記のようなデメリットも4つ存在します。

  • 税務申告を毎年行う必要がある
  • 固定資産税の支払いが発生する可能性がある
  • 役員の変更登記を行わなければならない
  • 放置すると「みなし解散」の恐れがある

それぞれの具体的な内容については以下の通りです。

1.税務申告を毎年行う必要がある

休眠会社の届出を行って一切の事業活動を実施していないケースにおいても、毎年決算を実施して税務申告を行わなければなりません。手続きの手間がかかるほか、税理士などの専門家に税務申告を依頼する場合はその手数料が毎年発生する点に注意しましょう。

2.固定資産税などの税金が発生する可能性がある

法人として土地や家屋といった不動産を所有している場合は、休眠状態であるかどうかに関わらず固定資産税が課せられることも大きなデメリットです。ただし、同一の市区町村内における課税標準額が土地であれば30万円、家屋であれば20万円未満の場合は支払いが免除されます。

3.役員の変更登記を行わなければならない

休眠期間中においても役員の任期は経過するため、任期の満了時には役員交代が必要です。そのため、最長でも10年に1回は役員の変更登記を行わなければなりません。

なお、役員変更登記の届出には「任期満了後2週間以内」と期限が定められており、万が一その期間中に届出を行わない場合は100万円以下の過料が課せられるため注意しましょう。

4.放置すると「みなし解散」の恐れがある

最終登記日から12年が経過し、役員の変更登記を行わずにそのまま放っておくと「みなし解散」となる恐れがあるため注意が必要です。

みなし解散とは、登記申請をしないまま長期間放置している会社を法務局が強制的に解散させることです。執行前に法務大臣から「みなし解散の対象である」旨の文書が届くため、みなし解散を防ぐためには公告日から2か月以内に該当の登記申請を行うか、「まだ事業を廃止していない」といった内容の申告を行う必要があります。

もし手続きを行わないまま放置した場合は登記官の職権によって解散登記が行われますが、解散登記後すぐに会社が消滅するわけではありません。解散登記から3年以内に会社継続の決議を行い、それから2週間以内に会社継続の登記申請を行えば、みなし解散の状態から脱却できます。

休眠会社にするための手続きと費用

休眠会社にしたい場合は、管轄の税務署や都道府県税事務所、市区町村役場等への届出が必要です。各行政機関への提出書類については以下をご確認ください。

休眠会社の届出を行う行政機関提出書類
管轄の税務署・異動届出書(休業の旨を記載する)
・給与支払事務所等の廃止届出書(廃止の欄の「休業」の箇所にチェックマークを入れる)
・消費税の納税義務者でなくなった旨を記載した届出書
都道府県税事務所・市区町村役場異動届出書(休業の旨を記載する)
年金事務所健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届
労働基準監督署労働保険確定保険料申告書
公共職業安定所(ハローワーク)雇用保険適用事業所廃止届

なお、休眠会社の届出にあたっては、手数料等の費用がかかることはありません。ただし、税理士や社会保険労務士といった専門家に依頼して各種書類を準備する場合は、依頼内容に応じた手数料が発生します。

休眠会社を復活させるために必要な手続きと費用

休眠会社の復活にあたっては、休眠会社にする手続きと同様に手数料がかかることはありません。事業を再開するタイミングで下記の4つの作業を行い、事業活動の再開準備を進めましょう。

  • 1. 各種書類の提出
  • 2. 青色申告の取消通知があったかどうかを確認
  • 3. 滞納している税金の有無を確認
  • 4. 休眠状態中のお金のやりとりの有無を確認

具体的にどのような作業を行う必要があるのか、以下で詳しく解説します。

1.各種書類の提出

休眠会社の復活にあたっては、休眠会社にする手続きと同様に手数料がかかることはありません。事業を再開するタイミングで下記の4つの作業を行い、事業活動の再開準備を進めましょう。

  • 1. 各種書類の提出
  • 2. 青色申告の取消通知があったかどうかを確認
  • 3. 滞納している税金の有無を確認
  • 4. 休眠状態中のお金のやりとりの有無を確認

具体的にどのような作業を行う必要があるのか、以下で詳しく解説します。

2.青色申告の取消通知があったかどうかを確認

休眠期間中に青色申告の取消通知が届いていないかどうかも、復活前にしっかりと確認しておきましょう。2期連続で確定申告を行わずにいると青色申告が取り消され、青色申告の特典が受けられなくなる恐れがあるためです。

なお、青色申告が取り消された場合は、再度税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。もし通知の有無が不明であれば、所轄の税務署へ問い合わせてみるとよいでしょう。

3.滞納している税金の有無を確認

それまでに滞納している税金がないかどうかも確認し、ある場合は休眠会社を復活させる前に精算しておきましょう。そのままにしておくと会社としての信頼が損なわれ、事業拡大等に向けて金融機関などから借入れを行うことが難しくなる恐れがあります。

4.休眠状態中のお金のやりとりの有無を確認

休眠会社の期間中に取引先からの入金や預金金利の受取といったお金のやり取りがなかったかどうかもチェックしましょう。もし発生していた場合は、それまでの分をまとめて確定申告を行う必要があります。

休眠会社以外の選択肢

事業継続が難しいときは、会社を休眠させる以外にも、次の選択肢を検討できます。

  • 廃業
  • M&A

それぞれの選択肢を選ぶメリットと注意点について解説します。また、休眠を選択する場合との違いについても説明するので、ぜひそれぞれの選択肢を比較し、自社にとって適切な手法を見つけてください。

廃業

廃業とは、自主的に会社を解散し、事業そのものを廃止することです。休眠は会社自体は残して事業活動を一時的に休止することですが、廃業は会社を解散して事業を廃止する行為のため、将来的に事業を復活させることはできません。将来的に既存事業を再興することはないと判断したときに、廃業を選択します。

メリット

  • 倒産を回避できる
  • 経営から解放される

注意点

  • 今まで築いてきた事業やお取引が消滅する
  • 資産処理が必要になる
  • 廃業費用がかかる

廃業を選択するメリット

経営状況が思わしくなく、一時的に休眠会社となっている場合は、事業を再開しても状況が改善されず、倒産することになるかもしれません。しかし、廃業すれば事業も会社もなくなるため、倒産することはありません。将来、何らかの形で経営に関わる場合も、「倒産・破産した」よりは「自主的に廃業した」ほうが印象が良いと考えられます。

また、廃業すると将来的に事業を再興させることがないため、経営から解放されます。経営を負担に感じていた場合なら、仕事面だけでなく心理的にも楽になるでしょう。

廃業を選択する際の注意点

廃業は休眠とは異なり、将来的に事業を再興するという選択肢を放棄することです。今まで築いてきた事業やお取引が消滅してしまいます。

また、廃業するときは、会社を清算して資産処理をしなくてはいけません。解散登記費用や清算結了登記費用、官報への解散公告掲載費用、在庫や資産の処分費用などがかかります。設備や施設を処分するには多額の費用がかかることもあるため、廃業を決意する前におおよその費用を見積もっておきましょう。

M&A

M&Aとは、会社や事業を売買したり合併したりすることです。事業継続が難しいときは、一時的に会社を休眠させるのではなく、会社を売却して手放すことも検討できます。M&Aにはさまざまな手法がありますが、ここでは会社そのものを譲渡した場合について見ていきましょう。

メリット

  • 後継者問題を解決できる
  • 会社売却により利益を得られることがある
  • 会社そのものは存続できる
  • 従業員の雇用も維持できる

注意点

  • 取引先とトラブルが生じることがある
  • 希望した条件で売却できないことがある
  • 売却そのものが成立しないことがある
  • 競業避止義務が課せられることがある

M&Aを選択するメリット

会社を売却すれば、買収した会社が事業を引き継ぐため、後継者問題を解決できます。後継者不在のために一時的に休業しているのであれば、M&Aにより根本的に問題を解決できるでしょう。

会社を売却することで売却益が入ることもあります。ブランドや知名度、信頼性などが評価されて、期待以上の価格がつくこともあるかもしれません。

売却すれば会社の経営権は他社に移りますが、会社そのものは残せる可能性があります。社名やブランド名が残るだけでなく、会社がさらに発展する可能性もあるでしょう。

また、従業員の雇用を維持できるのもメリットです。今まで働いてくれた従業員の生活を守るためにも、休眠や廃業ではなくM&Aを検討できます。

M&Aを選択する際の注意点

経営者が変わることで、今までとは同じような取引を継続できなくなる場合には、取引先とトラブルになるかもしれません。取引量が急激に減ったり、取引そのものがなくなったりすることで、取引先に経済的なダメージを与える可能性もあります。

また、会社を売却しようにも、条件に合う相手が見つからないこともあります。期待したよりも売却価格が低額であったり、複数の事業を手掛けている場合なら一部事業しか買い手がつかなかったりすることもあるでしょう。

場合によっては、買い手が見つからない可能性もあります。売りたくても売れないときは、休眠か廃業を検討するしか選択肢がありません。

M&Aの契約によっては、競業避止義務を課せられることがあります。競業避止義務とは売り手に課せられる義務で、一定期間は同一エリアや近隣エリアで売却した事業に関われません。会社を手放してから、同じ業種で新事業を始めようと考えている場合は、M&Aではなく廃業を選ぶ必要があります。

休眠手続きや廃業、M&Aに関する相談先

会社を休眠させるか、あるいは廃業やM&Aを選択するか迷ったときは、信頼できる専門家に相談してみてはいかがでしょうか。相談先と相談に適したケースは、以下をご覧ください。

相談先料金M&A廃業休眠
金融機関案件による対応可案件による案件による
顧問税理士、顧問会計士顧問料に含まれる案件による対応可対応可
事業引継ぎ支援センター無料案件による対応不可対応不可
M&A仲介会社案件による対応可対応不可対応不可

金融機関

経営上の問題を抱えているときは、金融機関に相談できます。場合によっては融資を受けることで解決できるかもしれません。また、すでに融資を受けている場合なら、リスケジュールや融資の一本化などのサポートを受けられることがあります。

金融機関によっては、M&Aのサポートを実施していることもあります。企業規模が大きい場合はメガバンク、地域内で売却する場合は地方銀行や信用金庫などに相談してみましょう。

顧問税理士、顧問会計士

経営上の問題を抱えているときは、顧問税理士や顧問会計士に相談してみてください。会社の現状を詳細に把握しているため、適切なアドバイスを得られます。廃業や休業を選ぶべきか、それとも融資を受けて事業継続するほうが良いのかなど、具体的に教えてもらえるでしょう。

また、廃業や休眠会社を設立する際の手続きも、サポートしてもらえる可能性があります。しかし、M&Aを選ぶ場合は、実質的なサポートを得られない可能性があるため、次に紹介する事業引継ぎ支援センターやM&A仲介会社に相談してみましょう。

事業引継ぎ支援センター

事業引継ぎ支援センターは、事業承継のサポートを得られる公的サービスです。承継先の企業を紹介してもらえるだけでなく、手数料無料のため、利害関係のない公平なアドバイスを得られる点がメリットです。

しかし、まだ実績が豊富とは言い難く、理想に叶う企業を紹介してもらえるとは限りません。また、廃業や休眠についてのサポートは得られない点にも注意が必要です。

M&A仲介会社

廃業・休眠会社以外の選択肢を検討している場合は、M&A仲介会社に相談できます。M&A仲介会社では、売却先の紹介から売却成立までトータルでサポートしてくれるため、手間をかけずに売却を実現できます。

会社売却以外の方法、たとえば合併や一部事業のみの売却などにも対応しているため、経営状態や経営者の希望を反映した解決ができる点も特徴です。ただし、手数料が発生するので、事前に見積もってもらいましょう。

まとめ

会社の休眠には、一部税金の支払いが免除されたり、比較的簡単に事業を復活できたりといったメリットがあります。一時的に事業活動を行えないときは、検討してみても良いかもしれません。ただし、休眠中も毎年税務申告が必要になるだけでなく、みなし解散とされてしまう点もある点に注意が必要です。休眠会社にする前に、廃業やM&Aと比較し、適切な選択をしてください。